人魚の王子様 人間編
一ヶ月とは早いもので‥僕は今日、人間になれる日。いつものように二人の城へ遊びに行き、夜中は騒いで調子のって酒やワインを飲んでいたらいつの間にか爆睡してて‥気付いた時には朝の11時を回っていた。
うわぁ‥時間を無駄にした気分。
それにしても昨日のサクライの酔っ払い振りは凄まじかった。正直鬱陶しく感じたが、今は何事もなかったかのようにケロッとしているし、僕が起きるずっと前から一人で片付けをしてたりしていた。
そんなサクライにさっき温かいスープを出され、それで眠気覚ましをする。サカザキは二日酔いが酷くて起き上がれない状態だった。大丈夫かなぁ‥。
「タカミザワ、お前動ける?」
“うん”
「ちょっと外を散歩するか?」
“いいよ”
サクライに誘われ、僕はスープをグッと飲み干してから彼の後ろに付いて行った。サカザキは行かないそうだ。そりゃそうか‥。
城から出て、浜辺を二人で歩いていると潮風が気持ちよく僕達を包んでくれる。そんな風がふわっと揺れる僕の少し短くなった髪と遊んでくれてるように感じた。
ちょっと残っていた酔いが何処かへと消えてしまう程気持ち良かった。
「俺さ、酒飲むと鬱陶しいだろ?」
“とっても‥”
「ごめん、記憶ないんだわ‥。どうにかしないとダメだよなコレ。女性の前であんな醜態晒せないよ‥」
頭を抱えるサクライは、相当困ってるようにも見えた。失礼だが、あの時だけは紳士的な部分が一切見られなかった。しかし本人は意外と自覚があるようで、後悔はしてるらしい。
それだけで僕は偉いと思うな。
歩くのが疲れた僕を見て、サクライが「休む?」と聞いてくれた。それにこくんと頷けば、サクライは僕の手を取って近くの岩場へと連れて行ってくれて、そこで足を海に浸けながら暫く休んでいた。
「あれ、タカミザワの足だけ尾ひれに戻ってるぞ?」
人間の間でも海に浸かれば姿が人魚に戻ってしまうらしい。しかし、これは僕の意思と関係あるらしく、常に人間で居たいと願えば海の中でも人間のままなんだって。
今は何も考えてなかったから尾ひれだけ戻ってしまったんだ。
「やっぱ綺麗だよな‥タカミザワの尾ひれ‥」
“ありがとう‥”
「人間の間は瞳が青くなくて残念だよ。あんなに引き込まれる瞳を持った人は見た事ない」
“所詮人魚だからね”
困ったように僕が笑えば、サクライは「ごめん」と謝ってきた。え?なんで急に謝るの?サクライは悪くなんかないよ。
「ずっと人間にしてやれなくてごめん‥。俺達の大切なものを奪いさえすればお前は人間でいれたのにな」
“えっ?やめてよ!僕、後悔してないよ!こうして二人と人間になれる時間があるだけ僕は幸せだよ‥!ね?”
首を横に振って否定するが、サクライは僕の尾ひれを見つめたまま、悲しそうな表情を浮かべる。僕は咄嗟に海から足を出して、人間の姿に戻せばサクライは「いいのに‥」と呟いた。
サクライが良くても僕は良くないの。
「俺の声さえ奪い取ればタカミザワは‥」
“やだ!サクライの声は僕も大好きだもん!そんな事言わないで!”
顔を歪ませ、サクライに訴えればまた「ごめん」と謝ってきた。サクライは優しすぎるんだよ‥。
偶にその優しさが辛く感じる時がある。サカザキみたいにバッサリキツい事言われた方が冗談と取ってみれるけど、サクライは嘘をつけないし、男の僕にでも紳士的すぎる。そこが逆に僕と距離を置いていそうで恐い。
もうちょっと怒ったり、サカザキみたいに頭叩いたりしてもいいんだよ?
あぁ‥ダメだ。考えてると苦しくなる。久々の感情だ。
「‥‥そろそろ行くか」
立ち上がるサクライを見て、僕も慌てて立ち上がろうとした時だ。足が滑って転びそうになった所をサクライが受け止めてくれた。
前にもこんな事あったよな‥。
「大丈夫?まだ歩き慣れてない‥?」
“うん‥大丈夫だよ”
あぁ‥ヤバい。心臓がドクドクと煩いくらいに鳴っている。もうダメだ‥。僕が女だったら本当にサクライに惚れていたと思う。
「‥俺、タカミザワが女だったらすげぇ大事にしてた」
“‥!”
「絶対サカザキには渡したくなかった。例えアイツとの仲が悪くなろうとも‥女だと思ってた人魚のお前の事が切ないくらい好きだった。苦しくて‥息も出来ないくらい好きだった。あんな恋、二度と味わえないような‥そんな感じの‥」
“サクライ達にはきっと、僕よりもっと大事だと思える人が現れるよ?そんな事言っちゃダメ”
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