人魚の王子様は人間の王子様に恋がしたいのです
いつもの通り僕がこの場所へとやって来る。
海面からちょこんと顔を出せば、待っていてくれるのは僕の大好きな二人の人間の王子様。チャプンと一際目立つ水の音で、喋り込んでいた二人がようやく僕に気付いてくれたみたい。
パッと顔をこちらに向けたサクライとバッチリ目が合い、そんな彼は僕を見やると「よ!」と軽く右手を振りながら簡単な挨拶を済ます。その爽やかな笑顔と、温かい眼差しを浴びてしまえばより一層胸の高鳴りは早まるばかり。
うぅ‥、いつ見てもサクライは格好いいな‥。本当に。
だから僕もサクライに向けて「おはようっ」と挨拶をしてみる。するとその隣では、サカザキが「よぉ、遅かったな」と言ってくる。
「ご、ごめん。ちょっとお姉様達とお喋りしてたら出かけるタイミングが見つからなくて‥」
「あーそう?ならいいんだけどさ。お前に何かあったのかなー?って少し心配になってたから」
「心配かけさせちゃってた?ごめんね」
なんて謝ればサカザキは「いや、構わんよ」と優しい口調で僕に伝えてきた。‥うん、サカザキもちょっとは優しくなってきてる気がする。あの人と付き合いだしてからは。
まぁSなのには変わりないけど。
ようやく体を海から這い出し、岩辺に腰を下ろすと両隣に二人が一緒になって座り込む。あーもう、二人の間に挟まれるとドキドキが最近止まらなくなってきて危ないよ‥。僕、一度誰かに診て貰った方がいいんじゃないかってくらい二人に惚れ込んでいるのかも。
べ、別に恋とかじゃないからね‥!違うんだからね!僕達は親友なんだもん!一線だけは超えないん‥だもんっ。
そんな事を考え込んでいると、左に座っているサカザキが「どーした?元気ないな?」なんて聞いてくる。また心配かけさせちゃった‥
「ううん。何でもないよ!ただ、三人でこうしていられれだけで幸せだなーって思ってただけ」
「ホントか?」
「ほ、ほんとだよっ!‥サクライもサカザキも見るたびに男らしくなって格好よくなってる気がするもん」
なんて何気なく口にすると、右に居たサクライが「お前は逆にどんどん女っぽくなっていくよな」とか言っては僕を見つめてクスクス笑ってきた。誰のせいでこうなってると思ってんの。‥うぅ、
だけどそれはあり得えてるものかもしれない。僕が変に意識してるせいで、二人の前だとたまに緊張にも似た感情になりつつある。
でも分かってるよ、分かってる。二人にはとっても大切な人が居るんだもん。僕はそれをいつまでも続くよう祈るだけ。二人の幸せを一番に願っているんだから。
‥願っているんだから。
「なぁタカミザワ、」と右から聞こえてくる声に反応をする。
「なに?」
「俺さ、今度あの人に何かプレゼントしようかと思ってるんだけど‥何がいいかな?」
「プレゼントかー‥。あ!なら僕が今度持ってきてあげる!」
「何を?」
「何がいい?真珠でも宝石でもお花でも貝殻でも沢山あるよっ?」
「へー‥。なら海にしかないような珍しいもんとかでもいいの?」
「うんっ。サクライの為なら僕、とっておきの持ってくるね」
「ありがとなタカミザワ」
お礼を述べたあと、僕の頭にはサクライの大きな手がくしゃっと撫でてくれる。こういうさり気ない行為にときめくんだよなぁ。紳士である彼だからこそってのもあるだろうけど‥
「ねねっ、サカザキの方はどうなの?」
顔を逆の方へ向けると、こっちを見ていたサカザキがふいと恥ずかしそうに海の方を眺め始めてしまった。何かを言いかけようと口が開いたけれど、それを遮るかのようにサクライがからかうように、「コイツこの間キスして貰えなくてふてくされてたんだぜ?」と先に口出ししてきた。
そのサクライの発言に、サカザキはムキになりながら「ち、ちげーよ!アレは‥」なんて言い訳中。
「キスして貰えなかったの?」
「コイツまだ心から信用されてないんだよ。今まで女と遊びまくってたツケが回ってきたんだよな。だから暫くはお預けなんだってさ」
「言っとくが信用されてない訳じゃないからなっ!‥ただ、俺の事だから慎重にいきたいんだってよ‥。なに疑ってるか知らねーけどさ、俺はもう二度と女遊びなんてしないのに」
眉を歪めながら、ちょっとばかり悔しそうにしているサカザキの真剣な表情。今まで自分の思い通りになってきたせいか、そういう経験がない彼にとってはいい勉強になるんじゃないかな?
余裕そうに笑ってるサクライに対し、サカザキが「笑うな!」と真っ赤にしながら怒っている。だけどそんなサカザキが面白いのか、からかうのをやめないサクライ。
「だーって、今までお前が上にいたのにいつの間にか俺のが立場上じゃん?何か困った事があればいつでもマサル様に聞けよ?」
「はぁッ?お前に頼ったりなんかしねーよ!」
「さぁ、どうかなー?俺の予想では絶対泣きついてくるだろサカザキ」
「んな訳あるか!俺のが沢山経験もしてるし‥」
「経験の数自慢されたって彼女は嬉しくねーよ。ほら、そういう事ばっか考えてるから‥」
「バカ言え!アイツが許してくれるまで俺はずっと待ってるつもりだよ!」
サカザキのその言葉に思わず僕も冗談で「えっ?襲わないのッ?」とビックリした口調でからかえば、彼は僕の髪を軽く引っ張りながら「おいタカミザワ、てめぇも俺を怒らす気か?」と背中から黒いオーラ全開で僕に迫ってくる。
「うぅッ?じょ、冗談だよ冗談!」
「冗談で済まされるか。お前今度人間になった時覚えてろよ?」
「な、何する気なのっ!お風呂はもうヤダからね!」
「なんなら襲ってやろうか?」
「えっ?」
今の一言で、思い切り心臓がドキンッと飛び跳ねてしまった。
一瞬止まった僕を見たサカザキが、慌てて「バカ!真に受けるな!」と訂正していたけど、僕からすれば‥‥正直嬉しかったのが本心。へ、変な意味ないからねっ‥!
顔を赤くしながら俯けてみせると、サカザキが小さく溜め息をつきながら「まぁ‥お前が女なら襲ってたかもな‥」と、わりと真剣な声で言ってくるものだから更にドキドキが増してくるばかり。
うぅ‥なにそれ。ズルいよ。
すると後ろからいきなりサクライが、僕の肩を包み込むような感じで乗っかってきて、サカザキと僕を見やり「何なんだよお前らー‥」と拗ねてるようにも聞き取れる発言。
思わず「ごめん‥!」と謝る僕だったけれど、サクライはふふっと笑いながら僕の耳許まで顔を近づけたかと思うと、「いやだ」なんて我が儘を言う。サクライらしくないな‥と思いつつ、その甘い声色にクラクラさせられてしまう。
‥うん、こんな風に甘えてくれる紳士な王子様を誰が放っておくんだよって話だ。というより、あの人と付き合いだしてからサクライは多少甘え上手にもなったのかな‥?
やっぱり紳士なままなのかな?
僕の知らない所でサクライはあの人にしか見せない顔を持ってるのか‥な。
そう疑問に感じた途端、心の奥に小さなトゲがささったような感覚がした。
‥ううん、もっとずっと前からだ。二人が楽しそうに喋っている時から。
僕はその間に割って入れなかった。ようやく口に出せたのはサカザキをからかった時。その前までは、二人の嬉しそうで幸せそうな顔を目にするだけで“良かったね”と思う反面、心の片隅では“羨ましいな‥”という嫉妬にも似た感情。
こういう汚い心ってどうすれば捨てられるんだろう‥。二人に幸せになって貰いたいけど‥、けど。
二人がどんどん僕の知らない顔を誰かに見せていると思うと、心臓がギュッと掴まれたみたいに痛くなる。二人がいつか、僕に会いに来なくなるんじゃないかって思うと‥怖くて、恐くて仕方ないんだ。
そうだよね。僕なんかよりずっとずっと大好きで‥隣に居たいって思う人がいるんだもん。
「‥って、おい!タカミザワっ?なに泣いてんだよ!?」
「だ、大丈夫かっ?どうしたっ?」
二人が‥僕に振り向いてくれたなら‥‥
なんて言えやしないから小さなウソをまた重ねる。
「二人が‥凄く幸せそうだからさっ‥。それが嬉しいだけだよ‥!」
するとサカザキが「なんだ‥焦ったじゃねーか」なんて言いながら安堵していた。サクライは僕からちょっと離れて「お前は本当に優しいな」なんて口にする。
優しくない‥、僕なんて優しくないよ‥。
「ね、ねぇ‥」
「ん?」
「どうした?」
もし僕が‥人間の女だったら、二人は僕を選んでくれた‥?
「また沢山話聞かせてねっ。僕、そろそろ戻らなきゃ‥」
「もう行くのか?やけに早いな」
「そうか‥。なら、また明日は来れる?」
「‥うん。また会いに来るね」
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「タカミー、どうしたの?ボーッとして?早く城へ戻らないと危ないよ‥」
「‥うん、分かってる。けど‥」
「あの人間の王子達が心配なのは分かるよ?でも、俺達人魚の危険が迫ってるんだ。自分達の身は自分で守らなきゃ」
「‥‥僕と出会ったせいで二人が狙われた。出来るならこの海から遠く離れた場所に行って欲しいんだ」
「タカミー‥」
「全部僕のせいなんだ‥」
あの時‥全てを裏切って、女になっていたら‥僕は今より幸せになれたのかな。
それとも、今よりもっと辛い思いをしていたのかな‥
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久々にこの人魚書きたくなって書いてたら自分も心痛くなったわw
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