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「よっ、新郎さん」
「‥んだよ、サクライかよ」
急に後ろから声を掛けられるものだからビックリしたじゃねーか。
バルコニーで一人突っ立って海を眺めていた俺の隣には親友が静かに佇んでくれた。そんなサクライも俺と一緒になって海を眺め出す。
「国中がお前の事を祝ってくれてるなんて幸せ者だな」
「まぁな。こうして一人でゆっくりしてられる時間もないまま夕方になっちまってるし」
「まだ夜も色々とあるからな~。俺も大変だっつーの」
「悪かったな、大変にしてよ」
「仕方ない事だけどねー。なんてったって、この国の王位継承者であるサカザキコウノスケ様の結婚式なんだもん!そりゃー俺達だって忙しいに決まってるさ」
「‥疲れた」
「おいおい、こんなとこで弱音吐くなよ」
苦笑しているサクライが俺の事を少し心配してか、背中を思いっきりバンッと叩いてきた。それに「いって!?」と反応すると彼が「しっかりしろ王子様!」と元気付けてくれる。
ビリビリと響く背中の痛みだが、サクライがこうして俺に覚悟を決めろと伝えてくる辺り、もう中途半端な気持ちじゃいられないんだなと改めて実感した。
昔は自分でも呆れる程女と遊んでばっかいたのに、今となっちゃ一人の女の旦那だもんなー。
‥なんだか自分自身一番驚いてるのかもしれない。
タカミザワとの約束も今こうして果たせた。しかし、俺達はこれから頑張っていかなきゃならない。結婚したらそこがゴールなんかじゃない。そこからが本当のスタート地点だ。
‥なーんて、タカミザワが今の俺を見たらどんな反応するんだろう。少しは見直してくれるかね。
「そういや最近、タカミザワの歌声‥聞こえないな」
「確かに。言われてみれば全然聞いてない気がする。何かあったのかな?」
俺の結婚式の日には聞けるんじゃないか‥って、少し期待して一人ここに居たってのもあるっちゃあるんだけど。
でもタカミザワの歌声が聞こえる事はなかった。
そうだ‥。あの日以来、一度も聞いていない。
俺達が海に引っ張り込まれた日からアイツの声は途絶えてしまった。
しかも、あの日俺達が何に引っ張り込まれて、どうして浜辺で気絶していたのかも理由は未だに分かっていない。‥多分だけど、タカミザワが助けてくれたって信じてる。
そしてそれを期に、俺とサクライもあまり海の方へ近づかなくなってしまっていた。たまにサクライは我が子を連れて一緒に遊んでるのを見かけるが、浅瀬にいるだけで深い方へは行こうとしないみたい。まぁ子供がまだ小さいってのもあると思うけど。
「サカザキ‥」
「ん?」
手すりに背中を預けた親友は、俺の隣で「本当におめでとう‥」と呟いた。
な、なんか照れる。
「今日のお前、最高に格好良かったぞ」
「はっ。俺はいつでも格好いい」
「よく言うぜっ」
あはは、と軽い笑い声が響く中、城の中から「ちちうえっ!」という可愛らしい声の持ち主がトコトコとサクライの方へ近づいてきたではないか。
そんな近づいてきた我が子を「お?どーした?」と声に出しながら抱き上げるその姿は立派な父親。
‥俺もいつかはああなりたいな。
.
.
.
「ごめんねサカザキ‥。お前の結婚式にお祝いが出来なくて‥」
これ程辛い事があるだろうか。
せめてサカザキにこの歌声を届けたかった。だけど、今の僕達はそれどころじゃなくなりつつある。
人間の世界には近づけない状況の僕達は、ただ海の中で怯えてひっそり隠れて暮らしているだけ。こうして毎日のように雲外鏡が二人の事を映し出してくれている。
‥それが逆に辛かったりもするんだよね。
「‥‥はぁ」
「大丈夫ですか、王子様?」
「ん?あ、あぁ‥心配してくれてありがとう」
この娘、誰だっけ?
隣にやって来たのは確か、親が人間達に捕らえられてしまった人魚のうちの一人だったような‥。
こうして身寄りのない者を城へ住まわせてやっていってるが、その人数が最近増えていってるのは気のせいじゃない。
「それより君のが辛い思いしたでしょ?僕なんかより比べものにならないような‥」
「いえ‥。そんな事は‥」
「‥‥。」
その寂しげにしている儚い瞳。
僕と同じ色をしている瞳がどこか濁っているようにも見えた。
‥なんだか守ってあげたいような、そんな目をしていた。
守りたい‥?
うん、そうだよ。守りたいんだよ。僕達はこんな所じゃ終われない。
「‥ほら、笑ってよ。僕が着いててあげるからさ!‥だから、泣かないで?」
今にも零れそうな涙に対して、彼女は力強く僕の言葉に「‥はぃっ‥!」と答えてくれた。
うん。僕が‥君を守ってあげるからね‥
✩
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