罪人たちの舟18
「な‥なんで七十二番がここに‥!?」
「‥‥、」
相手もびっくりしているようで目をいつもより見開いてはいるが、そこまで動じてはいない雰囲気。
「坂崎」
「はっ、はい‥!」
マモン様に名前を呼ばれ、そちらに顔を振り向けば、突然俺に目掛けて刃のようなもので切り裂こうと腕を振り上げてきている。
思わず「えっ?」と声を漏らしてはピクリとも動けなくなってしまい、頭も真っ白になってしまった。
あ‥‥そっか‥、そういうことか‥
「役立たずはいらない」
そう耳に痛いくらいマモン様の声が響いてきたた瞬間、俺は死ぬんだな‥と覚悟をしてひれ伏したままギュッと堅く目を閉じた時だった。
バシュッという、鈍い音と生ぬるい滴のようなものが俺の体に降りかかってきたような気がした。
「‥‥?」
痛みが襲って来ないのが不思議に思い、ゆっくり目を開いてみると‥
「よぉ‥船頭さぁん‥」
そこにはなぜか、あの七十二番が俺を庇うかのような形で腕を広げ、ゴフッと血を吐き出しながら立っているではないか。
え‥?え?なんで‥?どうして俺なんかを‥?
頭が付いてこず、混乱している俺を横目にマモン様がフッと鼻で笑ってくる。
「‥命拾いしたな坂崎。だが罪人に助けられるとはつくづく使えん奴だ」
そう告げると、マモン様はその場からすうっと姿を消してしまった。
だけど、今の俺にはこの罪人しか目に入ってこない。なんで?なんで俺を庇うんだよ?
しかし恐る恐る口を開いて出てきた言葉は、七十二番を嘲笑するかのようなセリフだけ。
「は‥?お前‥バカじゃねぇの‥?」
だけどダラダラと流れ出る血を見て、俺はどうすればいいのかが分からなかった。
「ゲホッ‥。ったく‥こんな、筈じゃ‥なかったのに‥よぉ」
力が入らないせいか、ぐらりと七十二番の体が前へ倒れてくると、俺は咄嗟にコイツの体を受け止めてしまった。
あんなにも嫌いだと思っていたのに‥いざ目の前に死にそうになる奴がいると、戸惑うことしか出来なかった。何も出来ない。考えることさえも。
背中を見やれば、えげつないくらいバッサリ斬られており、止まる事のない血が俺の手にヌルリとした感触を伝えてくる。
自分の掌がこんなにも真っ赤に染まった事はないから、俺はその手を凝視してしまっていた。
ボーッとした頭で自分の掌を見つめていると、コイツの手がそーっと俺の顔に近付いてくるので、若干ビクッと体を震わせるも七十二番は弱々しく「何もしない‥」と呟く。
「なん‥で助けるんだよ‥?」
「‥‥。」
ヒュー、ヒュー‥と、か細い息をする男に問いかければ、苦しそうにしながらも俺の質問に答えてくれた。
「アンタに‥何も、真実を‥話せないのは‥心残り、だった‥からな‥」
「真実‥?」
なんの話しだ‥?
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