罪人たちの舟 - 20/32

罪人たちの舟19 ※少し注意

 

虚ろになる目がさっきとは何かが違った。俺の嫌いな目だけれど‥どこか寂しそうな色を持っている。

 

少しだけ哀れんだ目で見ていると、コイツは途切れ途切れの言葉を必死に紡いでいこうと何かを喋ってきた。

きっとこれがコイツの最後になるのだろうと思うと、なぜだか聞くのは嫌ではなかったし、むしろ聞いてあげたかった。

 

 

「‥俺にも、妹が居るんだ‥」

「そうか‥」

「本当に、大切で‥凄く優しくて、可愛い‥自慢の妹だったんだ‥。妹想いって言えば、良い響きなんだろうな‥。悪く言えば、シスコン‥。こんな、俺でも‥ちゃんと大切な人‥は居たんだよ?」

 

あのカンに触る喋り方がない。

きっと、真剣に話しを聞いて欲しいからなのだろうか。しかも、俺の前で妹の話しをするとはな。俺の妹が無残な死に方をしたのを知っているはずなのに。だけど、なぜか今は嫌味になんて聞こえてこない。

 

よっぽどこの話しを聞いて欲しいのだろう。

 

「大切にする余り‥俺も‥妹も‥ほんとは、兄妹として、超えちゃいけない‥一線を‥超えちまったんだ」

「それって」

「‥その先は、言わないでくれ‥げほっ。‥っ、俺たちは‥分かってやっていたこと、だからな。‥だから、俺が一人暮らしをして、寂しくなった夜は妹を呼んで‥互いを求め合った。‥ダメだと分かっていてもやめられなかった、

俺に彼女が‥出来ても、その関係は続いて‥、最低だとは思っていたさ‥」

「だったらどうして?」

「あぁ、だからこそ‥罰が下ったんだろうな‥。俺と妹が、一緒の部屋に‥居る所を‥彼女に見られてしまった。取り返しの、つかない‥事になっていたんだ‥

彼女は本当に大切だった‥。凄く‥大事にしてたんだぜ?けど、彼女が俺の元から去る‥って知った時、俺の何かが崩れたんだ。

怖かった‥。失いたく、なかった。だから俺‥は、ハァ‥ゲホッ‥!‥くっ‥」

「ムリするな」

「いや、喋らせてくれ‥。だから俺は、彼女を離さない‥為に、も‥傍に置いた。でも、それが‥俺の人生を狂わせた。次に会う女、付き合う女‥全員を苦しめて‥しまった‥!」

 

コイツ、

 

「遂には‥大切にしていた自分の‥妹までも‥苦しめてしまった‥。だから、お前の気持ち‥分かってやれなかった‥!同じ大切‥でも、一つ間違えれば‥全て壊れてしまう、」

 

ゲホッと咳き込む男の口端からは、血がつうっと流れ出る。

 

鮮血、とは言い難い色だ。

 

そんな血を流しながらも俺に自分の過去を語る七十二番。目からは今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっている。

 

「自分の物に‥したい。そんな‥強い欲が支配する‥。こんな自分が嫌だった‥。普通に、愛したかった。デートして‥食事して‥プレゼントを渡して‥。だけど何一つとして、叶わなかった‥。俺が悪いなんて、分かっているさ‥」

 

男の瞳からは、一筋の綺麗な涙が頬を伝わり床に落ちていく。

‥コイツ、こんなにも優しい目をしてやがるじゃねぇかよ。

 

 

「ねぇ‥、俺‥何処で愛し方‥間違えたのかな?」

 

小さく微笑む男の顔は、罪人とは思えないくらい美しくて優しい表情をしていた。

こんな顔を作れるのに‥なんでコイツは今まであんなにも人から避けられるような目つきをしていたんだ。

 

誰かを思いやれる心はあるのに‥

 

ホント、どこでお前は道を間違えたんだろうな。

 

 

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