SP16
俺の指示通り桜井が車を運転して、その隣に俺が座り他の三人は後ろで大人しくしている。
つーか予告状がちゃんと届くとは限らんしな。昨日あんな爆破を起こしてしまったのなら、今日は爆破がない可能性だってある。どうするか‥だよな。俺たちもプロなんだから、下手に読み違えるのも恥ずかしい。
何気なく見える外の世界をじっと睨み付けながら観察していると、桜井が「んな目付きしてたらガキが泣くな」なんて言ってくるが、マジックミラーだから外からは見えんっつーの。
案外後ろで大人しくしている高見沢が、初めて眼帯を着けるこの日。痛々しさがまだ残るな。‥流石に片目失うのは哀れだとは思うけどさ。
静かな車内が嫌になり、何気なくつけたラジオ。そこからはDJが陽気に喋りながら、昨日自分に起きた出来事を話していた。災難に見舞われ、神様なんかいないよね?なんていった内容だ。で、テーマが神なんかいないと思った瞬間を募集だとさ。
どうでもいいなと思った俺だったが、高見沢が「片目なくした瞬間‥」とポツリと呟く。
「た、高見沢さん‥っ」
「だってよ‥こんな不幸なことあるかよ‥。自分が悪いとは思ってるけど、やっぱり悔しい。一生このままなんて‥」
鈴木がフォローしようとしていたが、口がもごもごしており何も言い出せてはなかった。ムリにフォローなんてしなくていい。この件に関しては、まだ高見沢の心と目の傷が癒えてないのだから、暫く纏わりつく感情となるだろうし。
「俺もその施設行けば片目治るのかなぁ‥」
「バカか。んなもんに頼って失敗したら、両目失う可能性もあるんだぞ?変なリスク背負わずに、今お前はその現実を受け入れろ」
「分かってるよ!分かってるけどさ‥やっぱりしんどいや」
「俺がお前の左目の代わりになることがそんなに不満か?」
「ち、違うって!そういうことじゃなくて‥!こんな自分が不甲斐ないっつーか‥」
「そうだな。じゃなきゃあんなヘマはしねーもんな」
「ぐっ‥」
何も言葉が出てこない高見沢。それにイラついたのか、タバコ吸っていい?と尋ねてくるので、全員の許可がおりたから窓を半分開けてからタバコに火をつけていた。
隣で運転していた桜井も「神っていると思う?」なんて俺に聞いてくるが、急になんなんだよ。
「神なんかいる訳ねーだろ。俺は一度たりとも思ったことがない」
「へぇ。逆に凄いね」
「あんなの人間が作り上げた妄想だ。人間は何かに頼って縋りたい生き物だからな。‥神なんかに祈らなくったって自分の生きる道は決まっているし、これからを決めてくのも自分だ。神を信じる前に自分を信じられない奴が一番クソだ」
そう話してみせると、無線で聞いていた棚瀬が笑いながら「天使が怒りそう!」なんて言ってきた。天使もいる訳ねーだろ。
つーか、無線の向こう側から棚瀬がまーたなんか食ってるのが分かる音がする。今度は何を食ってるんだと思っていると、高見沢がすかさず「テメェなに食ってんだ今?」と尋ねていた。
「白飯にきゅうりのQちゃん!」
「お前マジでバカじゃねぇの!?なんで今頃白飯なんか食ってんだよ!?」
「食べたいからご飯炊いたっていいじゃないっすか!」
「なんっでその場所に炊飯器置くのかが謎だよ、マジで!アホお前!」
「アホじゃない!」
相変わらずの言い合いをしている。
それを聞いていた他の三人が「またかー‥」みたいな雰囲気を醸し出し、呆れている。そういや吉田も鈴木もこの雰囲気にだーいぶ慣れてきたようだな。
「‥じゃなくて!坂さん、奴らからの犯行声明届きましたよ。23時59分に永田町のどこかに爆破を仕掛けるみたいです」
「総理官邸か?」
「そこまでは‥。でも可能性はありますね」
「おい、永田町まで行け桜井」
「はーい」
まだ今は昼の15時前だ。時間まではたっぷりあるが、周辺を捜査しておいた方がいいか?もしかすると、どこかで出くわすかもしれんしな。
しかしアイツらどこに隠れてやがるんだよ。すぐに姿を消すし、中々後を追いかけられない。‥多分地下に居る気がするんだが。まぁ、予想なので下手に動けないから慎重に探さなければな。
うーん、と腕組みをしながら考えていると桜井が「ホントにその時間通りに爆破すんの?」なんて俺に聞いてきた。
「さーな。奴らが捻くれてなければ時間通りに仕掛けてくるだろうよ」
「坂崎が思うにアイツらは捻くれてるんか?」
「‥あの中に俺とあんまり仲の良くなかった副リーダーが居てだな、ソイツがまぁ捻くれてる奴だから分からんな。あんま信じない方がいいとは思う」
「副リーダーなんていたのか?」
「あぁ、いたさ。今は誰にも副はやらせないようにしてるけどな」
他の奴らが全員死んだと思っていたのには、アイツのせいでもある部分があるしよ‥
「あの時、俺と棚瀬だけが別の仕事をしてたんだ。副リーダーのアイツにメインの方を任せて‥というより、無理やり俺たちから仕事奪ったんだけどさ。で、俺たちは俺たちの仕事を終えてすぐに仲間たちと合流しようとした直後、アイツらはそのメインの仕事に失敗して地下組織の奴らに全員殺られた」
「そう、か」
「駆けつけた時にはもう遅かったな‥。なんとか地下組織の奴らを俺と棚瀬だけで取り締まったのはいいが、そん時に放たれた銃弾が棚瀬の脚に当たって‥」
そう言いかけたが、棚瀬が珍しく真剣な声で「坂さん」と俺の名前を呼びつける。‥やっぱり嫌だったか。
ま、俺を助ける為に棚瀬は自分を犠牲にしてまで庇ってくれたんだけどな。
そんな棚瀬の異様な雰囲気に察したのか、桜井も高見沢も口が出せないようだ。あんな風にいつもは言い合っていたりするが、アイツのが先輩だし実力も上だからか。
「もういいでしょう、その話しは」
「‥悪かった。もう話さねぇよ」
「そうですか!ならいいですっ!」
「‥‥。」
急に声色がパッと明るくなった棚瀬に他の四人も拍子抜けしているようだ。こういう奴だ、棚瀬という男は。
おっと、そうだ忘れるところだった。
「棚瀬、他のリーダーに伝えたいことがある。繋いでくれ」
「りょーかい」
懐中時計を取り出し、竜頭の部分をカチッと押すと一斉にデータが送られていく。どこにデータが送られていったかというとそれは‥
「こちら坂崎班のリーダー坂崎。今、全精鋭部隊のリーダーにとあるデータを送ったので、全員見ておくように。極秘でお願いする」
棚瀬から他の精鋭部隊のリーダーに無線を切り替えて貰い、俺がそう伝えれば他のリーダーたちが「了解」などという返事をくれた。この件はまた後日になりそうだが、他の精鋭部隊も居た方が絶対にいいだろう。
これは精鋭部隊の奴らだけで動かなければダメだ。上が関わってたとなると、相当厄介だからな。
無線がまた棚瀬に切り替わり、「一緒にやるつもりなんですね?」なんて聞いてくるので短い返事をしておく。
「流石に俺一人じゃ抱え切れねーからな。他のリーダーだってあんな衝撃的なもん見せられて黙ってる訳もないだろうし」
「あ、施設のこと?坂崎お前アレいつ行くの?」
棚瀬から桜井に代わり、彼を連れてくと先ほど言ったので取り敢えず今は様子見してからだと伝えた。
「いきなり凸って逃げられちゃ敵わんからな」
「でもさ、本当にその人体実験が行われてるんだよね?成功した人たちがこの街をウロついてるって?」
「‥知らん。だが、なくはないだろ」
「にわかに信じられんわ」
数分後には永田町まで到着し、一旦は待機することとなった俺たち。
俺の勘だが、23時59分に爆破が起きるなんてないと思っている。来るなら油断し始めた明け方頃だ。アイツの考えていることが当たっていれば、だけど。‥いや、明け方だな。
「いいかお前ら、明日の明け方に爆破が起こるはずだ」
「明け方?」
「あんな捻くれてる奴だ、時間通りに来るはずがねぇんだよ。一応は何年も一緒に仕事してきたからな、読みは当たってると思う。なぁ棚瀬?」
「あー、明け方かぁ。ありそうっすね」
「ということで、一番気にしておいて欲しい時間が明け方だ。ただし、予告時間もきっちり警戒しておくように」
分かったという返事が四人から返ってくるのを聞き終えると、今の内に少し休んでおけと伝える。じゃないと明け方にまで体力が持たなくなっちまう。
‥俺の勘、多分当たると思うんだけどなぁ。
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