罪人たちの舟 終焉 - 3/13

罪人たちの舟 終焉3

 

高見沢たちとは分かれ、俺は必死に船頭おぶって全速力で館がある方まで三人で走り抜けていくも船頭の呼吸がかなり浅いのだけは耳元で呼吸音が聞こえてくるので、早くしなければ本気でマズい気がする。

死ぬな…、死ぬなよ船頭!お前はまだ生きなくちゃならねぇんだからよ!

「館に行けば何か止血出来そうなものとかあるよな!?」

俺がそう聞けば二人は「どこかにあるはずです!」と答える。

「アスモデウス様の部屋には薬にもなり得そうな毒も多くあるので、俺がそれ取ってきます!」

「あぁそっか…、アイツなら何かしら持ってそうだな。でも勝手に盗んだりしたら6番が怒られねーか?」

「今はそんなこと言ってる場合ではないじゃないですか…!俺が怒られるからってなんですッ?坂崎さんの命の方が優先に決まってますよ!」

「…だな。じゃあ、着いたら頼むぞ」

「はいっ!」

アイツの使者である6番だからギリ許されそうな行為だから、アスモデウスの野郎もこんな事態になっているのを知ったら多分きっと許してくれるだろう。コイツが怒られそうになったら俺が庇ってやるしかねぇな、アイツ大っ嫌いだけど。

走ること数分、もう少しで館に着きそうなところまできた時に5番がハッとした顔をしながら後ろを振り返り「追っ手が来ました!!」と俺たちに報告をしてくる。チッ…はえーじゃねぇーか、もう追いつかれちまったか。

 

「クソッ…!ここでやられたらお終いだ!戦闘に入るぞッ!」

「ダメです!二十四番さんはこのまま館まで走り抜けていって下さい!!」

「けどお前らだけじゃあの人数は…!」

「大丈夫です!それに坂崎さんを今ここで逃がさないと、本当に死んでしまうかもしれないじゃないですか!だから二十四番さんは行って下さい!」

「でも…!」

「早くッ!!」

5番の発した大きな声に背中を押され、俺はこの場に残ろうとした体の向きを変えて「分かった」と呟いてからもう一度走り出す。

「お前ら俺が戻ってくるまで無事でいやがれよ!いいな!?」

「言われなくても分かってますよ…!」

「俺たちなら大丈夫です。だって強いんですから」

そう5番と6番が俺に対して言葉を残していったのを最後に、俺は振り返ることもなく館の方へとさっき以上のスピードで走り抜けていく。

でも俺はこの時の出来事に後悔をする。

俺がこの時一緒に戦っていれば、またなにか結果は違ったのだろうかって……そう思い知るようになるには、まだもう少しあとのことだった。

これがアイツらとの最後の会話だったなんて……

 


「ハァ…はァ…!やっと着いた…!」

船頭おぶっているせいでいつも以上に体に負荷がかかっているせいで、成人の男を背負いながらの全速力はマジでキツい。俺ももう歳だし寿命も近づいてるせいか、やはり昔よりかは体力は少し落ちたような気もする。

そんなことより早く中へ入らなければ…!

追っ手はここまで追いかけてこないので、奴らが上手いことやっているのだろうかと思い俺はそのまま船頭をおぶって館の中へと入る。ここまで来ればもうきっと奴らは近づけないはずだ。聖域とは言い難いが、ここは悪魔たちの力が一番に働いている場所なので許された者しかそう簡単には入れねぇだろうから暫くは安全を確保出来る。

急いでマモンの部屋まで行き、デカい扉を無理やりこじ開けてから中へと入れば奴がいつも座っている大理石の舞台の方まで行き、そのまま船頭を椅子の手前にあるスペースへと体を下ろす。

 

「船頭!気を失うんじゃねぇぞ…!?」

「……ぅ…ぁ」

まだギリギリ意識はある。良かった。

なので俺は止血出来る為の布を館中を走り回って探し出し、本当は6番がアスモデウスの部屋へ行って毒を取りに行くはずだったが結局俺が行く羽目になっちまった。まぁ俺がアスモデウスに怒られようがそんなもんどーだっていいから別にいいんだけどな。

一応毒と薬に分けられている小瓶たちが収納されている引き出しが奴の部屋にあるのは知っているから、薬の方の引き出しを粗方漁って傷が治りそうなもんだけを片っ端手に取ってから俺はまたマモンの部屋へと戻る。

そして船頭の前までやって来たらすぐさま小瓶の蓋を開け、船頭の胸元をバッと開いてはそれを船頭の傷へ直接全てぶっ掛ける。考えてる時間ももったいねぇからしょーがねーだろ。

「…!」

するとやはり悪魔が生成した薬なだけあって、ピチピチと小さい泡が弾けるかのような音と共に船頭に出来たデカい傷が少しずつ修復していってるようにも見えたので内心ホッとして胸を撫で下ろす。良かった…間に合った。

だけどこれだけじゃやはりまだ不安なので、別の部屋に行って貯蔵されてある滝壺の水が入っているケースを一個借りパクしてそれを持ってマモンの部屋へと戻り、引っ張り出してきた一枚の布をビリビリ引きちぎってから布を水に浸ける。浸けた水を絞り出してから念の為船頭の傷口に布を当て、血を拭き取るものの…やはり凄いスピードで布が赤黒く滲んでいくのが分かる。薬の影響もあってさっきよりかは塞がってはきているが、まだ完全に塞がった訳じゃないからあんまり余裕ぶっこいてはいられない。傷が塞がっても血が大量に流れ出しちまってるからそこが心配なんだよな…。多分俺の背中も船頭の血でベッタリだろうし。

 

「生きてくれ、船頭。死ぬな」

「……。」

目がずっと虚ろだし、焦点があまり定まっていない。目の前に俺がいるのを認識すらしていないのかもしれん。

何度か船頭の血を拭き取る行為を繰り返すもこのままじゃ埒が明かないので結局最後は水を何度かバシャバシャと傷口に掛けたあと、もう一度布で拭いてから汚れていない綺麗な布を船頭へと巻き付ける。せめて早く血だけでも止まってくれればまだ安堵出来るのに…

「……クソッ」

悪りぃな船頭。俺はもうそろそろ行かなくちゃならねぇ。5番と6番も心配だし、高見沢たちのことも気になるからな。

お前をこのまま放っておいていいのか分からんが、お前ならしぶといから大丈夫だろ?大丈夫だよな?大丈夫って言え。サッサとその傷治して戻って来い。

 

「必ず起き上がってこいよ船頭」

それだけを言い残し、俺はマモンの部屋をあとにする。

早く…早く悪魔たちがこの異変に気づいてくれればいいってーのに、こういう時に限ってだーれも戻ってこねぇんだもんなぁ。クッソ腹立つよなぁ。マジでわざと全員戻ってこないんじゃねーの?って思っちまうわ、アイツらの今までの行動から見るに。ムカつく。

とはいえ、この場にいない奴らの文句を言っても仕方ないし悪魔たちが全員魔界に帰るということは向こう側でなんか重要なことでもやってんのか分からんが、俺たちじゃ奴らを呼び出せないのでこればっかりは悪魔たちに気づいてもらうしかない。

タタッと館の中を走る音が俺しかいないこの空間。外とはまた違う空気だけれど静かで凛としていて、悪魔たちがいないお陰で過ごしやすい。だけど俺はもう行かなくちゃならねぇ。アイツらのことが心配だからな。

なので館から出る扉を開け、俺は来た道を急いで戻っていく。

無事であってくれ。5番も6番も館の方まで来れなかったってことは、苦戦しているのかそれとも高見沢たちと合流しているのかそれのどっちかなのだろうという気持ちでいたその時だった。

 

「……!?!」

先程追っ手が来たので分かれたその場所にいたのはぶっ倒れている5番と6番。

だけど二人とも、これは…気絶してるんじゃない。

「死ん…でるのか…??」

目の前の光景に事態が飲み込めずにいる俺は、手前の方で倒れていた6番に向かって駆け寄ってはバッとしゃがみ込んではコイツの首の脈を計るが……

やっぱり脈が止まってる…

ウソだろ……?

だって、そんな…。そんなことがあっていい訳…

「5番…、お前は生きてるよな…!?なぁッ…!?」

奥の方で倒れていた5番の方へと焦って駆け出しては6番と同じく頸動脈の辺りを触ってみるも、やっぱり5番も命尽きていた。

そんな……

 

「え…?なんで…?お前らなんで死んで…」

だってついさっきまで生きて俺の横走ってたんじゃ……

「……、」

意味が分からなくて頭が真っ白状態に陥ってしまっていた。

争った形跡はかなり少なく、二人の体の傷は何か細長いような物に心臓辺りを突き刺されたのか貫かれたのかは分からんが、ソイツのせいで致命傷になって死んじまったってこと…なのか?

有り得ない…!だってコイツらがこの程度の傷で死んじまうほどヤワな奴じゃないのは俺だって知ってることだぞ…!?悪魔たちがいないせいで加護も働かなかったってのか…?そもそも悪魔たちはコイツらを加護する力を使ってないとかなのか…?

なんかもう訳分からんくて頭ん中変なことばっか考えちまうけど……そうだ、高見沢…。高見沢たちは本当に無事なのか…?

なんなんだよこの状況…。もしかして相当ヤバいことになってんじゃねーかこれ…?

しゃがみ込んでいた脚がバランス崩したせいで地面にドサッと尻もちついて正直その場から動けないでいた。俺はどうすればいい…?

 

「十年前と…同じなのか…」

俺たちの許されない罪。その罪を背負ってここまで生きてはきたけど、その罪を償えないまま俺はまたこんなことにさせちまったと言うのか?

……船頭が知ったら、…どう罵倒されるんだろうな。

「…はァーー……」

感嘆のため息しか出てこず、俺は暫くその場から動けずにいた。

…でもダメだ。ここで諦めちまったらそれこそ俺はなんにも償えずに終わっちまう。そんなんじゃダメに決まってんだろ俺…。しっかりしやがれ俺!早く立ち上がって高見沢たちのところまで行けよ!!

「……っ」

だけど…コイツらを置いてなんていけねぇよ…っ。

クソッ…

 

「…すまねぇ、二人とも。あとで絶対に戻ってくるから……もう少しだけここで待っててくれ」

ようやく立ち上がり、俺は二人が使っていた棍棒を拾い上げてからこの場から一旦去る方を選ぶ。

コイツらをこのまんまにさせておきたくなんてなかったし、館まで運べばどうにかなるのか?と考えたりもしたが死んでいたらもう俺にはどうにも出来ない。船頭はギリギリまだ息があったからなんとかなったものの、そうじゃなければ処置なんてムリだ…

すまねぇ。本当にすまねぇ。

目を逸らしたかったがそういう訳にもいかない。俺は俺の犯した罪を知らなければならないからだ。人の命を奪った最大の罪を。

でもそんな俺がこんな気持ちになってるだなんて、ホント滑稽だよな。俺が怒りに狂ってもいい訳なんてないのに…それなのに俺は今、怒りで全身が震えそうになっている。

 

「ッ…!?」

館へ向かっていた時と同様、全速力で元の場所へ戻って行けばそこに広がるのは異様すぎる光景。

あちこちに転がっている罪人たちの死体。それを目にした途端からザッと足を止めては辺りをゆっくり見渡し、この地獄のような景色を眺めながら意を決して再び足を動かす。しかし走る気にはなれなくて、ただその場を歩いて向こう側へと進んでいくしか出来なかった。

全員…死んでやがる…

誰か一人でも生き残りはいないかと倒れ込んでいる罪人たちを一人一人見やりながら突き進むも、やはり誰一人として助かった奴はいないようにしか見えない。なんでこんな…

俺たちが館へ行ってる間に本当に何があったんだ?高見沢たちは無事なのか?

そう思っている矢先、罪人たちとは違う服装を纏っている男たちが地面にぶっ倒れていたので俺は慌てながら「おいッ…!!」と駆け出したはいいものの…

 

「そんな……」

目の前に来てようやく悟った。

「お前ら…全員死んでんのか…?」

俺がそう呟いてみせるが、俺の声には誰も反応してくれない。

5番と6番と同じように、腹や胸の辺りを何かで突き刺されてしまっていてそれのせいでコイツらは死んじまったという訳か…?というより傷口を見るにこんな小さな穴なのに、どんな殺傷能力があるって言うんだよ…。いや、さっきの奴がもう既にこの世の者ではないのは確定ではあるから相手を人間と同じように考えちゃダメだ。もっと別の得体の知れない何かを相手にしなくちゃいけないはずなんだから、俺も油断なんて出来ない。

アイツ以外の船頭たちは…もう、全員息を引き取ったってことか?

コイツらは何をやらかした?何をした?

いや、なんにもしてねぇだろが…!!なんでコイツらが死ななくちゃならねぇ!?コイツらが何をしたって言うんだよ!?

 

「くっ…そぉッ…!!!」

血走りそうな自分の目。どうにも出来なかった自分自身に心底腹が立つし、なんの罪もないコイツらがどうして死ななくちゃならなかっ……

「……だから、俺はそれに対して憤る資格なんてねぇの分かってんじゃん…。クソが…」

十年前の自分の行いに反吐が出る。

なんの罪もない船頭たちを俺らは…俺ら罪人は手に掛けちまったんじゃねぇのかよ。俺に怒る資格があるとでも思ってんのか?自分の行いを鑑みろよ。俺は今のこの状況を、十年前のあの日と照らし合わせて俺が口を出せるだなんて驕っていねぇよな?…いや、驕っちまっているのかもしれん。だって…だって、こんなの…!!

「高見沢は…、高見沢は無事なんだよな…?」

四人をここに残しておくのには当然心が痛むが、それでも俺は前に進まなくちゃならねぇ。高見沢だけでも…アイツだけでもどうか無事であって欲しい…

そう思ってしまう自分はどれだけ身勝手で我が儘なクズ野郎なんだろうと…、恥ずかしいにも程がある。

持ってきていた二本の棍棒をその場にそっと置き、俺はまた歩き始める。この地獄のような場所を。ただ突き進む。

そして少し歩いた先に見えてきた光景。それは、俺の全く知らない真っ黒い野郎が大きめの石の上に座ってくつろいでいるかのような体勢で俺を待っていたようで、ソイツの足元には高見沢が倒れ込んでいたのだけはすぐに確認出来た。

当然それを目にした俺は怒りの感情に支配され、奴を殺す勢いでギロッと睨みつけては握っていた棍棒の手の力がギリギリと自分の掌に食い込みそうなレベルの握力だというのが分かる。今この場にサタンがいたら、俺のこの感情がどれほど至高だったんだろうか。奴らがいつも俺らの怒りをバカにしてくるのには腹が立つが、今ならこの怒りを餌にしてサタンの力を借りられるならそうしてやりたい。なのにあの悪魔どもはこういう時に限っていねぇんだもんな。んっとに役立たずの腐れ野郎共め。

なぁ、高見沢。お前はまだ生きてるんだろ?そうなんだろ?

 

「お前が…全員殺したっていうのか…?なぁ?」

あの黒いなんなのかよく分からん奴相手に喋りかけてみせると、相手は「そうだねぇ」なんて呑気に答えるその声がとてもじゃないが人間とは思えないような不気味な声をしてやがる。何モンだアイツ…?

「でもこの男だけは殺せない。不思議だよねぇ?」

「…!?」

本当に高見沢は生きているのか…!?

その言葉でどれだけホッとさせられたか。しかし当の本人は全く動ける力は持ち合わせてなさそうにしか見えんので、危険な状態なのには変わりないんだろう。早く…早く高見沢だけでも助けてやらねぇと…!

こんな状況のせいで、てっきり死んだとばかり思っちまっていたわ。遅くなってごめんな。お前はよく頑張ったよ。

 

「なぁ船頭…。俺も大切な人たちが奪われる者たちの気持ちが今よーやく分かったような気がしたよ…。けどよぉ…それって俺が最後の一人になるまで気づけないようなことだったんかね…?」

いくらなんでもやり過ぎじゃねーのでしょうか、神様よ…。悪魔たち以上にキツい罰をお与え下さってくれるじゃねーか。

「こんなことになるまで気づけないなんて、ほんっっとに俺たちは愚か者だよなぁ…!」

泣きてぇ気分だよ、ホントに。もう戦えるのが俺一人しかいないだなんて、誰が想像出来たと思う?

「今まで悪かったよ船頭…。お前に全てを押し付けちまって、全てお前のせいにしていたこんなバカな俺たちを許してくれだなんて言わねぇが、俺と高見沢はもうお前に対して何も言わない。いや、何も言えねぇだけなんだよな…」

あの男が俺たちを生かした意味、ちっとはあったって意味なのかもしれんな。

 

「それに高見沢も…、お前だって船頭たちと罪人たちの気持ちの狭間に立っていて苦しんでたんだよな…。それに気づくのが遅くなって本当にごめん…。俺もやっと…やっと高見沢と同じ気持ちになれたよ…」

俺が死にかけたあの日以来、お前はずっと苦しんでたんだもんな。

そりゃあ頭おかしくなるわな、これを経験しちまえば。だって誰にもなんにも言えなくなっちまうんだもん。船頭たちにも強くは言えない、罪人たちを擁護することも出来ない。そんな中途半端な自分に憤ってはこんな感情に辟易して、どっち付かずになって…きっとしんどかったんだろうな…アイツも。

よくここまで頑張ってこれたよ…高見沢。お前もすげぇよ…

 

「罪人たちも…本当にすまねぇ。俺たちのせいで…裁かれる前に殺されるだなんて…」

そうだよなぁ…、十年前のあの日も俺たちのせいでアイツらは全員魂すらも跡形もなく死んでいった。全部…俺たちのせいで…

「ごめん…。みんな、本当にごめん…」

立ち止まっていた足をもう一度動かし、奴へと向かって歩き出していく。

許さねぇ…。許さねぇッ!!

 

「ん?立ち向かってくるというのか?こんな状況でも?」

「くっ…。俺が立ち向かわなきゃ…コイツら全員の無念が晴らせねぇだろうがよッ!!」

「うーん…そういうもん?」

「覚悟しやがれテメェッ!!」

ダッと走り出す俺の足。

俺が奴に勝たなきゃコイツらが余りにも可哀想だろうがよ!せめて仇討ちぐらいはさせろやッ!!

お前を殺すッ!!

 

「んーー…、仕方ないなぁ…」

 

꧁——————————꧂

 

「やっぱ人間だからこんなもんかぁ〜」

「……っ、」

何が起きたのか分からないうちに俺の体は黒い物体に貫かれ、それが通り過ぎていった直後にはもう体が全く動かせなくなっては立つ力もままならなくてその場で倒れ込むしか為す術がなかった。

俺の最期は…こんなもんなのか…?

アイツら全員の…仇すら取れねぇのか俺は…?

 

「ふざ……けんなよ…、この野郎…」

「んんー?」

黒い奴が不思議そうに俺の顔を覗き込むかのような仕草を見せているが、顎に指を当てては「コイツもなのか?」と疑問を口にしていやがる。

「…?」

「この男も自分の魂ではないのか…。実に不思議な奴らだ」

「……くっ」

コイツ…分かってやがる、俺と高見沢の魂が他人のものだって。

じゃあコイツは一体何者なんだ…?

けどダメだ…、もう思考が働かねぇ…。頭が…フワフワする…

俺たちはこのまま全員ここでお陀仏なのか…?

なぁ、船頭…。お前の大事なもん、また全て奪っちまって悪かった…。お前がこんな状況なのを知ったら…もう、お前はこの仕事をやっていける自信なんてねぇに決まってるよな…

もしお前の命だけでも無事だったのなら…

お前はもうこの島から離れろ…。もう、これ以上ツラい思いなんてさせたく…ねぇ…

 

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