罪人たちの舟 終焉5
「起きろよ…。起きろよお前ら…」
俺が呼びかけても二人は返事なんてしてくれない。
なぁ、俺たち三人は死ぬ時くらい同じだって言い合っていたよなぁ…?なに先に逝ってんだよ。ふざけんなよ。お前ら本当にいつまでも身勝手だよな。
「何があったんだよ…。どうしてこうなったんだよ。説明してくれよ…、誰か一人でもいいから生きてる奴はいないのかよぉッ!?」
俺は自分が寝てる間になぜこんなにも大勢の命を奪われたその事実に早く気付けなかった?目が覚めるのが遅すぎたのか?もっと早くに目が覚めていれば何か変わっていたかもしれないのに…。いや、あの時俺があの死神にやられてさえしなければきっと結果は違ったのだろうか。
自分の無力さ、下らなさ、焦燥感が全身を取り巻いていくせいで俺の体はガクッと簡単に力が一気に抜けていっては二人の罪人の目の前で膝をついて絶望するしかなかった。
さっきまで震えていた体はもう震えてすらいない。寧ろ脱力感に襲われてしまえばもう何もかもを放り投げて自分も死んだ方がいいのではないかと、本気でそう考えてしまっている自分がいるのもまた事実。だってそうだろ…?俺なんかよりまだ若くてこれから先もまだまだ生き続けなきゃならない仲間たちがいたっていうのに俺はみんなを誰一人として守れなかった。誰一人としてアイツらの最期を看取れやしなかった。先に死ぬべきはこの俺なのに…
二十四番も七十二番もきっとみんなと一緒になって戦ったのだろう。罪人たちを守ろうとしてくれたんだろう。
十年前のあの日、お前らが俺のかつての仲間たちを殺したのは今でも当然許すつもりはないし、これからも許す気は更々なかった。でも今回はその立場が逆転しており、二人がきっと今の仲間たちと一緒になって戦ってみんなを守ろうとしてくれていたんだろうなってのがなんとなく想像が出来る。
やっと二人と少しずつ心が通い合ってきたかと思っていたのに…
あと少しで二人の心に触れられそうなところまで来ていたのに…!
二人だって改心し始めてるのを俺は傍で見てきたのにッ…!!
「俺は十年前からなんにも変わってねぇなぁ!?また……、また同じことの繰り返しかよ俺は!?何度人の命が奪われれば済むんだよッ!!…っく、そぉ…!チクショォォオオオーーーッ!!!」
今まで塞き止めていた涙が一気に溢れ出してきてしまい、両手を思い切り地面にドカッ!!と力の限り拳を振り落とせば俺はそのまま蹲りながら大声でみっともなく号泣するだけの情けない男に成り下がっていた。
自分の不甲斐なさ、弱さが招いた結果だということは痛いくらいに理解している。でもこんなのあんまりじゃないかよ…!なんで二度も同じことになってしまうんだ!?なんで俺は人が死ぬところをこうも簡単に許してしまうんだ!?
こんな自分が嫌だ…!!たった一人だけ生き残って惨めすぎる…!もういっそのこと誰かの手で俺を終わらせてくれよッ…!!
わんわん泣いている俺に見兼ねたのか、マモン様がこっちへと近づいてくる足音が聞こえてくる。なので俺はバッと顔をあげては惨めったらしくマモン様の足元にしがみつき、ぐしゃぐしゃの泣き顔を晒してはマモン様へと縋る。
「お願いですマモン様…!!どうか私を…私を殺して下さい…!!」
「……。」
「また私は大勢の命を犠牲にしてしまいました…!こんな奴がこの島に残って、こんな仕事を続けてていい理由などありません…!!」
「ほぉ…」
冷めた視線が突き刺さるけど、もう俺にはそんなもの関係ない。どうでも良かった。寧ろ今は全く恐れなんてなかったから。
「だってどう見てもこれが私の罪じゃありませんか…!?また私は仲間たちを守れませんでした…。また私は罪人たちを皆殺しにさせてしまったんですよ…!?こんな使者、貴方に相応しくなんてないでしょうどう考えたって!?…この罪が許されるものだなんて当然思っておりません…」
「ではどうするつもりだ、お前は?」
「今すぐ私の命で詫びる他ありません…。もうそれ以外の方法が私には分からないのです…。なので私を殺して下さい…っ。こんなのもう耐えられません…!」
みっともなく泣きじゃくってはマモン様に対して無様な姿を見せつけているせいでマモン様も心の底から呆れては嫌悪してそうな表情をしているが、寧ろその態度の方が俺は救われる。優しくされたらそれこそ俺はもうダメになるだろうから。
「言ったはずだ坂崎。貴様の命は私が握っているのだと。これは契約だ、勝手な真似は決して許さんぞ坂崎」
「だけどもう俺にはムリなんです…!!何もかもがどうでもいいんです…!!どんな殺され方をされても文句は言いませんから…!だからっ…死なせて下さい……、お願いします…」
「ならん。死ぬことは許さん」
「どうしてです…!?こんな出来損ないの使者、いらないでしょう!?貴方だって昔私のことを出来損ないだと言って殺そうとしたじゃないですか!?あの時と何が違うのです!?同じでしょう!?」
「気が変わってお前を死なせたくないだけだ。もうこれ以上の戯言を許さんぞ坂崎」
「でもッ…!!」
俺が口答えしようとすると、マモン様の表情がとてつもなく恐ろしい顔に一変してしまったせいで俺はまた情けなくビクッとして怯んでしまえばマモン様に縋るのをやめて、その場で俯いてはボロボロとただただ涙を流すだけしかなかった。
俺が生きてたって何になるって言うんだよ…。こんな使者、どう考えたっていらないだろうに何を考えてるのか全然分かんねぇよマモン様は…。多分頭イカれてるんだろう、このお方は。他の悪魔たちなら俺がこんな風に泣きじゃくってみっともない姿を晒した時点で即殺しにかかってくるはずだと言うのに、なんでいつもマモン様は俺なんかを…
「逃げるな坂崎。死んで楽になろうとするな」
「っ…」
「それともあれか?貴様は死ねば皆のところへ行けるとでも思っているのか?残念だな、坂崎。貴様の魂は決して私からは逃れられん。死んだあともこの私の手の中で握られ続けるだけだぞ?」
「……。」
静かにマモン様を見上げ、その言葉の意味を心の中で繰り返しては理解しようとするけれどこんな状態では頭は働いてはくれない。
なに俺、死んだあとも天国や地獄にも逝けないの…?ひたすら俺はこの島に縛り続けられなければならないというのか…?かつての仲間たちのように墓が建てられることもなさそうな言い方だったし、俺はなんの為にここまで頑張って努力してきたんだろう?それすらも分からなくなっていく。
こんな無情な話を今初めて聞かされてしまえば、もうこれ以上は何を言ってもムダだと悟り一人静かに声を殺して泣くだけしか出来なかった。俺に救いなんてもん、ある訳ないよなそりゃあ…。だって悪魔に従って生きてきたんだもん。
俺は…
俺はどうすれば良かったんだよ…じゃあ…
「マモン…、船頭を許してやってくれ…」
「…!?七十二番…!」
お前、生きてたのか…!?
唐突に聞こえてきた七十二番の声に驚きつつも、七十二番は虫の息同然なのに一つ一つゆっくりとした口調で言葉を紡いでいくけど…お前、もうあんまりムリするんじゃねぇよ…!死にかけてたんだろうが今まで…!
「生きてたのか…七十二番」
「あぁ…。この命、船頭のものだったお陰で魂までは奪えなかったみてぇだな…」
「!」
さっき死神が言っていたあのことか?他人の器に他人の魂がどうたらこうたら言ってたが、やはりコイツらのことだったって意味か。
「それでも良かった…七十二番と二十四番がまだ生きてくれてたなんて…」
「…ま、生き残ったのは俺と桜井だけみてぇだけどな」
「あぁ…。そうだな」
暫く会話の間が空いたが、七十二番から「十年前と全く同じだな…」と口にしてくるので俺は俺でドキッとしてしまう。
「え?」
「お前のその顔を見るに…俺と桜井と船頭、またこの三人だけしか生き残らなかったってツラしてんなお前…」
「……。」
どう答えていいのか分からなくて、小さくコクッと頷くだけの動作しか出来ずにいた。だって声に出したくなかったからだ。
「俺たちは何度同じことを…繰り返せば済むんだろうな…ほんと。自分自身に嫌気が差すわ…ったくよぉ」
「だけど俺はお前たちが無事なだけほんの少しだが心は救われた…。生きてくれていてありがとう、七十二番…」
そう俺が七十二番に伝えてみせると、コイツはフッと僅かに微笑みながら「生きてくれていてありがとう…か」と俺の言った言葉を意味深に繰り返す。
「お前の口からそんなセリフが聞けるとはな…。ほんと…視野と心が広くなったな、船頭…」
「七十二番…お前…」
俺のこと…認めてくれたのか…?
少しだけ呆気に取られている俺から視線を外した七十二番は、今度はマモン様へと視線を移して「なぁ、マモン」と何かを伝えようとしている。
「なんだ罪人」
「この船頭のことがだぁい好きってんならさぁ…俺と桜井の魂、やっぱりコイツに返してやってくんねぇか…?」
「ちょっ…!何言ってんだよお前…!?」
「……。もうこれ以上船頭を不幸にしないでやってくれ…。あと数年しか生きられないのなら…もうこの場所や仕事から解放してやってくんねぇか…?これ以上、船頭の心に傷を負わせたくない…見てられない…」
七十二番…
「俺だってさぁ…、もう人が無意味に殺されて…死ぬところなんて、見たくねぇよ…」
「…っ、」
「ここまで一緒に生きてきた仲間たちを失った…。アイツらはなんにも悪くないのにさぁ…それなのに…、アイツらの魂は弄ばれた…。本来なら俺と桜井が死ななきゃいけねぇ立場なのに、…なんでアイツらが死んじまうんだ…?」
「貴様のような罪人がよくそんなことをぬけぬけと口に出来るもんだな。これは驚きだ」
「あぁ…そんなのテメェに言われんでも分かってる…。どれだけ自分が都合のいいことを言ってるかだなんて、そんなの分かってるわ…。それでも…それでも、十年は一緒に仕事してきた仲間ではあったからさ……」
七十二番がそんなことを言うだなんて思ってもみなかったので目を見開いてこの男を見つめていたが、コイツにもこんな風に仲間意識がちゃんとあってくれていたことだけでも救いだし今更になってしまうかもしれんが嬉しいとすら思ってしまった。
でもその本人たちは誰一人として生き残ってないなんてな…。無惨だよ…こんなの…
「悔しかったし、悲しかった…。怒りの感情しか出てこなかった…」
「貴様のような罪人がか?」
「…あぁ。だからもう、船頭を解放してやってくれ…。きっと…俺たち以上にキツい思いをしてるのは、船頭本人だろうから…。なぁ、マモン…。もういいだろ…?十分船頭で遊んだだろ…?流石に満足しただろ…?だから…船頭を休ませてやって欲しい…」
七十二番の思ってもみなかった願いに対して、相変わらず驚きを隠せないでいる俺とは逆にマモン様はすかさず「ならん」と冷たく言い放つ。
「……なんでだ」
「坂崎は私との契約がある。それが切れない限り、この男の命は私の意のままということだ。そしてなぜ私が貴様のような穢らわしい罪人の話に耳を傾けなければならぬ?思い上がるな、死に損ないめ」
「マモン様…!そんな言い方あんまりでは…!?」
俺が咄嗟に七十二番を庇ってしまったせいなのか、マモン様が冷えに冷え切った目で俺をギロッと睨みつけてくるせいでまたもや肩がビクッと一瞬跳ねてしまったが、俺たちの会話を聞いていたであろう二十四番が「ったく、テメェはよぉ…」と呟きながらもゆっくりと目を開ける仕草を見せる。
「二十四番も…無事だったか…!」
「無事ではねぇがな…」
そんな二十四番が今度は視線だけを移してマモン様を睨みつけると「テメェはいつまで経っても変わんねーなぁ…」と嫌味っぽい口調でマモン様に反抗をする。
「なんの話だ」
「こっちはこんな船頭の姿、見てられないんだっつーの…。しかもこんな精神状態じゃあ、仕事だってままならないだろーが…」
「それは分からぬぞ。坂崎の精神は恐ろしいほどに強靭ではあるからな」
「一々うるせぇわ…。もう船頭は十分すぎるくらいには頑張ったんだから…ここから解放してやれって言ってんだろうが…。…お願いだ、マモン。船頭を手放してやってくれ…」
「ふんっ。貴様らはその見返りに見合う何かを所持しているのか?その魂すらも坂崎のものではないか」
「…見返り、かぁ。何が…差し出せるんだろうな…俺たちなんかが」
「ちょ、ちょっと待て…!!何勝手に話を進めようとしてんだよ!?俺は辞めるつもりなんか…!あ、あのマモン様、コイツらの言ってることは聞かなくて結構です!全ては私の責任です、どうか罰は私一人で受けますのでコイツらだけは見逃してやって貰えないでしょうかッ…?本当に…申し訳ありません…」
未だに座り込んで両膝がついたままの状態なので、その流れでマモン様の目の前で頭と手を地につけて土下座する形になってみせるも、二十四番と七十二番になぜか舌打ちされてしまった。
でもだって…!これはお前らのせいじゃないのは確かだろうが!?俺の不甲斐なさが招いた結果でしかない。二度も同じことを繰り返してしまった俺の罰。決して許されることのない罪。
「鬱陶しい、頭をあげよ坂崎」
「は、はい…」
マモン様に命令されてしまえばそっと頭をあげてマモン様の方を見上げてみせる。
「お前はそんなにも私からの罰を受けたいのか?」
「はい…。なんなりとお申し付け下さい…!」
「ではお前たち三人はこの惨事の処理を終わらせ、この罪人どもの魂をお前へと戻したのちお前は永久に私の元で働き続けろ」
「……、」
「なっ…!?」
「マモン…テメェ…!」
そ、それはつまり…。生涯、死ぬことすらも許されず…ここの島で永遠に働かせ続けられるって意味だよな…?
言われた直後は理解が追いつかなかったけれど、なんとかマモン様の言った言葉を段々と理解してきたので俺はそれに対して「はい」と答えるしか道はないってことだよな、これって。
でも待って…、この島に永久?流石にそれは…頭がおかしくならないか俺?
思い描いた先の未来を想像するけど、俺はこの苦しみや絶望から逃れられないって意味だよな…?いやまぁ、逆にこれでいいのかもしれない。だって俺は許されない存在になってしまっているのだから、それぐらいの罰がお似合いなんだろうな…きっと。
酷く冷静に物事を考えられる頭であった為か、俺が「はい、承知致しました」と淡々と答えると二人から「おい…、この悪魔めッ…!!」だとか「船頭耳を貸すな…!マモンの言いなりになるな…!!」だとか聞こえてくる。
だけど俺には聞こえないフリをするしかなかった。
「物分りが良くて助かるぞ坂崎。流石私の可愛い哀れな使いだ」
「ありがとうございます、マモン様」
「この醜き罪人たちと共にこの惨状の事後処理を行ったのち、二十四番と七十二番から坂崎の魂を取り出す。貴様らもそれで良いだろう?坂崎の魂は貴様らのような罪人どもから解放されるのだからな」
「バカ言え…!意味が違うわッ…!!」
「そういう意味で言ったんじゃねぇよ!船頭をこの島から解放してやれって意味で、」
「喋るな、耳障りだ。口答えの多いお前たちなんかより、坂崎は物分りが良いな。コイツは全てを受け入れる覚悟があるそうだぞ?」
「船頭なんで…!?」
「こんなの…おかしいだろうが!?」
「……。」
「うるさいと言っておる。坂崎が覚悟を決めたのだからその判断を鈍らせるようなことはしてやるな。逆に可哀想と思わんのかね?とは言えこれは私と坂崎との契約だ。貴様らに口出す権利などない」
するとマモン様が倒れて動けないでいる二十四番と七十二番の前までやってきては、二人の負傷した箇所へと手を当てると…手の隙間からは柔らかな光と共に、二人の傷を癒す温かなマモン様の手のお陰で二人の体にあった傷が見事に修復しているではないか。これはきっと治癒の力を使ったのだろう。
そのお陰なのか、二人はすぐに回復したようで急に起き上がってきてはすぐさまザッと立ってからマモン様に噛み付こうとする。
「くっ…!」
「なんでテメェなんかに…!」
「この数日間、きっちり働け。貴様らの命もあと僅かなのだからな。では私は戻る」
「はっ」
「おいマモン!」
「待てやテメェ!!」
「もういい!二人ともやめろッ!」
「けどよぉ…!!」
「お願いだ。もうなんにもしてくれるな。お願いだから」
「船頭…」
「お前……そんなんでいいのかよ…?本当にそれでいいのかよ…?」
「あぁ。俺が決めたことだ。だからこれでいい」
俺は逃げない。この罪から。
「良くなんかねぇだろッ!?ふざけてんのかテメェは!?」
二十四番に罵倒されるも、俺は「ごめん」と静かに答えるだけ。
「こうするしかなかった。二人の寿命も奪い取っちまってすまない。ごめん」
「ンなもんどーだっていい!この命は元は船頭のものだ!俺らはいつだってお前にこの命を返すと言ってあったはずだ!俺らは今すぐにでも返せと言われたらお前に返せはするさ!けど…っ、けど!マモンの元で永久に働かされ続けるのだけは違うだろ!?なぁ!なんでお前はいつも不幸になる方を選ぶ…!?苦しむならどう考えたって俺と桜井の方だろ!?なんにも罪を犯してないお前がなんで……、なんでッ!?」
七十二番の心からの叫びが今は心地いい。そして嬉しかった。本心でそう言ってくれてるのが聞けて、本当に…本当に嬉しかったよ俺は今。
また泣きそうになるじゃんかさ。
「ありがとう七十二番。でももういいんだ、これが俺の罪だから…。だってまた…裁きを終える前の罪人たちを死なせてしまった…。そしてまた仲間たちを全員、死なせてしまった…。これのどこが俺の罪じゃないって言えるんだッ?最早言い逃れ出来ないだろこんなのッ!?」
「船頭…」
途中までは冷静でいられたのに、後半から語尾が強くなっていってしまったのはやはりそれは自分自身に対しての罪悪感が余りにも大きすぎるせいだろう。
「昔の仲間たちが死んだ時…お前たちを許せなかったのも当然だが、俺自身を許せなかったのが一番なんだ。不幸中の幸いなのかは分からんが、昔の仲間たちはお前たち人間に命を奪われたからまだ魂がそこにあったお陰で悪魔たちによってここで眠りについていられるけど、でも今回は違う…。あの死神に魂を狩られたせいでアイツらの魂はもうここにはいない…。戻ってこない…」
「……死神」
「…そうか。やっぱアイツら…そうか」
二十四番は死神という言葉に驚き、七十二番は俯きかけて諦めに入ってしまっている様子。
「これから全員の遺体を回収する。仲間たちも罪人も、変わらず弔ってあげよう…。一人残らず、きちんと埋葬してやらなきゃだしな」
俺がみんなが眠りについている方だけを眺めると、それに釣られて二人もみんなが眠っている方だけを見つめている。すると七十二番が「罪人たちは瞑道の窯へやるのか…?」と、彼らしからぬ悲しくも優しい口調で俺に尋ねてきた。
「いいや、違う。裁きも下されなかった罪人たちを勝手に窯の中へと葬る訳にはいかない。ちゃんと本土へ帰そう。みんな、全員」
「…あぁ、分かった」
二十四番の方もとても落ち着きのある声をしていたと同時に俺に言いたいことをグッと我慢しては喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだような様子が見て取れた。そう、もう俺にこれ以上何か言ってもムダだから諦めてくれ。
「まずは全員の体を一箇所に集めよう。さぁ、取り掛かるぞ」
気丈に振る舞うつもりはないが、コイツら二人にはそう見えちまってるのかは知らないけど二人とも俺のことを凄く心配してそうな目と、俺をどうにか出来ないのかという諦めてはいないような目で見てきては「分かった」と一言返してから一人一人の体を集める作業に取り掛かっていった。
俺はどうすれば良かったんだろう。また仲間たちを全員死なせてしまい、マモン様や他の悪魔たちは俺に対してどう思ったのだろうか。アホだ、滑稽だとそう思ったのかもしれない。同じことの繰り返しで俺に対して心底呆れてしまったのか、それとも憤っているのか…彼らは何も言ってはこなかったからそれすらも分からない。地獄だ。
「みんな、本当にごめん…。ごめんっ…!」
自然と溢れ出してきてしまう涙は彼らを誰一人として救えなかったせい。今こうして彼らの体を抱えあげて一つの場所に集めているこの時、十年前の出来事もフラッシュバックしてくるせいで余計に視界が滲んで滲んで仕方がなかった。
殺したい…。自分をこれほどまでに殺してやりたいと思ったことはこれが初めてだろう。しかし俺はそれとは真逆で永久に生き続けなければならないらしい。それもそれで終わりが一切見えないので死ぬことの方がどれだけ楽な罰なんだろうかと、言い渡された今本当にそれを実感している。
まぁ、死んだとしても俺の魂はマモン様に握られ続けるみたいだけど…
「……っ」
前向きに捉えるしかない。こうして生き続けていくのは、仲間たち全員分の生きていくはずだった年月を代わりに俺が生きていくだけなんだと。死んでしまったみんなの分まで俺が生きなきゃいけないのは当然だろ…!死ぬのなんて許されるはずがないよなそりゃあ。
一人一人の体を運び終え、ようやく全員分の体がここへ集まったようなので今度は全員出来るだけ綺麗な状態のままにしてあげる為に、俺たち三人で処置していく。一人ずつ目を瞑らせてあげて、傷を負った者たちはなるべく血を拭き取りその傷をガーゼや包帯で塞いであげる。
「持ってきたぞ船頭」
「ありがとう、二十四番」
そして大量の白い布を館の方から取りに行ってくれていた二十四番が今し方帰ってきたところで、三人手分けしてこの白い布で全員の体を優しく覆っていく。なるべく丁寧に。
二十四番も七十二番も見たことないくらい焦燥感に駆られている顔をしながらも終始黙って作業を続けてくれているそのお陰か、予想よりも案外早めに終わったようだった。
「ごめん二人とも、ちょっと向こうの人たちと連絡取り合ってくるわ」
「あぁ分かった」
「俺たちはここにいるぜ」
「うん。よろしく」
なので俺は一旦家へと戻り、本土にいる向こうの作業員の人たちと連絡を取り合うこととなり今の俺たちの状況を説明していく。
俺が淡々と話していくせいで、向こうも何がなんだか頭が追いついていない状態だったけど俺はそんなもの気にせず電話口で全てのことを話していくだけにした。
暫く話し合い、なんとか明日までには受け入れる準備をしておくから明日の早朝を目安にみんなの体を引き渡すこととなった。なのでそれまでみんなの体は一晩ここに置いておくしかないらしい。まぁ仕方ない、彼らもイレギュラーな対応に困っているのは分かっているからさ。
「じゃあ明日よろしく頼む…。うん、…うん。はい、分かりました」
電話を切り、もう一度俺はみんなが眠っている場所へと戻れば二十四番と七十二番は「どうだった?」と聞いてくるので「明日受け入れてくれるみたい」と手短に伝える。
「そうか、仕事が早くて良かった」
「うん。このまま何日も放ってはおけないからね、こっちも」
「この遺体…どうする?」
七十二番に聞かれたが、俺も少し悩んでたところなんだよねぇ。
「仲間たちはみんな自分たちの家へと一旦戻そう。罪人たちは施設の方へ持っていくしか思い浮かばなくて…。館に移すか?とも考えたけど、悪魔たちがそんなの許すはずもないもんな…」
「リヤカーぐらいしか運べるもんないけどいいのかそれで?」
「うん。それはもう仕方ない。この人数を一人一人運んでたら俺たちも苦しくなってしまう。でもせめて…せめて仲間たちだけは俺たち三人で手分けして家へと帰してやりたい…。我が儘ばっか言ってごめん。いいかな…?」
そう俺が俯きながら質問すると、二十四番がすかさず「いいに決まってる」と答えてくれたので心のどこかで安堵する。
「ありがとう。じゃあ先にみんなを…家へ帰そう」
「あぁ」
「了解した」
二十四番と七十二番が仲間たちの体を一人ずつ丁寧に抱えあげ、そしてそれぞれが住んでいた家の方まで運んでいっては彼らをベッドの上に寝かせてあげる。その繰り返しを三人で二回にして分けて行った。
そして罪人たちには申し訳ないが、人数が多いので一人ずつ運ぶ訳にはいかないがなるべく丁寧に扱いながらリヤカーで施設の方まで連れて行き、流石に牢の中に運び込むのも悲しいので遺体が置けそうな広いスペースはもちろんあるのでそこへ置いておくことにする。
なんかもう、自分の感情が訳分からないよ…ほんと。俺何してるんだろうって、何度も思っちまった。
「二人ともありがとう。今日はもう終わりでいいよ。俺はマモン様に一度報告してくるから、お前らはこのまま帰っていいよ」
「別について行くぜ?」
「そう言ってくれてありがとう七十二番。でも今日はいいよ。二人とも疲れ切ってるだろうからしっかり休んで欲しい。疲れを明日に持ち越さないでくれよな」
「それは船頭も同じだろ?」
二十四番にそう指摘されてしまえば俺は何も言えない。
「うん、そうだよね。俺も報告が終わったらすぐに帰るから大丈夫。じゃあ…お疲れ様」
「…おう」
「お疲れ」
二人のいつもは聞かない優しい声と言葉にほんの少し救われながら、俺は悪魔たちの住む館へと重い足取りで向かっていった。
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