罪人たちの舟 終焉6
次の日の朝、仲間や罪人たちの遺体を舟まで三人で全員乗せていき、罪人たちはもう一度海を越えて向こう側へと戻ることとなった。しかしそれは喜ばれるべきではないことだけなのは確かだ。
朝コイツらと顔を合わせた時も、二人は大人しく挨拶を交わしてくれた程度でムダな雑談などは一切なく、かなり事務的な話し合いだけをしてから仕事を開始した。仲間のいなくなった朝のミーティングはこんなにも寂しいんだと、思い出したくないのに思い出される記憶。
二十四番と七十二番は今何を考えているのだろうか。こんなにも大人しい二人を見るのは初めてだ。
「こっちは終わったぞ船頭」
「うん、こっちも終わった。七十二番は?」
「もう終わる」
「分かった」
白い布に覆われた者たちを一人残らず舟へと乗せ終えると俺がそこで一息ふぅ…とため息をつけば二十四番が「大丈夫か?」と心配してきてくれたみたい。
「あ、あぁ…なんとか。それよりも向こうの人たちが待ってるから早く行かなくちゃな」
「あのよぉ…ずっと疑問に思ってたんだが、お前これどうやっていっぺんに運ぶつもりなんだ?」
もう一度二十四番に質問されたので「それなんだけどさ…」と俺は言葉を続ける。
「昨日の夜からずっと考えてたんだけど、俺一人じゃとてもムリだから……お前たちが舟を漕いで欲しい。〝船頭〟として」
「えっ…?」
「俺たちが…?」
今の俺の一言で二人とも驚いた顔して「本気か?」なんて言ってきそうなツラしていやがる。ま、こんなこと言われるだなんて思ってもみなかっただろうからそりゃこうなるよな。
でも俺だけでこの人数を運んでいると、何度も往復しなくてはいけないので二人が船頭をしてくれた方が一番手っ取り早いと思うんだけどね。
「うん。悪魔たちにはさっき会った際に、予め許可は取ってあるからなんら問題ない」
「そ、そうなのか?」
「いつの間に…」
未だにどういう反応をしていいのか困ってそうな二人だったけど、俺が二人の前に立ち二人の目をしっかりと見つめてから言葉をまた続けていく。
「お願いだ、二人とも。みんなを向こうまで運んで欲しい。…帰してあげる為に」
「本当に…俺たちでいいのか?」
二十四番が少し躊躇してそうな、そして不安そうな表情で俺に尋ねてくるが俺は「うん」と頷いてみせた。
「なんてったって俺はお前ら二人のことを信じてるからな。今更もうお前ら二人が逃げ出したりするとか疑ってないからさ、だから二人に頼みたいんだ」
「なんでそこまでして…?」
今度は七十二番が訝しむように聞いてきたが、俺は再び二人の目を見てハッキリと答える。
「だって俺はお前ら二人のことを信頼してるんだもん。二人が裏切らないって分かってるから安心してみんなのことを頼めるんだけどな。違うか?」
俺が逆に二人に尋ねてみると、七十二番は一瞬目を空へと向けてはほんの少し照れがきているのかは分からないが、俺と目を合わすのを誤魔化しているのに対して二十四番は口をキュッと閉じては顔を下に向けながら意味深に大きく頷いてくれた。二人とも恥ずかしいのか?
しかしからかうつもりは到底ないので、俺は「だからよろしく頼んだ」と言い切ってみせるとようやく二人は俺と目を合わせてくれて「…分かった」と承諾してくれた。うん、お前らならそう言ってくれると思ったよ。
「そしたら舟を漕ぐ練習をしよう。まだ舟がそこにあるから、それで一度一人ずつやってみようか」
「そんな簡単に出来るもんなのか?」
七十二番が疑問に思うのも仕方ないよな、初めて舟漕ぐんだし。でも二人ならきっと大丈夫だよ、ヘマなんてやらかさない奴らだしさ。
「今日は波も怖いくらい穏やかだからきっと上手くやれるはずだよ。それにお前たちはいつも筋がいいから簡単にコツを掴んで操作出来るってば絶対」
「ホントか?」
「大丈夫だってば。だからほら、練習するぞ」
「お、おう」
二人を連れて舟に乗ると、俺はまず二十四番と七十二番にオールを手渡して舟の漕ぎ方を伝授していく。
俺が見本となり、二人は俺の言ってる言葉を見様見真似で舟を動かしていくがやはり飲み込みが早い二人なので思っていたよりもずっと早く自分たちのものにしてしまったようだ。いつも二人は俺の教えることをすぐに覚えてなんでもかんでもそつなくこなすから、やはり優秀な人材であるのには間違いないのだろう。本当に…ただの船頭仲間として働けたら、どれだけ良かったんだろうなって…今ふとそんなことを初めて考えてしまった。
罪人と船頭という間柄じゃなければ、俺はコイツらと険悪にならず笑い合いながら過ごせていたのだろうか…?
そんなありもしない妄想世界の俺たちを想像してしまっただけで、なぜかウルッと瞳が揺らいでしまったのだがギリギリ二人にはバレていないはずだ。こんな涙…コイツらになんて見せたくねぇよ…
「? どしたんだ、船頭?」
「い、いや。なんでもない」
目にゴミが入ったフリをしてメガネをズラしてから肩口でゴシゴシと目元を拭う。はァー…、くだらねぇなぁ…
なので練習はもういいかと思い、「じゃあそろそろ行くか」とだけ声をかければ二人が不思議そうなツラをしながらも、これ以上は追求もしてこずに「あぁ」とだけ答えてくれた。
そんなこんなで練習に使っていた舟を片付け、みんなの体が乗せられている方の舟の場所へと戻ってくると俺たちはそれぞれの舟を海の方へと押し出してから自分もそのまま船上へと体を乗せて、そしてオールでこの綺麗とは言い難い海を漕ぎ進めて行く。
二人が後ろからちゃんとついて来ているのかを確認したあと俺は自分がリードしていく為に二人よりも少し先を漕いでみせる。…にしても今日は意外と霧が薄い方だな。
霧がかかっていても俺はどこへ行くかなんてよく分かるから、ただひたすらこの海を突き進んでいけばいい。二人も何か言うこともなく真剣に舟を漕いでるようだし、文句の付け所がないくらい上手だから流石だなって感じだ。
更に暫く舟を漕いでいけば、ようやく霧が晴れていき目の前に広がる港がうっすら目視出来てきたタイミングで二十四番が「こんなに島と近かったっけ」と呟いたのが聞こえたので、俺は「この霧が島を隠す役割をしてるからな」と答える。
「そうか…」
「向こうからあの島は見えちゃいけないもんでね、だから世界を隔絶する為の霧なんだよ。これを超えちまえば案外島と本土って近いんだよね」
「へぇー…」
「ほら、もうすぐ着くから気を引き締めて」
「お、おう」
「すまん…っ」
そんな別に謝らなくてもいいんだけどね。ていうか二人が気持ち悪いくらい素直すぎてずっとやりにくい。いやでもまぁ…あんなことがあったあとだから、コイツらだってふざける訳にはいかねぇもんな。一応そこはもちろん理解しているからな?
そして無事に港の船着場までやって来た俺たちを出迎えくれる向こうの役人さんたち。俺らが舟を横につけてみせれば向こうの人たちが一緒になって手伝ってくれるので、いつも半分はお任せしている。
しかし今回は異例中の異例の出来事だった為、こっちの人たちは全員顔を暗くしては「あぁ…」とでも言いたげな、なんとも言えない表情なのは伝わってくるさ。だけどやってもらうしかないのでこの布に包まれた体を一人一人陸へと運んでもらうと同時に、もちろん俺も手伝う。
俺の舟には仲間たち六人全員が乗っている為、先にみんなを運んでもらうことにして欲しいと頼んでおいた。
「……。」
一人ずつ丁寧に車内へと運ばれていく仲間たち。
それを見送る俺はここからただ眺めているだけ。
もう昨日の夜死ぬほど泣き腫らしたさ。この後悔が報われることなんてないのは覚悟しているが、ただお前たちは俺なんかより若くてこの先も俺と違って未来がきっとあったはずなのに…なんで未来なんてものがない俺一人がいつも生き残っちまうんだろうな。
「…っ」
ダメだ、やっぱ油断しているとまた泣けてきそうになるな…
誰も見ていないうちにまた涙を拭う。
その場でぼうっとしていたら、後ろから「坂崎さん」と呼ばれる声がしたので息を軽く整えてからパッと振り向いては「はい」とだけ返事をしつつそちらへと俺の方から歩いて行ってみせた。するとこっちの役人の人が神妙そうな面持ちで「坂崎さんは無事だったんですね」と一応は気遣ってくれたみたいだ。
「まぁね。でも他のみんなは見ての通りだよ…。またコレだ」
俺が重たく最後の一言を放つと相手も空気を重くしては「そうですね…」と同意してくれる。そのせいで数秒だけ間が空いてしまったが、向こうから気を利かせて「あちらのお二人は誰ですか?」と話題を少し逸らそうとしてくれたようだ。
その優しさが苦しいよ、ホント。
「え?あ、あぁ…。コイツらは罪人だよ」
「罪人っ??」
目を丸くして驚いている相手だったが、興味を示したように俺へまた質問を続けてきた。
「裁きを逃れた罪人たちですか?」
「いや、違うんだ。訳あって生きてはいるけど…この二人は、その…十年前に反乱を起こしてあの島から逃れようとした罪人の主犯格だよ」
「えっ…!?あの時の罪人がコイツらって訳ですか…!?」
相手の声が大きい為に周りにいてまだ作業している人たちに軽く注目されてしまったじゃないか。や、やめてくれ…
しかもそんな責めてくるような口調で言ってくる為、傍にいた二十四番と七十二番が気まずそうに俺たちがいる方から目を逸らす仕草を見せたのは当然だろう。だから俺はすぐに訂正する。
「それはそうなんだけど…、もう責めないでやってくれないか?」
「えっ?」
「コイツらも今回のことがあって、自分たちの犯した罪の重大さも仲間たちが死んでしまった悲しみ、救えなかった大勢の魂に嘆くことが出来るようにまでなってちゃんと改心してるから…。コイツらもコイツらで深く傷付いてるんだ…。だからお願いだから…あんまり二人を責めないでやって欲しい…。ごめん」
ペコッと軽く頭を下げると相手が慌てたかのように「ちょっ…!頭上げて下さいってば…!」と焦らせてしまったようだ。
近くにいた七十二番が「船頭…」と少し驚きながらこっちを見ているのには気づいているが、でもこれって本当のことじゃん?お前らだって傷付いてるはずだし、悲しかったんだろ?なら何も俺は間違ったことを言ってないと言い切れる。
「こちらこそ失礼な言い方をしてすみませんでした…!今回のことは異例中の異例だったので皆さんが悲しむのは当然だと思いますし、我々も見知った顔がこうも一気にいなくなってしまったと言われても実感がないと言いますか…」
「そうだよね、そっちも悲しく思うのは当然だよね」
「はい…。えっと、自分たちもまだ今からやらなければならない作業や手続きもあってバタバタしてますので、これで失礼させて頂きますね」
「うん、よろしく頼んだよ。みんなを…ちゃんと帰してやって欲しい」
「はい。必ず」
ここで話しを切り上げれば俺たちの仕事はこれでおしまい。全員が車の中へと運ばれていったのを見送り、俺たち三人は役人の人たちが車を出しては遠くへ行ってしまうのをただ眺めていただけで暫くそこでポツンと突っ立っていた。
みんな…今までありがとね。さようなら。
「……。」
「船頭」
「ん?なに?」
「これから帰るんだろ?」
二十四番が当たり前のように島へと帰ると言ってくれたのがなんだか嬉しかったし、二人のこんな姿を見せられると…本当はダメだけど二人をもうここに置いていってもいいのかもな、なんて思ってしまう自分もいた。それはウソじゃない自分の本心だと思う。でもそれは許されないし、悪魔たちが絶対に許しはしないだろうからそんなこと言わないけどさ。
「すぐそこにコンビニがあるからさ、ちょっと寄ってから帰ろうか」
「コンビニ?」
「俺たちも…行ってもいいのか?」
「それぐらい大丈夫でしょ。二人に逃げる意思がないのは分かってるからさ、こっちも。なんか好きなもん買えよ、俺が奢るから」
「…ありがと」
「さんきゅー…船頭」
いつになく素直な罪人たちですこと。
てことで俺たち三人で少し歩いた場所にあるコンビニへと入って行く。俺たち船頭はこっち側へ来る時にたまに寄る時はあるけど、二人は多分島に連れて来られて以来コンビニなんて行ってないだろう…ていうか、そもそも警察に捕まっていたから十年よりも前ってことだよな多分。そう考えるとすげぇよなー…。十年以上コンビニ行ってないって信じられん。
まだ早朝なのと、ここら辺は特に通勤で使われる道でもないのでラッシュ時に被って人が多いとかいう訳ではないので中に入ってみると、客は俺たち以外誰もいなさそうだ。これなら少しくらいゆっくり見れそうかな、良かった。
「すんげぇ久々だわコンビニとか」
「そんなに雰囲気変わらんか、やっぱコンビニ程度じゃ」
「そうだね。ここも昔からあるコンビニで、一回改装されてかなり綺麗にはなったけど正直そこまで変わり映えはしないよねコンビニだと。…あの、全然好きなもん何個も買っていいからな?遠慮しなくていいよホント」
「最後の晩餐ってやつか」
「んまぁ、そんなとこかな…」
言いにくいことをスパッと言い切る七十二番。二人はあんまり死ぬことに対して恐怖感じてなさそうなのが逆にツラい。
と、取り敢えずそこは今置いといて…俺が一人一つずつカゴを持たせては「ほら!なんでも買え!」と少し見栄張ってみせれば、二人はフッと優しく笑いながら「おう」なんて返事をしてくれた。コイツら二人がこんなにも素直で優しい顔つきだとやっぱちょっと調子狂うな…。ま、まぁ嫌味満載なこと言われるよりかは心が穏やかでいいんですけどね?
まず三人で酒のコーナー見て回り、あとは惣菜やおツマミ、甘い物、お菓子、ご飯系にホットスナックやらなんかもうホントに好き勝手買ってやった。しかし二人とも値段見ながら一々「たっっか」とか「これこんな高かったっけ…?」なんて呟いたりして買い物してるの見てるとなんだか面白くて少しだけ笑いそうになってしまった。あー…昨日から俺泣いてばっかだったからようやく笑えて良かったな、なんて。
ようやく買い物を終え、お会計してみせると思ってた以上の金額に達してしまい内心びっくらこいたがここはスマートに支払いを済ませるしかねぇ。まぁ二人も金額見て目見開いてビックリしてたのは面白かったが。
そんな訳で買い物終えた俺たちはすぐに舟へと戻り、買った食糧たちを舟に積んでから来た道を戻っていく。二人はこの本土に足を踏み入れることはもう二度とないだろう。
「なんかよ…すげぇ買ってもらっちまって悪りぃな…。あんなにいくとは思わんかったわ」
「俺も…、ちょっと調子のりすぎたかもしれんわすまん」
「いーよいーよ。もう今日は飲み明かそうぜ。どうせ帰ったって他にやることないんだし、悪魔たちだって目を瞑ってくれるはずだって」
「そうか…?それならいいんだけどよ」
「もし残ったら俺がもらうだけだし」
「それもそうか」
なんか…こんな風に三人で舟漕いで島まで渡ってるのが信じられないというか、実感が湧かない。すんごい不思議な感じがする。
帰り道は本当に何気ない会話をしていただけで、ずっと穏やかな空気が流れていたうえに、二人と一緒にいてこんなにも心地がいいと思ったのなんて初めてかもしれん。これだけ一緒に生きているのに、まーだまだ経験してないことって沢山あるんだなぁ…なんてしみじみ感じてしまった。
今日は波も低くて落ち着いており、二人の声がよく聞こえてくる。海が荒れてないお陰もあって自分の心も穏やかになれているのは間違ってはないかもしれないけど、俺一人で海を渡っていたら確実に苦しくて悲しくてまた泣き腫らして…下手すれば海に飛び込んで死にたくなっていた可能性のが高い。だから二人が隣で舟を漕いでくれて、〝船頭〟を務めてくれて本当に良かった。二人が近くにいるからこそ俺は間違った方へいかなかったって言い切れるんだもの。
二人とも、本当にありがとう…
話しをしていたらあっという間に島に着いてしまい、三人で舟を片付けてから俺一人でマモン様のところへ行こうと思い「先帰ってていいよ」と伝えたのに、二人は「俺たちも行く」と言ってくれて結局館の方までついて来てくれたのには拍子抜けしてしまった。いつもなら絶対来ないのに。
二人にも色々と思うことがあるだろうし、きちんと船頭という仕事をこなしてくれたのだから俺はそれでもう十分なんだけどね…と思いつつ、ついて来てくれたことがやはり嬉しかった。二人なりのケジメなのかもしれないしね、これは。
「マモン様、只今戻りました」
「戻ったか。して、罪人どもは逃げ出す素振りは見せなかったか?」
嫌な聞き方をしてくるマモン様に二人は内心ムッとしてそうな表情をしているが、俺がすかさず「はい。なんの心配もございませんでした」と即答すればこれ以上の言い合いをさせるのをやめさせる。
「なんだ、つまらん者たちだな。もう良い、下がれ」
「はっ」
ある意味悪魔の機嫌を損ねてしまったのには解せない気持ちもあるけれど、両隣にいた二人も終始黙って我慢してくれていたので俺たち三人はすぐにこの部屋から出ていった。本当は仲間たちのこととかもうちょっと心配して欲しかったけど、悪魔がそんな素振りするはずもないから仕方ない…か。
館から出て、自分たちの家の方へと戻る俺たち。戻ってる道中、二人に向かって「俺の家来て一緒に晩餐しよ」と伝えると、二十四番も七十二番も俺の方を見ては何度か首を小刻みに縦に揺らしながら「あぁ」と肯定してくれた。おぉ…、こんなにあっさり了承してくれるとは思ってもみなかった。だから今度はこっちが拍子抜けしてしまったが、二人がいいと言ってくれたのがやはり嬉しかったのでほんの少しだけフッと口元が緩んでしまった。
「じゃあ、ちっと俺ら着替えてくるわ」
「うん、好きなタイミングで来ていいから」
「多分すぐそっち行くと思うぜ」
「分かった。準備して待っとくわ」
さっきコンビニで大量に買い出した物たちを俺が全て預かり、お互い自分たちの家へと一旦戻る。重たいので先にテーブルへと食糧を置いてから俺の方もサッサと着替えてしまわないと、あとからアイツらが来てる中あんま着替えたくないしな。
上は普段夜寝る時に着てる黒のTシャツに着替え、下はまぁいいかと思い仕事着のままにしておく。この服も動きやすいし素材的に結構いい物を使ってるから仕事終わっても下だけそのままとかはよくあるね、俺の場合は。
あ、そうだ食べ物たちを一旦冷蔵庫とかにしまっとかないと。お酒も冷えてなきゃ美味しくないしな。テーブルに放置されていた物たちの片付けをしてる中、コンコンとドアがノックされる音に気づき俺は「入ってきていいよー」とだけ少し大きな声で伝えてみせるとラフな格好をした二人が俺の家へと入ってきた。あれ、七十二番髪下ろしてるじゃん珍しい。
「テキトーに座ってていいよ」
「あいよ」
「なんか手伝うか?」
「自分たちの好きなもん先に出しといていいよ。あ、でも冷蔵庫ん中に閉まっちゃった物もあるから欲しいのなかったら勝手に出しちゃっていいから」
「はいよ〜」
「んじゃ好き勝手広げとくわ」
「うん、よろしくー」
すっっげぇ不思議だわやっぱり。仲間たちと時々集まってメシ食ったりはしてたけど、二人とこうして同じ家に集まって飲むことなんてほぼしたことないからすっげぇ不思議な感じしかしない。まぁ仕事柄普段の俺たちは酒飲むのはあまりよろしくないから一緒に飲んだりとかは出来ないし、二人も正月以外はあんまりお酒を与えたりしないからこうして一緒に飲むとかとなると…なんだか胸がソワソワする。変な感じ。
俺もやること終えて、先程買ってきたビールを三本持っては着席すればなんかテーブルの上凄いことになってて笑っちゃう。ホントに好き勝手しててこういうことするのっていつぶりなのか分からないぐらい久しぶりだから、ちょっと緊張もする。
二人に缶ビールを渡し、プルタブを開けてから一応俺から「乾杯」って控えめに言ってみせれば二人も「カンパイ」って答えては互いの缶をコツンっと軽く当てて見せた。や、やっぱ変な感じしかねぇ…
「あ゙ーー…やっぱビールうめぇ」
「船頭たちの休暇以外は俺たち飲めねぇもんな」
「今日はもう好きなだけいいから。取っておいても仕方ないし飲んでよ?」
「おう、そのつもり」
「今日は飲む」
二人ともビールを煽って一気に一本空けてしまった。早い。
「もう一本取ってくる。高見沢もいるだろ?」
「いる」
そう言って二十四番がビール取りに立って行くのを俺はビール飲みながら眺めていたら、七十二番に「船頭お前、桜井と飲むの初めてなんじゃね?」と聞いてきたので「かもしれん」と答える。
「アイツすげーから。多分ビビるぜ」
「マジで?そんな酒豪なの?」
「うん。けど次の日には持ち越さないから安心しな」
「へー…すげぇ。俺もそこそこ飲めるけどきっと二十四番には勝てないんだろーな、その言い方からするに」
「ムリだと思うぜ」
二人で会話をしていたらキッチンから戻ってきた二十四番はビール二本と片手にはいきなり焼酎握ってるのを見て「えっ、いきなりっ?」と言ってしまったが本人気にすることなく「今日は飲みたいもんを順番とか関係なく好きなだけ飲む」と言い切ってはまたビールを空けてグイグイ飲む。
二人がそれでいいならいっかと思い、目の前に置いてあったホットスナックの袋を破いてモクモク食べ始めると二十四番も七十二番もスナック系の袋菓子やらおツマミやらの袋を破いて広げてくれた。
「ま、今日はのんびりしましょ」
それに対して「おう」と短く返事をする二人もお腹空いてるのかどうかは知らんけど、案外パクパク食べていくからやっぱ腹減ってるのかもしれん。朝も早かったしちょーど今昼時だからねぇ、お腹は空くか。
「やーっべぇ、久しぶりにこういうお菓子とか食ったから超うめぇ」
「あーダメだ俺甘いお菓子も食いたくなってきたから開けていい?」
「お好きにどーぞ〜」
そう言って七十二番がチョコレートの箱を開けてはそれを食べているが、「この甘味最高すぎるぅー…!」と体に染み渡っているような言い方してて見ていて面白い。お酒は時々飲んでるけど逆にこういうお菓子とかってあんまあげたことないなそういえば。気が利かなくてすまんかったわ。
「甘いもんそんなに好きなの?」
「うん、好き。時々桜井がお菓子作ってくれてたからそれでなんとか凌いでた」
「そ、そうだったんだ…それは知らんかったわ、ごめん。お菓子作れるような材料とかそんな食材渡してなかったのにすげぇな二十四番も」
「小麦粉と砂糖と卵と油さえあればまぁなんとかはなるから…。でも、調べるものもないから自分の勘や感覚で作るしかねぇから同じものが出来上がることなんてほとんどなかったよな」
「うん、確かに。いっつも味違ってたりした気がするー。美味しいから全然いいんだけどね」
「ホントはバターとかチョコとかあればもっと美味いもん作れたとは思うんだけどな。ま、俺たちにバターなんてそんないいモンが回ってくるとは思えねぇししゃーねぇけどさ」
「ご、ごめん。言ってくれれば注文するし俺が頼んだ時も分けてあげてやったのに…。そこまで窮屈にしなくても良かったのに…気づいてやれなくてすまんかった」
「まーいいよ別に。俺たちが悪いんだし」
「そうそう、この島で生きてくことになっちまった俺たちのせいだから船頭がそんなことで謝ることじゃねぇよ。それでもなんとかやってこれて、ちゃんと食糧があってフツーにメシ食えて好きに調理出来てただけでも十分よ。そもそも船頭たちだってそんな贅沢してなかったんだし、俺らが出来る訳ねぇ」
「でも…俺たちは年に何回か本土に戻って好きに過ごせる期間はあるからそれを思うと…なんかごめんって思っちまって…。しかも十年間も…」
「ないもんはしゃーねぇし、ある中でやり繰りしてくしかねぇからよ。…あ、これうっめぇ、ジャンキーな味付け美味すぎる…っ」
二十四番がすぐ近くに置いてあったホットスナックのチキンを口にしては片手を目で覆って唸っては大感動してるようだ。二人とも手作りして料理はもちろん出来るけど、やっぱこういう味って買うことでしか得られないジャンク感は特別だから美味いに決まってるよな。男なら特にこういう味大好きだろうし。健康には悪いが二人とも逆に今まで健康的な食生活してて、適度に運動もしてるから寿命で体調悪いのを除けば二人とも本来ならかなり健康的な体してるはずだ。それは俺もだろうけど。
「ダメだ、食欲止まらん。無限に食える」
「俺もいつもなら酒ばっか飲んじまうけど久々にこういうメシ食ったらリアルに麻薬並だな…」
「二十四番がそれを言うなら世の中の外で食う食べ物は全て中毒性あるって意味だよなぁ」
「そういうこったな。でもクスリなんて贅沢なこと言わんから最後に麻薬でもいいからやりたかったわ」
「ダメに決まってんだろ」
二十四番の言動にすかさずツッコんでしまった俺と、隣でそれ聞いてた七十二番がポテチ食いながら今にも「おい」って言いたげなジト目で見ていたのも珍しい。大体七十二番なら二十四番の味方するのに、こういう時だけ謎の常識を発揮するから面白い。
二十四番も詐欺するとことクスリのことに関しては常識ない奴だからそこは困りもんだ。七十二番よりかはマシなんですけどね。
暫く飲みつつ食べてお喋りしていると、次の話題にいく際七十二番が「船頭ってやっぱ本当に結婚したかったん?」と尋ねてきた。その質問かー…
「そ、そりゃあまぁね…なくはなかったよ?正直この仕事もこんなに長くやるつもりもなかったから引き際見て本土戻って別の仕事しようと思ってたもん…。だからその時いい人に巡り会えていれば、っていう未来予想図だったんだけどねぇ。めっちゃ間違えまくってるわ俺」
「…マトモに恋愛もさせられんくてすまんかったな、船頭」
「えっ…!?い、いやいいって別に…!何度も言ってるけどこれは俺が覚悟持って決めたことだからこれに関してはお前らは悪くねぇよ…!ほら、その恋愛ってさ正直面倒くさいじゃんっ?人が誰かを好きになるってことは頭がバグってる状態らしいから、俺はマトモで真面目にここまで生きてこれて良かったんだな〜…!って思ってるしぃッ?」
「…ムリせんでいいぞ」
「おめーの家族にも悪りぃことしたな…。すまねぇ」
「だから〜…!ホントに気にしなくていいって!そ、それに俺永久にここで生きることになっちゃったから別に恋愛諦めなくてもいいっちゃいいしぃ?誰か女の船頭が来てくれたら嬉しいよねぇ〜…!あ、いや別に恋愛したいから女の人がいいって言ってる訳じゃなくて…。違う、違うんだよぉ〜…!ちなみに俺は童貞なんかじゃないからなッ??」
「うん、知ってる」
「昔彼女いたのも聞いてるし」
「ちょっ…おめーら急になんなんだよ!?いつもみたいにイジってこいよ!?お陰様でこっちはずっと調子狂いっぱなしだわマジで…!ったくよー…!」
「……。」
「そうか」
あーーダメだ、なんだコレ。逆に体熱くなってきて恥ずいわ。死ぬの分かってるからってこうも素直になるもんかね??
いつものあの感じできて欲しくてこっちから自虐してんのに、なんなんだよもぉ〜〜!!
一人「ゔーー…」と項垂れていると、「なぁ船頭」と二十四番が呼ぶ声がするので顔をあげて前を見ては「んー?」と軽い返事をする。しかし二人は真剣な面持ちでこっちを見てきてはふざける雰囲気なんて微塵もなさそうな態度してやがる。…いっつもそれくらい真剣にしてくれてたらなぁ、いいのになぁ。そんでこういう最後の時くらいふざけてくれてた方が良かったっつーのに逆なんだよバーーカ。
「今回のこと…本当にすまねぇ。こんな俺たちだけが生き残っちまって…」
二十四番が飲むその手を止めてからポツっと呟くけれど、俺はその言葉に対して「お前らが悪い訳じゃないから」とすぐさま返す。
「でも俺たちがあの時…罪人と最初から話し相手していれば何か違ってたんじゃないかってそう思っちまって…俺は後悔しかない…」
「……。」
「そりゃそうだよな…これから死ぬってんだからあんな訳の分からん得体の知れない何かに縋ってまで生きたいと思うよな…っ。だから俺はあの死神を呼び出した罪人を責め切れない…。もしかしたら俺と高見沢で防ぎ切れたんじゃないかと思うと……本当に、アイツら全員には悪いことをしたなって…」
まだ酔っ払うには早いんじゃないか、二十四番?お前酒豪なんだろ?その状態までに陥るには早いんじゃないか?
俺が心の中で二十四番に話しかけるが、この言葉が口から出てくることはなかった。だってこんなに俯いては苦しそうに喋っているお前なんて子供のことに関して以外見たことねぇんだもん。
「俺も誰かを失う悲しさや喪失感を今こうして経験しちまった…。けど今回は相手が人じゃないってのがデカいし、俺も怒りの矛先をどこに向けていいかすら分からねぇ…。俺虚しいよ船頭…。一応ここまで一緒にやってきた仲間たちではあったしさ…、アイツらだってなんだかんだ俺たちのこと受け入れてくれてたんだからよ…。ホント…なんで俺たちじゃないんだろうな…クソッ…」
「二十四番…」
「そんなこと言うなってお前は言うかもしれねぇけどさ…、でもどう考えたって死ぬべきは俺と高見沢だろッ?なんの罪もないアイツらがどうして…って思うのに、俺らはそんなこと思っちゃいけねぇのなんて分かってるからこの気持ちのやりようがなくてキツいんだよ…!矛盾しっぱなしだよ…。俺船頭のことずっと責めてきて悪かったと本気で思ってる…。すまねぇ…、すまねぇ…っ」
「そんなことは…」
どう答えれば正解なんだ…?
今にも泣きそうになっている二十四番に、こんな風に真摯に謝られたところで俺はその答えを結局出せないままここまで来てしまったのだから、返答のしようがなくて答えに詰まる。確かに昔に比べたら俺たちは互いに考え方も変えてこれたし、どうやって双方を許し合えて理解し合えるかを今分かり始めてきたところなのに…やっと三人ともここまで生きてきた意味を成してこれたのに…どうしてもう終わりなんだろうな。
すると次は七十二番が「言いにくいだろうから答えなくても構わんぜ」と口添えしてくれたのが余計に心をチクッとさせた。もちろんコイツなりの優しさってのは分かってるつもりなんだけどね?
「ごめん…、こんな質問にも答えられないぐらい不甲斐なくて…。ホントにごめん……」
あー…ヤバい。また泣けてきた。
だけど二人がそれに対して俺に何かを言ってくることはない。
「俺もずっと…ずっとずっとお前らに罪人たちを理解しろって言われてきて…なるべく罪人たちに寄り添えるようにもしたし、当然死ぬほど腹が立つ奴だっていたにはいたけど…島に連れて来られてくる人たちの中には、俺でさえ死ぬべき人じゃないって人たちもいれたのを知れたのも事実だし…二十四番のことがあってから、もしかして答えは一つじゃないのかもしれないって、ようやく薄々分かり始めてきたところなのに…。みんなも当然俺とお前らの関係を見てきたから罪人という人物を始めは憎んできてこの仕事を始めたのかもしれないけど…でももう二人のことみんなはちゃんと仲間として扱ってくれてたとは俺思うよ…?俺たちも二人がいたから罪人を憎むだけに終わらずに済んだ。だからお前たち二人を生かしておいて正解だったんだよ…きっと。そこに関しては俺後悔してないから…ッ。これは本当だから。ウソじゃない…」
簡単なんかじゃなかったさ、もちろん。俺たちは嫌い合っていたんだもん、そりゃ理解し合えるのなんて時間かかるに決まってる。でもようやくそれが最近ほどけていきそうな雰囲気だったのに、なんでこうなっちまうんだろうな?悪魔はいるにしても神っていないと思うわ俺。…あ、死神はいたかぁ。じゃあ本物の神ってやっぱどこかにいるのかねぇ。ま、俺は神のこと好きじゃないけど。悪魔に仕えてるからとかじゃなくて、こんな惨劇を何度も起こさせてはそれをただ見てるだけの神が嫌いなだけだ。悪魔ならまぁ…ね、酷いことするのは当然って割り切れるからそこはもう目を瞑るけど神はみんなのこと守ってくれたっていいじゃんかさ…
いや、俺たち七つの大罪の悪魔の使者やってるからやっぱムリかーー…。俺も含めて全員神に見限られてるもんなー…ホント。
「俺って幸せを感じてた期間がいつまでだったのかも覚えてねぇや…。そうだなー…妹が死ぬ前までは確かに家族も仲良くて周りの人たちに恵まれてたから幸せだったのかもしんないけどさー…、やっぱ妹亡くしてから全てが変わったような気がするねぇ…。そっから俺幸せ感じてたことって何回あるんだろう…。数えられる程度なのかもなー…。この仕事を始めた理由も犯罪者たちがどうしても許せなくて始めた仕事だけど、まさかこの島で妹殺した犯人と会うとも思わんじゃんー?結局アイツがアレで報いを受けたのかも未だによく分かってないし、それで俺がスッキリしたとは言い難いもんなー…。しかも今回こんなことになっちまって…苦しい以外になんにもねぇや俺…。だって同じこと二回も繰り返してるんだぜっ?笑いものにされるどころか寧ろドン引きレベルだよなぁホント…!そんでもってこれから先もずっと悪魔に縛り付けられて生きていかなくちゃダメなんだもん、そりゃ幸せからは程遠いよな〜…」
お酒を飲んでるからなのか、長々とした愚痴が次から次へとこぼれてきてしまう。あぁー…マモン様にどうか聞かれていませんように。
テーブルに片肘ついて頬杖をつきながら、もう片方の手は指をテーブルにトントン軽く打ち付けながらそれを無意味に眺めている自分。もうどうにでもなれって感じだよ、まったく。
顔を赤くして涙目なおっさんが何してんだってセルフツッコミをしたい気分だけど、また二十四番がゆっくりとした口調で口を開くが…その言葉に俺は驚きを隠せなかったらしい。
「……。お前の名前の〝幸〟はきっと…お前が幸せになる為につけられた名前のはずだ」
「へ…?」
二十四番の発言に耳を疑い、一瞬頭の中が「???」とハテナでいっぱいになってしまったではないか。それに続くように七十二番も言葉を続けていく。
「もうそんなに自分を責めるな船頭…。これ以上お前自身を不幸にさせるなよ」
「??」
二人の言ってることが始めは理解出来なかったけれど、段々と意味を理解し始めた時には胸が有り得ないくらいグッと締め付けられたような気がしてしまった。
やめろよ…涙少し止まってたのにまた泣けちまうじゃん、そんなこと言われちまったら…。なんで今日こんなに優しいんだよおめーら?
「ははーっ!よく言うよなぁ〜!お前ら二人とも昔あんなにも俺の名前のことイジっては俺を不幸にさせたいだとか言ってきてたクセに急になんなんだよ…!……やめろよぉ…そんなこと言うなよぉー…。泣けちまうだろうが〜…」
「ウソだと思うか?けど俺も桜井もこれが本心だ。俺たちは本気で船頭がこれから先も幸せになって欲しいと思ってたよ」
「ウソつけ、絶対ウソじゃんっ…!」
「…ウソじゃねぇよ船頭。なぁ船頭…、なんで船頭はいつも自分が不幸になる方へ突き進んでいくんだ?」
七十二番が申し訳なさそうなツラしながらそんなこと聞いてくるけど、そんなもん一つしか理由なんてないでしょーが。
「何言ってんだよ、それが俺という生き物だからでしょ?…生まれながらの不幸を背負った男。たったそれだけのことさ」
そう、これが答えだ。簡単だろ?
でも七十二番は俺の言葉をすぐ否定する。
「違う…、俺たちがお前を不幸にさせちまったんだ…。俺たちが船頭の幸せを奪っちまった…。全部…ぜんぶ。すまなかった船頭…、本当にすまねぇ」
二人して頭下げてくるけれど、俺はそれを直視出来ずに床の方を見ては零れそうな涙を必死に堪えるしかなかった。
「……。お前たちがもう心を改めて本気で反省してくれてるだけで俺は救われてるよ…。今までの自分が幸せとは言い難いけど…、でも俺は少なくとも二十四番と七十二番のことは分かってやれたつもりだから。全ての罪人を理解するのは厳しいけどさ、せめてお前たちだけでもって思ってたから…こんな状況になっちまった今だからこそ、皮肉なことにお互いの気持ちに寄り添えるようになれたんだろうな…。こんなことが起こる前に分かり合えていなきゃならなかったのにさ…ッ。はぁーー…俺マジで何やってんだろ。最悪じゃん、こんなの」
思い切って酒をゴクゴク一気に飲み始める俺を見る二十四番と七十二番の目はとてもじゃないが見ていられない目をしていたので、俺はすかさず席を立ってもう一本お酒を取る為にキッチンへと向かう。ついでに惣菜もレンチンして出してしまおう。もう今日は俺も飲む。飲まないとやってられねぇの!
「もうあんま俺のこと泣かせにこなくてーから!最後の晩餐なんだからもうちょい楽しく飲もうぜ!」
俺が二人に向かって少しだけ笑いながらそう伝えてみせるも、二人は神妙な顔して「あぁ」だとか「分かった」としか言ってくれない。いつものあのウザさと元気はどこ行ったんだか!
温まった惣菜とおにぎりも持ってきて席につき、「ほらほら遠慮せずに食えって!」と気丈に振舞ってみせるけど二人は相変わらずの態度ながらもなんとか話しだけは続けようとしてくれてるのが見て取れる。そんな優しさ、お前らには似合わないんだっつーの。やめろよな…バカ野郎。
それでもお互いの本心をこれでもかと言うくらい三人で語り合えたんだから、俺たちはきっと一緒に生きてきた意味は絶対にあったのだろうって…本気でそう思えたよ、俺は。
ありがとうな、二十四番も七十二番も。
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