風の詩の旅人さん
「えー!もう行っちゃうのー!?」
「もっとこの町に居てよ旅人さんー!」
多くの子供達が今日でこの町を出る俺の元へと集まってくれて、さっきから駄々をこねて俺の行く先をストップさせてしまっている。だけど、これが嫌な気分になる訳がなかった。寧ろ嬉しいくらいだ。
「ごめんねみんな。お兄さん、もっともっと遠くの所へ行かないとダメなんだよね」
「折角仲良くなれたのにー!」
「また泊まっていきなよ旅人さん!」
「そーだよ!ここに住みなよ!」
引き止めてくれる子供達の言葉に嘘偽りは見当たらなかった。出来るなら子供達の言う事を聞いてやりたい気持ちも山々だが、やはり俺は“風の詩”の大地を多くの人々に知って貰う為に、渡り歩かないといけない。
この町にやって来たのは丁度二週間前。ここで少しお金を稼いでから再び旅に出ようと思い、この地に留まっていた。
とても人柄が良い者達ばかりだったので、すぐに皆と打ち解けられたのは有難い事だ。短期でだけれど、出来るだけ人の役に立つ仕事をして、気分はとても晴れ晴れとしていた。
町の酒場で大人達と盛り上がったり、子供達とも一緒に遊んだりと、意外と充実はしていたと思う。
それでも俺は旅人だから‥‥
いつか絶対、この場所を去らないといけない時がやって来る。
どれだけ居心地が良くったって、楽しくったって‥、俺はその場所でいつまでも留まり続ける事は許されない。
どれだけ皆が優しくしてくれたって、良くしてくれたって、俺には親友が傍に居るから。“風の詩”の大地で眠る二人の魂を見捨てる事は決して出来ないから‥
「その気持ちは嬉しいよ。でもね、俺は旅をしないとね‥、旅人じゃなくなっちゃうんだ」
「だったら、またこの町に来てくれる‥?」
「あぁ、勿論来るとも。何年先になるかも分からないけど‥君達がまだ子供のままなのか、それとも大人になった時に来るのか‥何も分からないよ?それでもいいの?」
「うん‥!俺達、旅人さんの事忘れないよ!絶対、絶対忘れない!」
「そっか!お兄さん、凄く嬉しいな。‥あ、だったらさ、もしお兄さんの事を忘れても‥この名前だけは覚えておいて」
「何の名前‥?」
「“風の詩”の大地。お兄さんはいつもその場所で待ってるから‥。今度は君達がお兄さんに逢いに来てくれ」
俺がそう告げれば、子供達は大きく「うん!」と頷いてくれた。
そして別れ際には、皆が俺に向かって手を振ってくれて笑顔で送り出してくれた。俺もそれに応えたくて、力一杯皆が居る方へ手を振り続けた。
見えなくなるまで手を振って、やっとそれが終われば頭の上に乗っていた天使が呟いた。
「お前さ、子供達に“風の詩”の大地に来いって言ったけど、あれって死んだ時にって意味か?」
「‥‥さぁ?どうだろうね」
「うわー、やな奴」
天使の隣に居る悪魔が怪しい笑い声を出す。
「あの場所は死者の魂が眠る場所だからなぁ。桜井はあの場所を知って貰う為に旅をして‥、死んで逝った者の魂が安らかに眠れるよう‥そうして欲しいからこそ旅を続ける」
「二人の親友を呼び起こしてしまったからな、お前は。だからこそ二人は今ここに居るんだろうけど‥」
チラッと俺の背中辺りでフワフワ浮いているであろう二人の親友へと目を向ける悪魔であったが、すぐにまた視線を前へと移した。
「そうさ‥。だから、俺はあの場所を伝えに旅立ってるんだ。迷わないよう‥哀しむ事がないよう‥死んだその時には安らかに眠って欲しい。ただ、それだけだよ」
「どこまでも桜井らしいな」
大きく溜め息をついた天使。その後すぐに、ポツリポツリと雨粒が空から降ってきたではないか。「やべっ」と言いながら慌ててマントを頭から被れば、天使と悪魔を俺の胸元辺りに移動して貰い、その服の中で雨宿りしていた。
数分後、本格的に降り出してきた雨から避けるようあちこちを走り回った結果、大きな木の下で休む事になった。
一息つこうと木にもたれ、座り込むと俺は胸の辺りで寒そうに震えている天使と悪魔をそっと持ち上げて俺の体ごと一緒に包み込むように天使と悪魔もその中で温めてやった。
「ごめん‥、寒かったよな」
「いや‥さっきよりはマシだ‥」
「天使と同じ」
「そっか、良かった」
じっと動かないでいると、二人はうつらうつらと顔を上下に揺らしており、それに気付いた俺はフッと小さく笑えば、そのまま雨が止むまでずっと木の下で休んでいた。
「俺もいつかは‥“風の詩”の大地で眠る事を願ってるよ。‥二人の親友と一緒に」
その言葉を聞いていた二人が、俺を優しくそっと、包み込んでくれた気がした。
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