人魚の王子様 番外編 - 11/15

人魚シリーズ「翻弄編」

 

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

そうサカザキが僕に向かって言ってくるので、首を傾げながら「何?」と聞いてみれば、立たせていた体を屈ませて僕と同じ目線まで顔を持ってきた。

 

「人間になったお前の体を貸して貰いたい」

「へっ‥?」

 

サカザキの一言で、変な声が零れてしまった。隣に立っていたサクライがサカザキの頭を一発殴ってから「ちゃんと口で説明しろ」と蔑んだ目で彼を見ていた。

「いでー‥」と頭を押さえながらサカザキは僕に向き直ると、ガシッと手を取られ、真剣な表情で頼みをする。

 

「実はさ‥違う国から遊びに来てるお姫様が今居る訳よ」

「抱いたんだな?」

「うん。だって誘ってくるからさ、まぁいっかと思って一回抱いたんだよ。そしたらさ、何を勘違いしてるのか‥最近やたら彼女面してきて参ってる状態なんだよねー‥。だから諦めさせる為にお前を使いたいんだ」

「え‥」

 

顔を訝しめ、目の前に居るサカザキを見れば「お願い!」と両手を合わせながら必死に懇願してる。

そんな事になる前に女遊びはやめろと言ってるのに‥。僕がどれだけ言ってもやめないから罰が当たったんだ。少しくらい反省して貰わないと困るけど‥。

 

余り必死に頼んでくるので、渋々承諾せざるを得なかった。全く、女性をぞんざいに扱うからこうなるんだからな!

そんな睨み付けてる僕をサラリと交わすようにサカザキは「ありがとー!」とお礼をすれば、可愛らしい笑顔が飛び出す。

 

「じゃ、日付変わったら迎えに来るから」

「‥うん」

 

一体どうなるんだろう。もう、嫌な予感しかしない。このまま逃げ出して、明日は海から出ないようにしたい、なんて言葉が口から出掛かったが、ぐっと我慢して喉に流し込んだ。

 

「で、何をするの?」

僕がサカザキに問うと、帰ろうとしていた彼は振り向きながら「簡単だから」と言う。

 

「俺の言う通りにしておけばいいよ。あの女がお前なんかを知る筈がないし、そこら辺にいる女なんかよりスタイルいいお前を見たら諦めるだろうよ。ついでに俺が愛の言葉でも囁いておけば完璧だ」

「‥ちょっと待て。もしかして‥それって」

「お前を抱いてるふりして諦めさせる」

 

なんて事を‥‥

 

 

そして日付が変わった頃、いつもの場所に向かえば二人の王子様が僕を待ち伏せしていた。海から半分くらい顔を覗かせていれば、サカザキが早くしろと言わんばかりの目で睨み付けてくる。

「うぅ‥」と声を漏らした時、ブクブクッと泡が海面でいくつか弾けては消えた。

 

ザバッと海から這い出れば、今までなかった脚が現れ、サクライが僕をゆっくりと立たせてくれて、持っていた大きめなバスタオルを背中に掛けてくれた。
ふわふわしたタオルが気持ち良く、僕はそれを顔に押し付けてみる。するとサクライが僕の頭をわしゃわしゃと拭き、水分を取り除いてくれた。

 

“ありがとう”

目で伝えれば、サクライは「うん」と優しく微笑みかけてくれる。言葉が話せないのに、こうして伝わってしまうのは、僕が信じた大事な親友だからかな。きっと他の人には僕の気持ちなんて伝わらない筈だ。

 

城に着き、先ずはシャワーを一番に浴びる。これが当たり前になってきている。お風呂は嫌いだから入らないけどね。

浴室から出て、リビングに行こうとした時だった。

 

そこにはサカザキにすり寄る一人の女性が居た。サカザキはつまらなそうに書物へと目を向けては適当な返事をしていた。
まぁまぁ可愛いと思うんだけどな‥。何がいけないんだろう?

扉からこっそり覗いていたら、後ろからポンと肩に手が置かれた感覚がしたので、びっくりした僕が慌てて振り返ると、そこにはサクライが居た。

 

しーっと口許で人差し指を立たせる彼を見て、僕はこくんと頷く。声が出ないからそこまで煩くはならないと思うけど‥。

 

「サカザキの部屋へ行こう」

サクライの言葉に従って、僕は彼に手を引かれながらサカザキの部屋へと導かれていった。

 

「ここで待ってて。すぐサカザキが来ると思うから。‥‥ごめんな、こんな下らない事に巻き込んじまって」

“サクライは謝らなくていいよ”

 

僕が苦笑してみせると、サクライは「じゃ、また後でな」とだけ言い残すと部屋から出て行ってしまった。ほんと‥優しいんだから。
クスッと小さく笑い、静かに目を伏せた。

それにしてもこの寝室‥広すぎるなぁ。ベッドに座り、そう思いながら辺りを見回してみると、ガチャッと扉がいきなり開き、サカザキが慌てた様子で中に入ってきた。

 

 

(これより先色々と注意して下さい。やらかします)

 

フゥと大きく息を吐くサカザキは、僕が座っているベッドまで来て隣にボスッと豪快に座り込む。それを横目で見ていた僕に気付いた彼は、あはは‥と困った表情をして笑って見せた。

 

「折角人間になれる日なのに、台無しにしてわりぃな」

“ほんとだよ”

 

僕がぷうっと頬を膨らませると、サカザキが両手でパンッと僕のほっぺを叩いてこれば、口に含んでいた空気が抜けてムニュッと顔が変形してしまった。

それを見て笑うサカザキは、立ち上がって窓に近付いて閉まっていたカーテンをバッと開けた。そして部屋の電気を全部消せば、彼のシルエットが月明かりに照らされる。こちらに近付いてくる陰は、ベッドの周りに付いていた普段使わないであろう薄いカーテンをシャッと閉め、外からの視界を曖昧にさせた。

 

「多分、もうすぐ来ると思うから‥。タカミザワは俺に従っていればいいよ」

 

月の明かりのお陰で、僅かながらにもサカザキの表情は確認出来た。僕はうん、と頷いたと同時にサカザキがベッドに登ってきて、そっと僕の長い髪を手で一つに束ね、前の方へと持ってきてチュ、と唇を落とす。

 

“‥!?”

「怖くなんかないよ。ほら、力抜いて」

 

 

サカザキを捜していた一人の可愛らしいお姫様は、彼の寝室が少し開いている事に気付き、胸を弾ませながら入ろうとした時‥。

サカザキがわざと仕掛け、開けていた扉に手を掛けて中に入ろうとした時だった。

 

「大好きだよ‥」

 

とサカザキの声が静かに響いてきた。

「え?」と不思議に感じた彼女は、こっそり扉の隙間から部屋を覗き見れば、そこには二人の陰がベッドに座ってるのがハッキリと見えた。

 

サカザキが向かい側にいる人物の服に手を掛ければ、スルリと落ちていく衣から出てきたのは細く、綺麗な体のラインとくびれ。恥ずかしそうに片腕を反対の腕へ持って行く姿の人物を見た彼女は、思考が動かなくなり、その場で立ち尽くしてしまった。

 

(コウノスケ様‥)

 

ショックが大きいのか、彼女はそこから一歩も動けずにいた。

サカザキがそっともう一人の人物をベッドへと寝かせると、彼女に取って聞きたくない言葉が並べられる。

 

 

「あぁ‥大好きだよ。世界で一番お前が好きだよ‥‥ソフィア」

 

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