二人の王子様編2
「急げ!救出用の船を今すぐ出せ!」
「もう間に合わないですよ!こんな天気じゃ俺達もどうなるかたまったもんじゃない!」
「仲間を見殺しにするのか!?」
「‥‥、」
お城の中がやけに騒がしかった。
その理由はとっくに知っていたし、俺はただひたすら両親がここへ戻って来る事ばかりを祈り続けた。早く帰って来て欲しい。無事だったと言いながら笑って帰って来てくれる。
そんな幻のような現実に惑わされながら、俺は今朝出て行ったばかりの両親の笑顔を思い出す。
大丈夫。父さんや母さんは絶対に帰って来る。また俺の名前を呼びながら抱きしめてくれる。俺が父さんと母さんを信じなきゃいけない。
そうは思っていても、俺の心はその時不安しかなかったのも事実。今にも泣きそうな顔をしていたのか、隣に居たサカザキに「お前の父さんと母さんは必ず帰るよ」と言い切っては頭を撫でてくれていたっけな。
その言葉を信じて俺は夜遅くまで両親が帰って来るのを待っていた。その長い長い時間が永遠のようなものに感じていたのに‥
なんでその永遠は今も続いてるのだろうか。
今朝はあんなにも天気が良かったのに。風だってそんなに強くなかったはずなのに。
誰がこんな天気にしたんだ。
その時船には二十人程が乗っていて、その二十人の内の数人しか遺体は発見出来なかった。当然俺の両親も見つからないまま捜索は終了してしまい、この城には海へ出た者の半分以上の人達が戻って来る事はなかった。
幼い俺にとって、両親を亡くすという現実が受け止めきれずに、本当はまだどこかで海を彷徨ってるとか。実は違う船に乗っていっただけで、あの船には乗っていなかったんじゃないか。
なんて思うようにさえなってしまう。
けれど、乗客名簿にはしっかりと両親の名前が記されているのを目の当たりにした時に、やっとそこで気付かされた。
父さんと母さんはもう二度とここへは帰って来ないのだと。
遺体も見つからなかった為、あまり満足に葬式も出来なかったのが現状。
だけど俺はまだ心のどこかで信じていたのかもしれない。きっといつか父さんと母さんは戻って来てくれるって。すぐ帰って来るって言ってたから、もうすぐ帰って来てくれるんじゃないかって。
だけど、その時一緒に居てくれたサカザキに「お前の父さんと母さん、幽霊になって出て来てくれるといいな」と言われた時点で、やっぱり死んでしまったんだと思わされた。
サカザキなりに慰めてくれたつもりだったんだろうが、俺にはその一言が心に深く突き刺さり、もう帰って来てくれないんだと思うと涙が止まらなかった。
最後に一目‥父さんと母さんを目に焼き付けておきたかった。しかし、その願いは叶う事がなかった。
幽霊になって出て来てくれないかな、なんて考えてた時期もザラではない。どうしても会いたくて会いたくて仕方がなかったんだ。
けれど、悲しいのは俺だけではない。ここの城に仕えてた人達が一斉に居なくなるものだから、暫く城の中は暗く重たい空気が漂ってたっけな。流石のサカザキもその時ばかりは状況を理解して大人しくしてたけど。
残された俺は、叔父さん達に引き取って貰う事になった。
当然叔父さん達も凄く悲しんでいたけど、いつも俺の事ばかり心配してくれていた。涙を浮かべながら「マサルは強い子だもんな」と言いながら頭を撫でてくれた記憶が強く残っている。
もうサカザキとも遊ぶ事はないんだろうなー、なんてぼんやり考えてた頃、突然サカザキに「サクライ、俺と兄弟にならないか?」と言われた。
いきなりの発言で、俺の頭は「?」だったけれど、サカザキが俺を国王陛下と女王陛下の元へ連れて行ったかと思いきや、彼は俺を目の前に突き出して「父上、俺まだサクライと一緒に居たい!」といつもの我が儘を言い出す始末。
「俺と兄弟になればサクライとずっと一緒だ!だからサクライも王子になれる!」
そう言い切ったサカザキに対し、困っていた国王陛下達だけれど、俺とサカザキの仲はよく知っていたし、俺の両親にも沢山世話をして貰ったという事で、国王陛下達はサカザキの我が儘をあっさりと受け入れてくれたのだった。
何がなんだか意味が分からなかったけれど、取り敢えずサカザキとはまだ一緒に遊べるんだなーとは思っていた。
実際兄弟になるといっても、養子に入る訳でもなく、姓もそのままだったし、簡単にいえばこの城に居候状態って訳かな。
叔父さん達も驚いてはいたけれど、俺が王子になってもいいのか?なんてずっと言ってた。
俺も王子様ってこんな簡単になれるもんなの?と小さいながらに疑問に感じていたが、俺とサカザキの仲だったからこそ両陛下は俺を我が子同然に育ててくれたのだと思う。
本当に心から感謝しているよ。
「サクライは今日から王子様だ。俺と同じ王子だ!」
「僕が‥?なんで?」
「嬉がれよ、王子様だぞ?俺ともっと遊ぶ為にお前を王子にしてやったんだからな!」
「コウノスケ様とまだ遊べるの?」
「サカザキでいいよ」
「え?」
「俺とサクライは今日から対等だ。だから、コウノスケ様なんて呼ばなくていいよ」
「‥‥サカザキ?」
「うん。よろしくなサクライ!」
「‥?」
まだあまり理解してなかった俺に対し、サカザキは二カッと悪戯な笑みを魅せてくれた。
そんな出来事が五歳の時なんだよね。サカザキに至っては、これで俺と同じ歳?とよく思ってたくらい大人びていた気がする。
そしてその日、この国にもう一人の王子が誕生した。
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