MPⅡ 思い出・その後編 - 9/20

人魚の王子様

 

「サクライッ!サカザキッ!!」

 

猛スピードでここまで辿り着くと、僕は何者かに足首を掴まれて海に引き摺られていく二人を助けようと、持っていた矛の先を相手に構える。

先程聞いた家臣の言葉に耳を疑ってしまった。

 

まさか、二人の命が狙われてる‥だなんて。雲外鏡がタロウにその事を伝えてくれたらしく、それを知ったタロウが僕達にいち早く通達出来るように家臣が僕の所に来てくれたって事。

 

それにしても何で二人がっ‥。何も関係ないじゃないか。

 

後ろに着いて来てくれていたお兄様や十数人の家臣達が一斉に構えながら泳いでいると、二人を掴んでいる何者かがこちらに気付くと、相手はすぐさまここから逃げようと泳ぎだす。

それを止めに入ろうとしていた家臣達が僕より速いスピードで泳いで相手を捕らえようとした時だ。

 

相手の口が開いたかと思えば、そこから出てくる耳に痛いくらいの金切り声にも似た美しい声に、僕達全員は足止めを喰らってしまった。

ビキビキッと頭に響く不快音。思わず両耳をキツく塞ぎ、目を固く瞑ってしまう程の威力。こんな魅力的な美しい声を出せる妖怪なんて‥僕達以外に、アイツらしかいないじゃないか‥!

 

足止めされた僕達を確認した後、相手は再び泳ぎ始めてここから離れていってしまう。

 

 

ま、待ってよ‥

サクライとサカザキを連れてかないでくれ‥っ。

 

「くっ‥!」

「お、おい!一人で行くな!危険だ!」

後ろから聞こえてくるお兄様の声に反抗し、僕はまだ復活しきれてない聴覚のまま相手を追いかけて行った。

逃がすもんか!僕の親友を殺す奴は誰であろうと許さない!!

 

ましてや‥サクライは今日、子供が産まれたばかりなんだぞ?サカザキにだってあの人と結婚して貰わなければ困るんだからっ!

二人の人間を抱えているせいか、相手の動きは鈍くて遅い。そのお陰で僕はあっという間に相手のすぐ後ろまで辿り着く事が出来た。

 

「二人を今すぐ離せッ!!」

 

ブンッと思い切り投げつけた矛であったが、それに気付いた相手はアッサリと僕の攻撃を避けてしまった。

うぅ‥!?まだ下手くそなのかなっ‥?

 

だけど相手はピタリと泳ぐのをやめてしまえば、僕の居る方へ向き直ったのであった。

その行為に一々ドキドキさせられて、こういう経験がない分緊張が凄い事になっている。それに加え、二人が捕らえられたまま。ど、どうすればいいんだろ‥?そりゃ助けるってのは当たり前だけど、助け方がイマイチよく分かってない。

 

頼りない親友でごめん‥

 

「お、お願いだから二人を離して‥

 

セイレーン」

「‥‥。」

 

 

そう。相手は僕達の仲間といってもいい程の妖怪、セイレーンだった。

上半身は人間だけれど、下半身は鳥の姿をしており、背中には翼も生えている。僕達と同じで、この美しい歌声で船乗り達を酔いしれさせて殺すというやり方は有名だ。

タダスケから昔聞いた話、このセイレーンが僕達人魚の祖先だとか。こんな下半身ダサい奴なんかが僕達の祖先だなんて思いたくないし、僕は信じてない。

 

「何故こんな事を‥」

「‥‥。貴方をおびき出す為よ、王子様」

「僕を?」

「覚えてないのですか?以前一度だけ私と貴方は会っている」

「‥?」

 

会っているの?全然記憶にない。けれど、相手が「まだ王子様が人間の女になりたいと願っていた時ですよ」と告げられた瞬間、閉じ込めてしまっていた想いが一気に開かれていく。

爆発しそうな程の胸の騒ぎに、停止された思考。ピクリとも動かなくなった僕を見て、面白そうに「お久しぶりですね」と呑気に挨拶をしてくる。

 

「あ‥。あの時のアレは‥全部が夢じゃなかったんだ‥」

「ようやく思い出して頂けましたか」

 

忘れられていた夢。忘れようとしていた出来事。

 

「もったいないですね。貴方の傷付いたあの心‥なんたる美味な味でしたのに、どういう訳かいつの間にか人魚として生きてるとは」

「僕の何が目的だ‥」

「貴方のあの時見た夢‥、可哀想な程に救われない夢でしたよね。今までの中でも最高なものでしたよ。人魚や私達セイレーンという生き物は人間に興味を持ち、憧れてしまいますからね。あの叶わない時の願いときたら‥喰い物にするには至高なエネルギーですから」

「だから何だ」

「貴方は誰よりも欲が深かった。人間になりたいという願いだけに留まらず、人間の“女”になってまでこの二人の人間に愛されたいとは‥。願いが叶わなければ叶わない程その心は食べがいがある」

 

っ‥。

なんか恥ずかしいな。僕の昔の本性が全部見透かされてるじゃん。

 

確かに僕は人間の女になって二人に愛されたいと強く思ってしまった時期もあった。だけど、それを乗り越えて今の僕があるんだ。

あの時みたいに僕は弱くない。二人と会えなくなってでも僕は人魚として生きる道を選んだ。その決意は変わらない。

 

「それで?僕にまたその気持ちを取り戻して欲しいって?‥悪いけど今の僕はそんな生ぬるい気持ちで生きていないんだ」

「その様子を見る限りあの頃の貴方は既に居ないようですね。‥ですから私達はこの二人の人間に目をつけた」

「‥どういう事だ」

 

また僕に叶わない願いを思って欲しいから?

そう推測したけれど、相手の口からは考えていた事とは違う台詞が飛び出してきた。

 

「貴方がこの海の世界で生きて貰っては困るのです。海の世界を支配するのは私達。貴方は戦力外の筈だった存在‥。なのに今頃になって王子としての役目を果たす為に海で生きますと?都合がいいにも程がある。

いずれ近い内に貴方達人魚をこの世界から追い出す。海にのさばり偉そうにしている貴様らに生きる価値などない。人間にでも捕らわれて見せ物として殺されるがよい」

「‥も、もしかして‥お前達が、お前達が人間に加担して人魚を捕まえさせていたのか!?」

「えぇ。貴方達はいずれ追い詰められ消えゆく存在。この海の世界を壊してくれよう」

「ふざけるなっ!僕達が守り続けたこの海を人間が侵そうというのか!?それに、お前達は陸の生き物だろうっ?何でこんな‥」

「人間が恐ろしいなら人間を殺せばいい。血で海は汚れ、腐ったその海水でお前達は生き続けるのか?‥それとも、この二人の人間はお前達人魚の存在を知ってしまっている数少ない人間。裏切らぬ内に今ここで殺した方が身の為では?」

「っ‥!?」

 

抱えていた二人の首筋に、相手の鋭いかぎ爪がグッと押し付けられると、僕は急いで二人を救い出そうと泳ぎ出すが、また相手は口を開く姿勢を見せてきた。

僕も負けじと口を大きく開くと、お互いの声がぶつかり合って、ひしめき合う。けど、僕のが圧倒的に弱い。相手の声に押されてしまい、僕の声はあっという間にかき消されてしまった。

 

そして耳にこびりつくこの声。

ピシッとガラスにヒビが入った時のような感じだ。

今にも頭が壊れそう。

 

「っあ‥!くっ、」

 

痛い‥!

でもこのままじゃ二人が‥!

 

「タカミーーッ!!」

「なにっ?」

何か聞こえてくると思ったら、突然僕の目の前に現れたのはタロウであった。

 

タロウはコイツの声など気にもする事なくこちらに突っ込んで来ては、持っていた矛を相手に向かって斬りつけようとすると、サクライとサカザキを抱えてるせいで動きが鈍い。

二人が邪魔だと判断したのか、相手は二人を手離してしまい、サクライとサカザキの体はゆらりと海の底へと落ちていってしまう。

タロウのお陰で相手の声がやめば、僕はすぐに二人を追いかけて泳いで行くが、タロウはセイレーンを追い払おうと矛で何度も攻撃していた。

 

相手も反撃しようとしていたけれど、タロウのが一枚上手だったらしく、セイレーンは悔しそうに顔を歪めながら「いずれ貴様らを殺してやる!」と言い放って海から這い出て行ってしまった。

慌てて二人を受け止めた僕の隣にやって来たタロウが「大丈夫!?」と聞いてきた。

 

「ありがとう‥。でもタロウ、何で耳‥」

「あぁ。ヤドカリを耳に詰めてただけだよ」

「ヤドカリさんね‥」

 

きっと迷惑してただろうな、ヤドカリさん。

そしてタロウが「タカミー、王子様達!」と言ってくれたので、僕は急いで二人を陸へ戻そうと上へと泳ぎだした。着いて来てくれたタロウにサカザキを任せ、空気のある世界へと一目散に戻してやったが‥

 

ザバッと海面から顔を出せば、近くの岩場に二人を引き上げさせてはみたけれど‥

やっぱり二人とも息をしていない‥。ど、どうしよう‥

 

死んでなんか‥いないよね?

 

「サクライ‥サカザキっ‥!」

 

呼びかけても反応はなし。

海で息をする為に与えるキスとはまた違う。どうすれば‥どうすればいいの。

するとタロウが、「これ使えるかも」と言ってくれて出したのが小瓶に入った何かの液体。

 

「これ何‥?」

「この前ハセさんの所行ったらさ、大きな怪我とかそういうのを治す薬だっていって貰ったんだ。使い道そんなにないから量もまだあるし」

「わ、分かった」

 

小瓶を受け取り、僕は二人の口元に薬を流し込ませてあげた。

すぐに症状は良くなるのかな‥

 

「ごめんね‥僕が情けないから、二人がこんな目に‥」

 

暫くの間、僕は二人に寄り添いながら手を握り締め続けた。

タロウには先程の出来事を説明して、お父様に伝わるようにって頼んでおいたから今ここには三人だけ。

 

多分タロウも気を遣ってくれてるんだと思うけどね。

 

 

「こんな再会の筈じゃなかったのに‥」

 

ごめんなさい。

さっきまで白かった肌が、今はもう元に戻ってきて血色はよくなってる。薬を飲んでから数分後には息をするのを取り戻し、後は二人が目覚めるだけ。

二人がこんな目に遭ったのは僕の責任だから‥

せめて、起き上がるまで待っていよう。

 

 

すると、サカザキの方が「ぅ‥」と声を漏らし始めたので、ドキッとしてしまった僕は少しだけ彼の意識が戻った事を確認すると、慌てて海へと戻っていった。

バシャンと鳴る飛沫の音に気付いたのか分からないけれど、サカザキは朦朧とした意識の中で、一瞬僕の名前を呼んだような気がした。

 

本当は二人に面と向かって謝りたかった。

だけど今は二人に会えない‥。違う、合わす顔がない。

 

今はその時じゃない。

でも、いつか‥また僕は‥‥

 

 

思いで編の15~18禁の初めてソフィアとして書いた話を覚えてくれてた方はいるかな

早く話を進めたいから展開が早くて自分もついてけん((

 

もっとじっくり書きたいんだけどな

 

送信中です

×

※コメントは最大1000文字、10回まで送信できます

送信中です送信しました!