MPⅡ 思い出・その後編 - 12/20

二人の王子様3

 

「いやだぁぁああ!!行きたくないよぉおおお!!」

「うるせーぞサクライっ!男なら海見たくらいで泣くな!」

「ヤダやだ!!死にたくないよぉお!!」

「死なねーよ!こんくらいで死んでたら王子なんてやってけねーぞ!」

「嫌だぁあ!お願いだから帰ろうよサカザキぃ!!」

「とっとと落ちろっ!」

「やめでぇえっ!ぶわっ!?」

 

ドバンッ、とサカザキに浅瀬へ落とされた俺はすぐさま海から這い出ようと試みたけれど、上からグイグイと押し戻されて結局はその日一日、海に慣れるまで海から出させてくれないという鬼畜っぷりを見せた五歳の王子様。

そんな王子様に怒りを覚えたのもこの時が初めてだったかもしれないが、今となっちゃ感謝してるくらいなんだけど。

 

両親が居なくなってから俺は海が怖かったんだ。海は人を殺すもの。未知な世界。何が起きるか分からない。

そんな俺を見て呆れたサカザキが無理やり海まで連れ出して、俺を海に慣れさせた理由は単純。ただ、俺とまた海で遊びたかっただけ。そう、これだけの理由で俺は心から恐れていた海に突き落とされたんだ。

こんな小さい時からサカザキのSっぷりを発揮してる時点で、もう少しコイツとの関係を考えておけば良かったかな‥とは冗談でたまに思う。

 

この時は流石に使用人や家政婦さん達が一斉に寄ってきては「コウノスケ様!危険ですよ!」「サクライ様が怖がってますから‥」などと庇ってくれたりもしたけど、サカザキが「うるさい!」と一言叫べば周りは傍観するのみ。

なんで誰も助けてくれないの?と疑問に思ったし、みんな大嫌いだ。とさえ思ってしまっていたのも事実。

 

そんなに心配そうな目で見てくるなら助けてよ!って叫びたくても海水が邪魔してくるせいで声があげられない。本当に死ぬかと思った日だった。今でも忘れられない一日だ。

あれだけ海に無理やり浸かっていれば、もう諦めの感情のが強くなり「どうでもいいや」とさえ感じてしまい、結局は海の恐怖はその日に克服してしまっていた。

 

でも一歩間違えれば、俺はもう二度と海には入らないような奴になってたかもしれないが。

 

ようやく慣れた頃にサカザキが海に入ってきて、一言「海は綺麗な場所なんだぞ」と俺に向かって言い切る横顔が格好良かったのを覚えている。

サカザキってなんでこんなにも大人なんだろう?って子供ながらに常々思っていた。いや、ここ何年か前までずーっと長い間思っていた事だ。

 

「海ってな、色んな生き物がいっーぱい居るんだぜ」

「いっーぱい?」

「うん。魚とか貝やイカ以外にも変な生き物が居るんだって。この前本で見た」

「サカザキって本好きだね」

「本は面白いからな。人魚とか、クラーケンとか、セイレーンとか、変なのが居るから気をつけないとな。本には人魚やセイレーンは船を溺れさす力があるって書いてあった。クラーケンはデッカいタコやイカで、船壊しちゃうみたい」

「‥なら、その変なののせいで父さんと母さんは死んだの?」

「え?‥あー、まぁ、そうなんじゃない?」

「やっぱり海は怖いよ。泳いでたら沈められちゃう」

「大丈夫だよ。俺がサクライの事守ってやるから!」

「ほんと?」

「ほんとだよ。‥だから、もう海で遊びたくないとか言うな」

 

プイと少々照れていたサカザキであったが、その時は何で照れてるかなんて分かりもしない時期だった為、サカザキの我が儘に付き合うか‥と妥協して「分かったよ」と返事していたような気もする。

 

こう見ると俺も意外と大人だったんだな。

 

けど、これで海で再び俺と遊べるとなった時のサカザキの顔のほころびようは凄かった。そんなに嬉しそうな顔するもんだから、今度はこっちが少し照れてたくらい。

 

昔から仲良しだな、ほんと。

 

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