人魚のくびれを守り切れなかった← 王子様達(これの前に書いた話は小話集の3ページ目にあります)
「うぅー‥ヒリヒリするぅ‥」
やっと皆が帰ったかと思うと、触られまくったくびれの辺りが少しだけ違和感がある。グッタリして地面にうつ伏せになっていると、向こうの方から二人の王子様が「大丈夫かー?」なんて聞いてくる。
未だに鎖でぐるぐる巻きにされてる王子様達なので、自由に動く事は不可能ってわけ。誰も二人の王子様なんか気にもとめず、そのまま放置して帰っちゃうからさ‥もう、皆勝手すぎるよ。
「暫くみんなに会いたくないー‥」
「俺達だって会いたくねーよ。お前を触らせるのも‥見せるのも嫌なのに‥」
「だから愛想振りまくのはやめろって言っただろー?」
「ごめんなさい‥」
サクライに説教され、僕は疲れ切った体をなんとか起こしてから二人の居る方へ腕の力だけで頑張って近付いていった。
尾ひれだと陸の上は動きにくい。こうしてると「人間がいいなぁ」なんて思ってしまうけれど、やっぱり僕はどう考えても人魚だし、月に一度だけ陸で過ごせるならそれで構わなかった。
やっとの思いで二人の隣に座ると、僕は雁字搦めになっている鎖を丁寧にほどいていき、王子様達を解放してあげた。やっと動けるようになったサカザキは肩を回し、サクライの方は鎖が食い込んでいた部分を手で押さえながら溜め息をついていた。
「どうする?仕事する?」
とサカザキが聞いてくる。僕はもうどっちでも良かったけど、ここまで来たならちゃんと僕達の世界にしようか。
「俺、あんまりやる気ないんだけど‥」
「僕だってヘトヘトだよ‥」
「けど‥タカミザワは俺達の所へ戻ってきてくれた」
「当たり前だよ‥。どんなに他の世界の僕達が優しくしてくれても、僕は二人の人間の王子様から離れたりはしないよ」
「タカミザワ‥」
立ち上がったサクライが僕を軽々と抱え上げてくれて、海の方へと歩き出す。その隣でサカザキも歩いては疲れた表情からいつもの顔へと戻っていった。
そっと海の中へ戻してくれたサクライに「ありがとう」と御礼を述べると、優しい笑顔が返ってきてくれた。うん、僕はこの笑顔に弱いんだよな‥。
「ねぇ‥」
「ん?」
「海の中で‥泳がない?」
僕の提案に顔を見合わせる王子様達。そしてサカザキが「いいよ」と言ってきたので、僕は一度海へ体を全て沈めてから、再びザバッと二人の前に姿を現したかと思うと、油断していた二人の腕をグッと掴んで海の中へと誘い込んだ。
二人だけが海の中で呼吸が出来る。この能力は他の誰かに与えるつもりは一切ない。どれだけ他の世界の皆が好きでも、キスをして能力を与えるのはこの二人の王子様達だけ。そう決めたんだもん。
この見慣れた青の世界だけれど、横に二人が居るだけでどうしてこんなにも見る景色が違うんだろう?不思議だなぁ。
色とりどりの魚が集まる僕の好きな場所。何度も二人をここに連れて来た。だけど、最近は寒いから海に入る事はしなかった二人だけど、海の中じゃ寒さを感じられない。それはそれでいいらしいけど、海を出た後に待ってるあの震える程の寒気が嫌なんだって。僕も人間になった時に体験してるからその気持ちはよく解る。
ちょっと悪い事しちゃったかな、なんて考えが過り、サクライの顔を窺うと「どうした?」と優しく聞いてきた。それに首を振ると、僕は二人の手を離してみせた。
そうすれば久しぶりに見る海の景色を堪能する二人。自由に動き回れば、魚に貝、カニさんも珊瑚礁も海藻達だって何ヶ月振りかに見る二人を受け入れてくれた。
サカザキの方はまた貝に真珠を貰っているし、サクライは綺麗な色をした魚達が周りを取り囲んで一緒になって泳いでいた。
良かった‥楽しんで貰えて。
くすりと笑みを零すと、それに気付いた二人がこちらに笑顔を向けた。なんだか‥夢みたい。
「ずっとこのまま三人‥一緒にいれたらな‥」
この願いが叶う事はなくなる先の未来なんか知る由もない今の僕達。口にすればどんな願いだって叶ってしまった王子様である僕の我が儘が原因なんだとも気付かずに。
「おい、タカミザワ」
「どうした?そんな顔して」
いつの間にか目の前に居る二人に少しびっくりしたけど、「ううん」と笑いながら慌てて首を横に振ってみせると、サクライが心配そうに僕を窺っている。この気持ちを悟られまいとぷいと顔を逸らしてしまったが、それが怪しく思わせる原因を作ってしまった。
サカザキが片手で僕の顔をガッと掴むと、今にも「嘘つくな」と言いたげな表情。言葉にしなくても僕が諦めてしまえば、何を考えているのかを口にしてしまう事を解っているから。
やっと顔から離れた手は、今度僕の頬へと置かれた。さっきとは違う、壊れ物を扱うかのような綿のような柔らかさに似た手だった。
「隠さないでくれ‥」
サクライの一言に、思わず頷いてしまった。「あ、」と心の中で声を出してしまったけれど、やっぱり嘘つくのは下手なのかな。
「二人といつまでも一緒に居たいな‥って考えてただけ」
「なんだ、そんな事か」
「深刻そうな顔するからさ、もっと何か嫌な事があったかと思って心配した」
「だから言いたくなかったんだよ‥。恥ずかしいし‥」
また顔を逸らしてしまえば、僕の長い髪を弄るサクライ。その手に取った髪に口付けをする彼の行為に思わずドキンと一度心臓が大きく跳ねた。サクライのやる事なす事、全てが反則だよ‥。サクライのその紳士な行動や言動でどれだけ僕が翻弄されてるかなんて‥知ってるか。
男女分け隔てなく紳士な彼に魅力を感じるのは僕だけじゃないってのは分かっている。でも、でも‥僕にだけは特別にして欲しいだなんてそんな言葉‥言える筈もない。ましてや大切な人がいるのに。
頬に置かれているサカザキの手を取ると、僕はそのまま彼の手を押し付けた。海の中でさえも感じる彼の温もり。
最近サカザキにも気になる人がいるってのを聞いて、僕の心はとても踊らされた。それで女遊びをやめて、その人を一筋に愛せる彼でいて欲しい‥そう願うようにもなってきた。
でも、失敗続きな彼を慰められるのは僕しか居ない訳で‥、いつかこの慰める役も僕なんかじゃなくて、サカザキの想う人に‥言い方は悪いけど、取られてしまうんだなと思うと、やっぱり胸の奥が痛んだ。幸せを願ってるのは嘘なんかじゃない。けど、醜いこの僕の心が凄く嫌に感じる。
どうして‥僕は女じゃないんだろう。
「大丈夫だよ。俺達はいつまでも一緒だろ?ずっとずっと、親友だろ?」
「そうだよ。ずっと親友だろ?」
‥ずっと、このまま‥親友。
「‥うん。そうだよね、親友だもんね」
ー作り笑いをしてしまった僕の笑顔に二人は気付いてくれなかったー
*
オフから仕事に入る三人が書いてみたかった。笑
しかし、やっぱり報われないなぁ、この三人は(^^;;
気付けば人魚ばっか書いてる。笑
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