SP9
爆破予告の一日前になり、未だ犯人側からはなんの声明もなかったのだが、さっきやっと棚瀬が情報を掴んだようで、早速動き始めることにした俺たち五人。
いきなりのこんな大仕事なので、吉田も鈴木もド緊張してしまっているが、それを見ては「大丈夫だから!」と先輩二人が元気付けている。ちょっと心配な部分もあるが、なんとかやって貰うしか道はないしな。
一昨日くらいから夜の街に出て、建物に飛び移ったりする練習もしてきたしで少しは慣れてきた筈なんだが、やはり厳しいか?
屋上に来る前、棚瀬が吉田と鈴木に無事に何事もなく帰って来れるなら一人前と言っては応援している様子だった。まぁ、そうだよな、最初はそんなもんさ。
「準備はいいか、吉田、鈴木?」
「はい!」
「は、はいっ!」
「よし、行くぞっ!!」
俺の掛け声で、他の四人も一斉に動き出す。
目的地までそこまで遠い訳でもないから、移動に関しては苦ではないだろう。だが、極度の緊張もあるせいでムダな体力を消耗しないで欲しいが。
それにしても今日はこの間と違ってやけに晴れている。月が綺麗だ。
ピョンピョンとビルからビルへ飛び移っていく中で桜井も高見沢も後輩二人の様子を見つつ、隣に付きながらなるべく同じようなスピードで移動していた。暗いので、まだ少し着地する時に不安定な後輩二人の背中を押したり、腕をグッと掴んでは夜の闇へと導いてくれる先輩二人。コイツらもちっとは成長してるみたいだ。
それを見てほんの少し嬉しくなったが、今ここで浮かれてる場合じゃねぇ。
吉田も鈴木も集中している為、俺たち三人はいつもみたいに会話はしないままどんどんと進んでいく。時々桜井と高見沢が後輩たちに話しかけていたが、下らない話しではなく、心配している声だったので俺は何も言うまい。
十分ほどの時間を移動した頃、ようやく目的地まで辿り着いた。しかし、その目的地より少し離れた場所で一旦待機。シュタッと飛び降りたその建物から暫くは様子を窺うことにした。
ここに来るだけで疲れてしまっている吉田と鈴木だが、まぁよく付いてこれた方だろう。
「ねぇ、坂崎。爆破予告は明日なんだよね?」
「俺たちが今日奴らをとっ捕まえれば爆破予告なんてなくなるんだがな」
「それはそうだけどさ。じゃあ今頃仕掛けてるってところか?」
「さっき棚瀬がまたあの影を見つけたらしいからな。その可能性は高い」
高見沢が質問をするのに飽きたのか、双眼鏡を取り出してはグルッと辺りを見渡していた。この前は雨だったが、今日は意外と静かだ。これなら気配にも音にも気付けるだろう。
俺も同じく周りの建物を見張ったりしていると、棚瀬の声で無線が入ってきた。
「まだ影らしきものは見当たりませんねぇ」
「そうか‥。現れるかどうかだがな」
「出てくるんじゃないんすか?アイツらもきっと坂さんにも会いたいだろうし!」
「俺は会いたくねぇわ」
かつての仲間が生きてたって、犯罪を犯すような奴らに会いたい気持ちが全くと言っていい程湧いてこないのが本心。こういう部分が冷たいとか思われるんだろうか。だけど、それが本当だから仕方ねーし。
棚瀬と会話していると、やはりいつも何かを口にしているあの男。向こう側からサクサクという音が鳴り響いている。それにいち早く反応するのはもちろん高見沢。
「あ、お前なに食ってんだよ!?」
「ケンタッキーのクリスピーでーす!」
「えー!クリスピー!?俺も食べたーい!!ズルい棚瀬ぇ!」
「嫌っすよ、帰りに自分で帰ってこればいいじゃないっすか。帰り道にケンタあるし!」
「ぐーー‥このぉ‥!」
言い合いをしている高見沢たちはほっといて、桜井がサングラスを取りながら「気配が微かにするな‥」と俺に対して呟いてくる。
「あぁ。物凄く静かだが、何かが蠢いている」
「奴らか」
「だろうな。その内俺に会いたがって姿現すんじゃねーの」
「でもお前は会いたくないんだろ?‥仲間だった奴が犯罪者に成り下がったところを見たくないのか?」
「いや、そういった感情は俺にある訳ないだろ。悲しいというより、腹が立つ。大人しくしなかったら俺の独断で殺す」
「ひえー。おっかねぇなお前って」
分かりきってることをわざわざ口にしてくる辺り、俺を半分からかっているようにしか思えん桜井の態度。いつものことだから別にいいんだがな。
桜井がもう一度サングラスを掛けては目付きを本気モードに切り替えた時、鈴木がオロオロしながら高見沢の方を窺っていた。
「俺だってチキンフィレサンド食いてぇよ!!お前どーせ暇なんだから買ってこいよ!」
「今から仕事するでしょーが!何言ってんだアンタ!」
「俺今日、昼からなんも食べてないのに!」
「そんなの自分のせいじゃないっすか!!」
ったく、コイツらはぁ‥!
「お前はいつまで棚瀬とイチャついてんだっ!!」
ずーーっと棚瀬と言い合いしていた高見沢の頭目掛けて、両足で跳び蹴りをお見舞いしてやれば、高見沢が「グヘェっ!?」と呻きながら地面へと勢いよくダイブしていった。
俺の蹴りで吹っ飛んでいった高見沢を見て鈴木が「高見沢さぁん!?」と言いながら、倒れている高見沢の方へと駆け寄っては心配しているようだ。アイツいい奴すぎるわ。
「さ、桜井さん‥」
「あー、気にしなくていいって。いつものことだから」
「そ、そうなんすね‥」
顔が引きつっている吉田のことなんて気にしていない桜井の横に立てば、吉田がコソッと桜井の後ろに隠れているような感じがしなくもない。どうでもいいが、お前たちだって下らんことばっかやってると今の高見沢みたいになることはもうお分かりだろう?
つーかこんなに騒いでたら、奴らが逆に逃げてもおかしくないわコレ。
ようやく起き上がった高見沢に優しく付き添ってくれている鈴木に、「お前、どんだけ優しいんだよ~‥!」と弱々しい声で呟いていた高見沢。それに対して鈴木が「当たり前のことですから」と笑顔で返す。
「どこかのチビとは大違いだよ!」
「るっせぇな!黙ってろ長髪バカ!!」
すると肩をトントンしてくる桜井。
「おーい、坂崎。坂崎さん、アレってもしかして奴らじゃね?」
「お前に言われんでも気付いてたわ」
「あっそ」
心底ウザいという顔とひっくい声で返事をしてくる桜井だったが、俺が気付いてない訳ねーだろ。
そう、三つほど向こうのビルにあの影が見えるじゃねーか。ただし、ここからだと影が二つしか確認出来ない。奴らも俺たちに気付いているのか、様子を窺っているみたいだった。
フェンスにのぼり、俺という存在を向こう側にも知らせてみせる。この間の時に、桜井も高見沢も俺の名前を叫んだから、奴らを追いかけていたのも俺だと気付いている筈だ。
静かに「行くぞ、お前ら」とだけ口にすれば、四人が一気にフェンスにのぼって俺の後に付いてくるだけ。
あの影が佇む方へどんどん近付いていくが、二つの影は俺たちとこの距離を保ったまま、あまりスピードを出さないように逃げていく。なんだ?何が狙いなんだ?
考えながら影を追いかけていたその時だった。
次の建物へ移ろうと、全員で一斉に飛び上がった瞬間、下から急にビュンッと飛び出てきたワイヤー。
「なっ‥!?」
しまった、気付かなかった!!
しかもそのワイヤーが鈴木の左の脇腹に命中してしまっていた。
「ゔあぁッ!?」
「正将っ!?」
ドスッと突き刺さったかのように見えたワイヤーが、シュルルルッと素早く戻っていった方向を見やると、そこにはやはりもう一人の影がそこに居るじゃないか。
一人を狙い撃ちしたのを確認すると、影がどこかへと消えてしまったが、傷を負ってしまった鈴木が体勢を思いっきり崩してしまい、そのまま建物と建物の間から落ちてしまっていった。
それを見ていた高見沢が鈴木の名前を呼びながら彼を助けに行こうとしたけれど、俺がそれを許しはしなかった。
「ダメだ、行くなっ!!」
「でも‥っ!」
「行くんじゃねぇッ!!」
口答えをして体の向きを変えようとした高見沢の腕を掴み、力の限り前の方へぶん投げると彼の大きな体はゴロゴロと建物の屋上を転げていくだけ。その様子を見ていた桜井と吉田も「えっ!?」という表情を作っては、一旦そこで全員が立ち止まる。
転がっていた高見沢だったが、すぐに体を持ち直しては俺を睨み付け「ふざけんな坂崎っ!!」と、今までに見たこともないような険しい顔付きで怒鳴り出す。しかし俺も黙っちゃいられない。
「行くな!!今はあの影を追う方が優先に決まってるだろ!?」
「はぁ!?正将見捨てんのかテメェ!?」
「アイツはまだ生きている!ここから落ちたとしても、そんな柔な体じゃねぇ筈だ!それに、お前の今の任務は新人を助けることじゃない!このチャンスを逃せば取り返しのつかないことになるかも知れんのだぞ!?」
「俺の知ったこっちゃねぇよ!!仲間の命よりも任務のがそんなに大事なのかよお前はッ!?」
「テメェ、もういっぺん言ってみろ‥!仕事をなんだと思ってる!?」
つかつかと高見沢が居る方へ早足で歩き出すと、そのまま高見沢の頬目掛けて拳を殴りつけてみせた。こんな俺の行為に桜井が「おい!?」と口出してきたが、モロに俺のフックを喰らってしまった高見沢はまたしても地面に体を打ち付けることとなった。
「ぐっ‥」と痛みをこらえている高見沢は、体をゆっくり起こしてフラリと立ち上がると、もう一度俺を睨み付けてから「やっぱりお前の考えには付いていけん‥」と呟いたあとに、鈴木を助ける為にここから離れていってしまった。
「あ、おい、高見沢っ!?」
「高見沢さんっ!」
行ってしまった高見沢を追いかけようか迷っていた桜井と吉田に対して「行くな!」と制止するも、桜井は顔を歪めては俺の考えに納得いっていない様子。だが、桜井のが物分かりは言いようで、走り出した俺の後を一応付いて来てはくれた。もちろん吉田も。
空気の悪いままの状態だったが、そんな俺たちのことを遠くから眺めていた二つの影がそこにはあった。今度は俺たちが近付いても逃げはしない様子だ。しかしお互いに警戒心は持っているので、奴らが居る一つ手前のビルで立ち止まってみせた。
もう顔はハッキリ見えたわ。
隣に立った桜井が、奴ら二人を目にした時に「黒いマスク‥?」と呟いてるのが微かに聞こえた。
「久しぶりだなぁ!坂崎ぃ!」
「あぁ、久しぶりじゃねーか。おめーら死んだんじゃなかったのか?あぁっ!?」
「俺たちは死んだも同然だったさ!だけど俺たちは変えられた!俺たちはもう人間じゃなくなった!!」
「はぁ!?なに訳の分からんことばっか言ってんだテメェら!」
「ふんっ、相変わらず頭ごなしに怒鳴っては相手を脅してるのかお前はっ?昔から変わらねーなぁ!」
「黙れこの人間のクズ共が!!お前らこの国を守る秘密警察じゃなかったのかよ!?」
「なにが秘密警察だッ!!国は俺たちの死にかけた体を勝手に使って好き放題しやがった結果がコレだ!俺たちはもう人間なんかじゃない!!だから復讐してやる!俺たちはこの国の玩具なんかじゃねぇんだよ!!」
「さっきから何を訳の分からんことを‥」
頭に血がのぼる。イライラが限界を超えてきた。
かつての仲間であろうが、この国の平和を脅やかすような奴は何人(なんぴと)たりとも許さん‥!!
俺は桜井や高見沢とは違う。どんな相手だろうがどんな理由であろうが、敵とみなした者には容赦しねぇ!‥この俺の目の前から消え失せろ、社会のゴミ共がッ!!
奴らは黒のマスクをしている。白色の×マークが真ん中に大きく描かれているのも俺とほとんど同じ。
‥そのマスクを着けていいのはお前たちなんかじゃない。このマスクの意味は、俺たち秘密警察は誰にも知られずに仕事をしている身なので、自分の口を封じてでも国の平和を守る為にと誓い合った証し。
なのに‥お前らは‥っ!
俺はバッとマスクを取ってしまえば、そのまま投げ捨ててみせた。こんなもん、お前らなんかと同じだと思われたくねぇ!!
投げ捨てた筈のマスクだが、吉田がそれをサッと拾っては桜井に対して目で「どうしましょう?」と訴えていたが、桜井は「預かっといてくれ」と一言伝えれば、吉田は俺のマスクをポケットにしまっていた。
「坂崎、お前に宣言してやる。今度は俺たちが勝つ!!この国の言いなりになんかならねぇ!」
「もうその口閉じろっ!耳障りなんだよッ!!」
「お前らは俺たちを捕まえられない!永遠になっ!!」
と、言われた途端に棚瀬から突然大声で「坂さん!今すぐ戻って高見沢さんたちのところへ行って下さい!!」との指示が入ったのだが‥
「ハッ‥!?」
ドオオォオンという爆発音が後ろからしてくるので、なんだ!?と思い後ろを振り返れば、向こうの方から煙が立ち上がっている。
爆破の予告は明日の筈じゃ‥!?
驚いていた俺をよそに、アイツらはいつの間にか姿を消してしまっていたではないか。
「坂崎、アイツら居なくなって‥!」
「まだ近くに居る筈だ!!‥悪りぃ桜井、ちっとここを頼んだ!」
「えっ!?お前あっちに行くのかよ!?俺らだけじゃアイツら捕らえられないかもしれんのだぞ!?」
桜井の質問に返答する暇もないまま俺もワイヤーを取り出し、来た道を一気に戻っていってみせた。
ちくしょう‥!めちゃくちゃ厄介なことになっちまったじゃねーかよ!
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