秘密警察-Secret Police- - 9/39

SP8

「ふぅーー‥」

シャワーを浴び終え、浴槽に浸かりながら冷えた体を温めさせているが、そろそろ出ないと桜井と高見沢がやかましいからな。

そのまま家に帰りたかったが、高見沢が盛大にコケるせいで仕方なくいつもの場所まで戻って来るハメになってしまった。まぁここの場所は寝泊まり出来るくらいの広さもあるし、部屋はモニターが置かれてる場所だけじゃないから別にいいんだけどさ。

風呂に入ればなんとか体も少しは癒えるな。転んでしまった時の衝撃で若干痛い箇所はあるが、こんなもんケガした内には入らんから気にしない。

よし、出るか。

「おさきー」

「んー」

「俺が先に入りたい!」

「え、嫌だよ、俺も先に入りたいのに」

ずぶ濡れになったスーツは脱ぎ捨て、私服に着替えていた二人がまた言い合いを始めている。これがどんどん白熱していくせいで、見てるこっちがイライラしてくるハメになるっつーのに。

二人の目の前を通り過ぎる頃、ボソッと「最初はグー」とだけ言い残せば、あとは勝手に二人が「じゃんけんぽん!!」と勢いよくじゃんけんするからいいが。

「よっしゃー!俺の勝ち~!」

「くっそー‥チョキなんて出さなきゃ良かった‥」

負けた桜井が悔しそうに自分の右手を見つめており、高見沢はそんな悔しがっている桜井なんか気にもせずサッサと風呂場まで駆け出していた。

「あ!お前、髪は洗うなよ!?どんだけ時間かかると思ってんだか分かってるよな!?」

「分かったって!髪は帰ったら洗うから~」

「信用ならねーー‥!」

まーだ言い合ってる二人をよそに、吉田と鈴木が若干呆れてるような顔をしている。そんな二人はと言うと、棚瀬の横に座りながらなにやらモニターを切り替えて遊んでいたが。

俺たちが居なくなった後、二人もここへ戻って来て何するわけでもなくボーッとしていたら、棚瀬が帰ってきたので暇そうだった二人を呼び出して三人で監視カメラや防犯カメラの映像を観ては遊んでた時に、あの三つの影を偶然見かけたらしい。つか遊んでんじゃねーよ。

しかも棚瀬の奴、のむヨーグルト飲みながら朝食りんごヨーグルト食ってやがる。コイツ頭おかしいだろ。

後ろから三人の姿を眺めながらさっきの出来事について考えてみようとした時、振り返ってこっちを見てきた棚瀬が「坂さん、まさかあんな派手にコケるとは思いませんでしたよ~!」なんて笑ってくる。コイツ‥

「あの建物の素材が滑りやすくなってたからしゃーねーだろ」

「でもあそこまで派手にやらかすのも珍しいっすもんね~。太郎くんも正将くんも貴重なとこ見れて良かったねぇ!あの人普段は滅多にあんなドジやらかさないからさ!」

「もう喋んなお前は!黙ってろ!!」

「え~、恥ずかしいからってそんなにも怒鳴らなくったっていいじゃないっすか~」

「別に恥ずかしかねーよ!俺も人間なんだから失敗する時はするに決まってんだろ」

「坂さんは血も涙もない人間ですけどね」

「テメェ、ヨーグルトばっか食ってんじゃねーよオラ!!」

「それとこれ全然関係ないじゃないっすか」

ダメだ、棚瀬と居ると俺も桜井と高見沢のこと言えなくなる。ハァと溜め息をつき、パッと他の人たちを見やると全員が俺の方を見ていた。な、なんだよ‥

文句あるなら言えよ、と口にしようとした途端、高見沢が「は~サッパリしたぁ!」と言いながらもう出てきた。そういえばコイツ、風呂に入らないんだった。出てきた高見沢を見た瞬間、桜井がダッシュで風呂場まで駆けていったが、多分俺たちよりもゆっくりと入るに違いない。

「ねぇ坂崎ぃ、髪整えて~」

「‥もう後輩も出来たんだからソイツら二人にやらせろよ。つーかしっかり髪洗ってんじゃねーか」

「だってやっぱり気持ち悪いんだもん。さっき転けた時、更にグシャグシャになっちゃったんだからさ!ねぇ、坂崎ってば、早く~」

「‥ったく」

ドライヤーは常に五個くらい置いてある。一人でやる時は両手に持って二個でやり、桜井が居る時は四個でやり、棚瀬の気が向いた時にはもう一個持って貰って五個で一気に乾かしてやっている。

俺と高見沢の方を見ていた二人を呼びつけ、「お前らも髪乾かすくらいは手伝え」と命令すれば、「はい!」という元気のいい返事が出てくることは偉い。というか少しワクワクしてねーかコイツら?

二人に二個ずつ持たせ、俺は一個だけを持ち、空いた片手で高見沢の髪を櫛で整えていく。これが時間かかる。なので、ゆっくり入っていた筈の桜井もいつの間にか風呂から出てきており、冷蔵庫にストックしてあるお茶を飲んでは俺たちの方を眺めていた。

てことで全員揃ったから、あのことについて話すか。

髪も乾き始めてきたし、ドライヤーもうるさいので、全て切ってから「吉田と鈴木はもう棚瀬からあの影については聞いたんだよな?」と問う。

「あ、はい。ちょっとだけですが‥」

「総理に予告状が届いたことも聞いたか?」

「聞きました」

「なら話しが早い」

桜井を俺たちが居る方へ呼び寄せ、四人に話しを聞いて貰うことにしたが、鈴木の奴が目をキラキラさせながら高見沢のふわふわになった髪をずっと弄っていた。‥触りたかったんだな。

あまりにも長い髪なので、触られてることも気付いていない本人は「なんかまた予告状でも届いたの?」と聞いてくるが、そういう話しではない。

「いいか、俺と棚瀬だけがずっと気になっていたことなんだが‥。あの三つの影の正体は‥」

「やっぱり元秘密警察なの?」

「あぁ。しかも俺たちと同じチームだった奴かもしれん」

「えっ?同じチーム!?坂崎と?」

「棚瀬もな」

桜井と高見沢が驚くのは当たり前。吉田と鈴木も目を見開いては若干驚いている様子だった。

「え、でも坂崎の昔の仲間って‥」

「あぁ、俺と棚瀬以外全員死んだけどな」

「だ、だよな‥?お前がハッキリ言ってくれなかったから俺たちもなんとなくは察知してたけど‥死んだんだよな?じゃあなんでソイツらが?」

「んなもん俺が聞きてーくらいだわ」

「生きてたのっ?それともゾンビ~っ?」

高見沢がふざけたことを言っているが、可能性はなくはない‥気がしてきた俺もいるからなんとも言えん。

「でもゾンビってあんな速く動けねーだろ?」

「アイアムレジェンドって映画のゾンビは超はえーぞ。正将観たことある?‥って、なに髪触ってんのさ」

「え、あ!ごめんなさい!ずっと触ってみたかったもので‥」

「触りたかったの?綺麗にしてくれるなら別に触ってもいいけど」

「む、ムリです‥整え方が分かりません‥」

俺も一度鈴木に櫛を渡しかけたが、ブンブン首を横に振って拒否していた。なんだよ、やってみろよ。

で、話しを元に戻すと‥

「俺と棚瀬以外に五人居てさ、七人でチーム組んでやってたんだよ。で、その内の三人があの影ってこと」

「残りの二人は?」

「さぁな。どっかに居るのかもしれんし、死んでるのかもしれん」

「ちょ、ちょっと待てよ!じゃあ、アイツらは生き返ったってことでいいのか?それとも死んだと思ってたが生きてたってことなのか?」

「だから知らねーって。まだ顔もハッキリ見てないから断定した訳じゃねーが、次に見かけた時確信したら俺も棚瀬も上に凸するつもりだ。上は何を隠してやがるんだ‥ってね」

桜井と吉田は微妙そうな顔をしていたが高見沢はのほほんとしており、特に何かを考えるつもりはなさそう。鈴木も高見沢と一緒に居る時間が長いせいなのか、コイツもあんまり不思議そうにしてないしで‥先輩のダメな所が似始めてきたか。

「桜井さん」

「ん?どした太郎」

「俺たちもさっき棚瀬さんと一緒に映像観てたんですけど、あの影‥凄いっすね。動きがハンパなくて、とてもじゃないですが俺らが桜井さんと居ても戦力になるかな?って‥」

「心配すんな。まだあと一週間残ってるんだ、ここで手を抜くことなく練習すればお前たちだって絶対力になる」

「ホントですか?俺、この仕事出来るかどうか‥」

「んー‥。まぁ今回のこの仕事は確かに初めてにしてはキツいだろうけどさ、でもコレが成功すればお前たちは立派な一人前になれるってことだぜ?」

「自信がないです‥」

「誰だって始めはそうさ。俺もこのチームになって初めての仕事ん時、坂崎に怒鳴られまくってたから大丈夫だって。俺は坂崎みたいにそんな怒鳴ったり暴力振るったりしねーから安心しろ」

「桜井さんんん‥!」

先輩ぶりやがってこの野郎。

じーーっと桜井の方を睨んでいるが、見事に俺の視線なんてスルーしてきやがる。多分背中に冷や汗はかいてると思うが。

高見沢の髪を整えつつ、今回のこの件に関しては他言しないようにと釘さしておけば、四人ともが了承してくれた。で、ずっと俺たちの話しを聞いていただけだった棚瀬がモニターから目を離して俺たちの居る方へ体を向けると、「ボスが居なくて良かったのか悪かったのか分からないっすね~」なんてボヤいている。ヨーグルト飲みながら。

「ボスだったらこのことについて知ってたのかなぁ?」

「‥‥だから海外に逃げたのか」

「あ、そういうこと?」

「帰ってこん限り真相は分からんがな。つーことで、桜井と高見沢は引き続き吉田と鈴木の面倒をみること。吉田と鈴木は一週間後に備えて体力と精神面もきっちり鍛えておくこと」

「はい!」

「は、はいっ!」

先輩二人は「はーい」だとか「へーい」なんていう適当な返事。

さて‥。明日からどう行動しようか。この件を一番に進めていきたいが、他の仕事もあるしで、桜井も高見沢も後輩たちの教育もあるから中々上手く事が進まない。

タイミングが悪かったかもな。

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