秘密警察-Secret Police- - 11/39

SP10

ふざけんな、坂崎の奴‥!

せっかく出来た可愛い後輩なのに、ソイツをいきなり見捨てろと?どうしたらそんな思考が生まれてくるのか俺には全然分からない。

仲間を平気で見捨てるような真似は今の俺になんて出来る訳がないのも知っているくせに、ああいうことを平気で言ってくる。そこがアイツのムカつくところだ。

仕事仕事仕事、国の為国の為国の為‥

こればっかりだ。アイツは俺たちのことなんてどうでもいいと思っているんだろう。

いいや、違うよ。本当は俺たちのことも考えてくれてる筈だよ?なんていう下らない考えは通用するわけないし。そういう奴なんだよ、坂崎って男は!

下に落ちていってしまった正将をキョロキョロと捜していると、暗い闇の中で一人ポツンと壁にもたれて座り込んでいる者がいた。

「正将っ!」

「‥?」

早速見つけた俺は、ワイヤーを使って瞬時に正将が座っている場所まで降り立つと、ボロボロな正将が俺を見上げては泣き顔で「高見沢さん‥」と弱々しく名前を呼んできた。

見れば右手で左の脇腹を押さえており、彼がしている白の手袋には赤色が染み込んでいるのが見て取れる。可哀想に‥しかもあんな高さから落ちたんじゃ、骨なんかは折れたりしてないだろうか?

俺も彼の目の前にかがみ、「大丈夫、お前を見捨てたりなんかしないから」と頭を軽く撫でてやると、正将が今まで我慢していた涙を急に流し始めてしまった。

「高見、沢さん‥っ。僕‥、僕‥!」

「泣くな泣くな。お前は何も悪くない。自分を責めるな。初めてなんだから、こんなことがあっても当たり前だ。しかも今回は相手が悪いから尚更だし気にするな」

「でも‥っ!」

色々思うことがあって、俺に言いたいことが山ほどあるとは思う。だけど涙のせいで何も上手く話せていない正将。

しかし、今はそんなことよりコイツのケガがどの程度なのかを知るのが先だ。

「おい、骨とか折れてるか?」

「いえ‥。骨は大丈夫‥だと思います‥。ちゃんと受け身も出来ましたし‥」

「なら良かった。脇腹見せてみろ」

「はい‥」

右手を一旦どけてもらい、傷の深さを見てみるが‥あぁ、これなら浅い。良かった、これくらいならすぐに治るケガだ。

でも俺、なんか手当て出来るような何かも持ってねーしなぁ‥どうしよう。ハンカチなんて持ってるほど女みたいな奴でもないし。どうにか止血だけはしたいが‥あ、コンビニか薬局行けばなんかあるか?

どうやら正将を襲った影の気配は今のところ消えている。なので正将にはちょっと待っててもらい、近くにあった薬局に急いで駆け込んだが、包帯とか買ってもあんま意味ねーしなぁ。

取り敢えず血が止められそうなもので、持っていてもあまり邪魔にならないやつを選んでからすぐに買って、正将が居る場所まで戻ってくる。

相変わらず少し辛そうにしていたが、俺を見てからはホッとしたような表情を見せた正将。うーん‥やっぱり見ていて痛々しい。

買ってきた消毒液をガーゼに染み込ませ、取り敢えず血を綺麗に拭き取ってやる。傷が染みるのか、顔を歪めては痛がっている正将だったが、そこは我慢して貰わなきゃ困るからな。

血まみれになったガーゼを捨て、新しいガーゼを傷のついた箇所に被せてから、持っていたテーピングでペタペタ貼っていけば応急処置はこれでおしまい。ま、俺に出来るのはこんなもんか。

傷の手当てが終わり、緊張と困惑の糸がプツンと切れたのか、正将が大きな溜め息をついてから改まった様子で「すみません‥」とポツリ呟く。

そんな落ち込んでいる正将の横に俺も座り込み、タバコを口に咥えてライターに火を灯しながら「いいよー」と軽い返事をしてやる。だって俺ホントに気にしてないもん。

「もしかして上での会話聞こえてた?」

「落ちた直後なんでアレですが‥なんとなく微かに言い合ってるのは聞こえてました‥」

「そっか。‥ごめんな、坂崎の奴が。アイツ、マジでああいうこと平気で言える奴だからさぁ‥俺気にくわないんだよね、坂崎のああいうとこ。平気で仲間見捨てるもん」

「それも一つの手だとは俺は思いましたね‥。足手まといになりたくないですから‥」

「‥‥。お前は坂崎がいいリーダーだと思うか?」

「えっ?」

唐突にそう尋ねてみせたが、いきなり過ぎたのか正将は回答に困っているようだった。ま、こんなこと聞いた俺が悪いし答えなくていいけどさ。

フゥーーッと煙を吐き出しながら「困らせてごめん、答えなくていい」と言ってみせると、彼はその言葉に従って口を閉ざしてしまった。

正将と太郎がうちの部隊に入ったことがいいのか悪いのやら‥。それを決めるのは本人次第だし、もしかするとこの二人は坂崎の考えに同調するかもしれない。俺は俺の意見を述べてるだけであって、正将に同意を求める訳ではないから。

何かを考えているのか、正将がホントに黙りこくってしまったので、「もういいって!」と伝えると、彼は慌てた感じで「は、はい‥!」と曖昧な返事をする。あー‥これは俺が悪かったかもな。

「俺さ、別に坂崎のこと嫌ってるんじゃないんだよね。すぐ怒鳴ってくるし、よく蹴られたり殴られたりするし‥まぁ、これに関しては棚瀬みたいに俺と桜井の瞬発力がまだ足りないのが悪いんだけど。この前の焼肉俺の奢りだった時も助けてくれたし、優しい部分も知ってるんだよ?

でも坂崎って、他の精鋭部隊のリーダーと比べるとやっぱりちょっと変わってるんだ。他のリーダーはみんな仲間思いなのに、坂崎だけは違う。俺たちを一切信頼してくれない。‥そこが俺たちの中でどうにも引っかかっちまってさ‥

俺らだって坂崎に信頼されてーよ!昔の仲間をいつまで引きずってんだっつーの」

「高見沢さん‥」

こんなこと正将に愚痴っても仕方ないのに。

だけど口にするだけ少しは楽になれた気がする。

ジリジリと灰を増やしていくタバコを眺めるだけで、あんまりちゃんと吸えていなかった。もったいないことしたな。

盛大な溜め息をつき、暗くなっていた顔を下に向けさせた瞬間‥

ハッと何かの気配に気付き、慌てて立ち上がるとどこからか音がする。さっきの奴か?

正将も一応壁を使って立ち上がってきたが、コイツが今の状態で何か出来る訳じゃない。俺が守ってやらなきゃ。

どこだ‥どこに‥‥

「‥‥!」

後ろかっ!?

バッと振り返ってみせると、向こうに佇む黒い影が見えたではないか。それがゆっくりとこちらに近付いてくるので、正将をカバーしつつ、退くことはないまま俺もその場で立ち止まっていると、影の正体がハッキリと現した。

目の前に立っているソイツは、坂崎と同じく×マークのマスクを着けている。だけどマスクの色が黒い‥

コイツが‥坂崎の元仲間?

目付きが明らかに犯罪者だ。坂崎の目付きもヤバいが、それとはまた別の狂気を感じる。アイツとは違う何かが漂っていた。

「初めまして、坂崎の今のお仲間さん」

「‥‥お前らの目的はなんだ?この国を脅やかすのか?それとも総理の命か?もしくは坂崎と今一緒に仕事している俺たちへのヤキモチ?」

「最初の二つは大体合っていますが、最後は間違っています。貴方たちを我々と同じ目に遭わせたいまでです」

「はぁ?」

なに言ってんだコイツ。

「坂崎と棚瀬から少し聞いたぞ。お前ら死んだんじゃねーのか?」

「そうですね。厳密に言うと死にかけていただけで、実際はまだギリギリ生きておりました。きっと坂崎は我々が死んだと上から聞かされたのでしょう」

「なんの為に‥」

「これから分かりますよ。言ったではありませんか。貴方たちを我々と同じ目に遭わせてみせる‥と」

ニイッと怪しく笑う目が閉じた時、相手が背中を向けて逃げ出そうとしたので俺も正将もそれを追いかけてみせたが、それがいけなかった。

奴が立ち止まっていた場所まで来た瞬間、いきなり両側の壁が爆発したかと思えば、奴がそれを狙っていたかのようにクルッと体の向きをこちらに変えて、ワイヤーを使いながらビルを上昇していく。

さほど大きな爆発ではなかったものの、ケガをしている正将がいるので彼を庇おうとしたその時だった。

「うわッ!?」

「高見沢さんっ!!」

しまった‥!壁の破片が目に‥っ!

あまりの激痛が左目を襲った瞬間、一気に体の力が抜け落ちてしまい、俺はそのまま体をうずくまるしか出来なかった。

ヤバ‥い‥、痛くて動けない‥!

ガクガクと体を震わし、どうにか立ち上がろうとしても目が‥‥左目が開けられないっ‥

そんな俺を見ては顔を真っ青にしている正将が「高見沢さん!左目がっ‥!!」と言ってくるが‥‥あぁ、もう分かってるっつーに‥

ボタボタと滴り落ちてくる真っ赤な血。先ほどの正将と同じように、嵌めていた白い手袋に赤がどんどんと滲んでいく。

左目をやられた。

もうダメだ、この目は使い物にならねぇ。

くっそ‥あの野郎‥!!

ゆっくりと上を見据えると、そこにはワイヤーでブラブラ揺れながらぶら下がっているアイツが居る。目元はさっきと変わりないほど薄気味悪いものだった。

「さぁ、見物客がここに来る前に終わらせましょう!!」

「くっ‥!」

そして俺たちが居る方目掛けて一気に飛び込んでこようとしてくる薄ら笑い野郎。だ、ダメだ‥俺も正将もこんな状況で戦える訳が‥!

殺られる、このまま俺たちは終わりなのか!?

そう覚悟した時だった。

「その二人に近付くんじゃねぇぇえええええッ!!!」

この声っ‥

光の速さのごとく、俺たちの真上を横切っては相手を思いっきり蹴飛ばしていたのは‥

「さ、坂崎っ‥」

「坂崎さんっ!!」

蹴っ飛ばされた勢いで遠のいていった相手は、舌打ちをしながら坂崎を睨み付けた後にこの場から消え去ってしまっていった。俺はてっきり坂崎はアイツを追いかけるかと思ったが、その読みは違っていたようだ。

ワイヤーをキュルルルッと元に戻したかと思うと、坂崎はチラッと背後を確認した後にもう一度ワイヤーを伸ばしては俺と正将が居る場所に向かって来る。

「なっ‥!?」

「わっ!?」

と、次の瞬間には坂崎が俺と正将を両脇に抱えて一気にビルの屋上まで飛び上がっていった。

坂崎に抱えられた時にドンッという衝撃を体に受けたが、それ以上にもっと衝撃を受けたことがある。さっきまで俺たちが居た場所が、もう一度大きく爆発したのだった。

それを片目で確認した瞬間、坂崎が助けてくれなかったらと思うと‥。ゾッとしたのは言うまでもない。

「チッ。この爆破で警察も消防も来ちまったか。仕方ないが今日は撤退だ」

「さ、坂崎‥なんでお前‥」

「あ?」

俺と正将を抱えたままだというのに、シュタッと華麗に屋上で着地してみせた坂崎。ようやく坂崎の腕から解放されたはいいが、目が半分見えていないせいでガクッと躓きかけたところを坂崎がグッと支えてくれたではないか。

そんな坂崎の行為に驚きつつも、俺の目を見た坂崎が「バカ野郎‥」と呟く。

「だから行くなと言ったんだ」

「‥‥ごめん」

「もうその左目はアウトだな。自分の犯した愚かさを知れ。‥正将も無事で何よりだ」

「は、はい‥」

「あとでちゃんと助けに行くつもりでいた。だけどこのバカが勝手に行っちまうからよ」

「‥‥。」

違う‥

俺はただ‥

「俺たちは仕事を何よりも優先するのが当たり前だ。私情で動くなと前に言っただろ高見沢?その仕事が終わればいつでも仲間を助けに行け。その場の感情で仕事を放棄することは一番やっちゃいけないことだ。確かに仲間を捨てるのはキツい。お前にとっては苦しいかもしれんが、お前は秘密警察として生きている以上、選択肢を間違えちゃいけないんだ。分かったか?」

選択肢‥

そうだ。坂崎はその選択肢を間違えたせいで今こんなことに‥

左目を押さえていた方からは血が流れるが、右目からは溢れそうになった涙が流れまいと留まっている。

支えてくれていた坂崎の手が温かかった。

「坂‥崎っ!」

「泣くなキモい。桜井たちを置いてきちまったから、今から俺は戻る。高見沢も鈴木もここで待ってろ。すぐ三人で戻ってくるから」

「わ、分かった‥」

「はいっ」

そう俺たちに告げた坂崎は、またもやワイヤーを使って物凄い速さで向こうに行ってしまった。

マスクをしていない坂崎に気付いたのは、その数秒後だった。

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