SP11
ったく、坂崎も高見沢の奴も勝手なことしやがって‥。いや、坂崎の場合は高見沢たちを助けに行ったからってのは知ってるんだけどさ。
消えた敵を窺いつつ、太郎に向かって「俺から離れるなよ」と忠告してみせれば、彼は素直に返事をしたかと思うと、ピッタリと俺の背中に引っ付いてきている。
あの‥
「離れるなとは言ったが、ホントにベタベタ引っ付いてくる奴があるか!?」
「だって怖いんすもん!!」
「え、ちょ‥!」
「鈴木があんなことになったの見てしまうと、怖いんですってば!」
「‥!」
あ、あぁ‥そうだ。コイツらはこの仕事が初めてだったんだ。
そりゃいきなりあんなのを見ちまえば恐怖心が募るのなんて当たり前か。しかも爆破なんて起きてしまえば尚更だろう。そのうえ、相手が元秘密警察の奴らだった‥となれば、強いのも分かっているから今度は自分がどうにかなるのではないかと、不安にしか駆られないみたいだ。
ぎゅっと俺の服を握りしめてくる手が僅かに震えていた。
「‥‥。大丈夫だって。俺が必ず守ってやるから」
「‥はいっ」
絶対に俺から離れるんじゃねぇぞ、太郎。
辺りを警戒しながら目を凝らして敵がどう仕掛けてくるかを頭で考えていた時だった。
後ろの方でまた爆発が起きる音がしたではないか。
なんだ!?と思い、振り返ってみると、さっきと同じ場所からまた煙が上がっている。あそこは‥さっき坂崎が向かっていった場所だ。ということは、高見沢たちもあそこに居るんだよな?
三人とも無事なのか?今の爆破で三人に何かあったらどうする?
ヒヤヒヤした落ち着かない感情を持て余していると、煙が上がった場所から黒い影が遠くへと逃げて行くのが一瞬だけだったが見えた気がした。
追いかけようと思ったけれど、太郎が居るしで厳しいか。それに、坂崎たちがどうなったのかも気になるしで‥どっちを優先させるべきか。今ここに坂崎が居たなら、迷わず敵を追えと言ってくるだろうが。
「‥‥もう他の気配も消えてる」
一度目のあの爆破で逃げられたか。
サングラスを一旦はずし、もう一度周りをグルリと見渡してみるも、やはり何もない。そんな俺の様子をどこかの防犯カメラから見ていただろう棚瀬が無線で、「もう居ないですよ」と伝えてきてくれた。
「あぁ、分かってる。太郎も居るし、さっきの影も追いかけるのは諦めた」
「その方がいいですね。‥今、坂さんがそっちに向かってますので、桜井さんたちも戻って合流して下さい」
「ん?あぁ。‥なぁ棚瀬、なんか声が重たく聞こえるが気のせいか?」
「気のせいじゃないと思います」
「なんかあったのか?」
そう尋ねながら太郎と一緒に元の道を戻り始めていくと、ちょうど坂崎がこっちにやって来るところだったらしく、俺たちはそこで坂崎と合流する。
シュタッと向こうのビルからこっちの建物に降り立った坂崎が、俺たちのところまで来ると「警察と消防と救急が来てるから今日は撤退だ」と告げてきた。え、もう撤退?
クルッと体の向きを変えた坂崎が、もう一度来た道を戻って行こうとしたので、俺たちも坂崎の背中を追いかけていく。そこまで時間はかからない距離だったが、この時だけは妙に長く感じた。
爆破が起きた現場の方まで戻って来ると、下は大騒ぎ状態になってしまっている。そりゃそうだ。
「あ、高見沢さんも鈴木も無事だ‥!」
「そうだ‥な?」
高見沢の様子がおかしいぞ?
やっと二人が居る場所まで三人ほぼ同時に降り立った瞬間、俺と太郎はハッキリとした高見沢の姿を見て驚愕してしまった。
だって‥コイツ、目が‥
「‥‥。」
「た、高見沢さん大丈夫っすか!?」
「いや‥、もうこの目は使い物にならないよ」
「そんな‥」
心配する太郎とは対照的に、俺は何も言葉が口から出てこなかった。
だってまさか、高見沢がこんなことになるなんて思いもしなかったから。誰がコイツのこんな姿を想像してたと思う?ここまで痛々しいケガをしてしまった彼を見ているのが辛くなってきた。
だが、隣に居た正将はさほど大きなケガをしてないので、そこに関してはホッとしているが。
「正将は‥無事そうで良かった」
「あ、はい‥。一応高見沢さんが応急処置してくれたので‥」
「そうか」
自分のことより他人のこと‥か。
高見沢らしいといえばらしいが、さっき坂崎に多分なんか言われたんだろうな。
そんな坂崎は高見沢を抱えつつ「飛び移れるか?」と聞いていたが、高見沢はあまり自信がなさそうな様子だ。すると坂崎は、あんなデカい高見沢の体をパッと持ち替えては彼をお姫様抱っこ状態にしてしまっていた。
もちろんビックリしている高見沢だったが、俺も太郎も正将もすっごいビックリしてるからな。
「さ、坂崎っ!?やめてよ!恥ずかしいからッ!!」
「暴れるな。落とすぞ」
「それはイヤ!‥で、でもこんなっ‥!いいよ、俺頑張って移動するから‥!」
「バーカ。お前がこんな状態で俺たちと同じように移動してたら、間違いなくお前は滑って転んで落っこちるだろ。もういいから黙ってろ」
「‥‥はい」
坂崎の威圧的な目付きが高見沢を押し黙らさせたようだ。
普段だったら俺はここで思いっきり高見沢をからかってバカにするが、今のアイツのあんな状態を見てそんなことが出来る筈がなかった。なんて言えばいいんだよ‥。仲間がいきなり片目を失ったなんて知った時、励ましていいのかが分からない。
しかし、そんな俺の心情とは対照的に、高見沢を抱えている坂崎がこう言い放った。
「これからは俺がお前の左目の代わりになってやる。だからお前は俺から離れるんじゃねぇぞ」
「‥坂、崎」
この男は‥どうしてこうも格好いいのだろうか。
背は低いし、顔も怖いし、口は最悪に悪い、それから暴力的で仲間を見捨てるとか殺す発言だって平気で出来る奴なのに‥
なんで俺は今、坂崎の言葉で胸を打たれてるんだろう。高見沢に向けて言ったセリフなのに、なぜか俺がウルっときてしまっていた。
良かった、サングラス掛けておいて‥。見られたら絶対に高見沢はからかってくる筈だから。
そんなセリフを言われた当の本人は、顔を赤くして口元を固く結びつつコクンと頷くのが精一杯だったようだ。右目からは今にも溢れそうな涙が、流れたくないと抵抗している。
「いいか、ただし鈴木が一人前になって、俺たちの足を引っ張らなくなった時から高見沢の左目の代わりは鈴木に任せる」
「えっ‥!?僕に‥っ?」
「二人一組にした意味をもっと深く知れ。お前たち四人は先輩と後輩という関係ではあるが、これからは相棒として仕事をこなしていくことになる。時には二人で仕事に行って貰うし、今よりもっと二人で居る時間は長くだろう」
坂崎はずっと先のことを見ている。
俺たちが思っていることより、ずっと先の未来を見据えている。
「いいか、鈴木?分かったよな?」
「は、はいっ!僕がいつか必ず高見沢さんの左目になりますっ!!」
「よし、よく言った。おい、桜井も吉田もただボサッと俺の話し聞いてるだけじゃダメだからな?お前らも分かってるだろ?」
「はい!俺も早く一人前になれるよう、そして桜井さんから相棒と言われる日まで全力で頑張りますっ!!」
「太郎‥」
坂崎はもしかして、全部分かってるのか‥?
最後に俺を睨み付けてくる坂崎だったが俺も「分かってる」とだけ返せば、彼はその言葉を聞けて満足したのか、高見沢を抱えたまま元来た道を戻って行ってしまった。
すると太郎がポツッと「坂崎さんって、なんか不思議ですね‥」と呟く。
‥っと、その前に坂崎たち追いかけなくちゃ。俺と太郎と正将が坂崎の後をついていく形になって走り出す。
「不思議?」
「あんなに怖いのに、なぜだかあの人に着いて行きたいって思えるんです。‥それに、坂崎さんに早く認めて貰いたい。そして信頼されたいっす」
「僕もそう思います」
「そう、か。‥だよな。分かるよ、その気持ち。俺と高見沢もずっとそうだもん。チームとして認めては貰ってるけど、やっぱり信頼されたいよ俺たちだって。だけどアイツは絶対に人を信頼したりしない。そこに壁がある限り、俺たちは坂崎の心に近付けないんだ」
「なら、俺たち四人で坂崎さんの心に近付いてみせましょうよ!そんな壁、絶対壊してみせましょうよ!」
「そうですよ!やりましょうよ、桜井さん!」
「へっ?う、うん、まぁ‥やれるだけやってみるけど‥」
「さっきの坂崎さんめちゃくちゃ格好よかったっすもん!俺もいつかあんな格好いいセリフ、言ってみたいっす‥!」
「えー、太郎くんがー?ムリそう」
「鈴木お前酷いなっ!?」
「あれは坂崎さんだから格好いいんだよ。お前が言っても薄っぺらく聞こえるだけで感動はしないと思う」
「なにそれ!?お前めちゃくちゃ言うなぁ!?」
「お、おいおい、やめろって。坂崎が一瞬こっち見たぞ」
「うっ‥!」
「は、はい、すいませんっ」
見事コイツらも俺と高見沢の悪いところを受け継ぎ始めてしまったようだ。そりゃそうか、一ヶ月ほぼ毎日俺たちが下らんことで言い合ってるのを見てきてるし‥
やべぇ、坂崎に怒られる‥
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