SP21
殺し屋と別れてから、全力で四人が居るであろう部屋まで駆け付けたが、そこの部屋はもぬけの殻状態となっているじゃないか。
部屋に辿り着いた俺と棚瀬は、その光景を目の当たりにした瞬間に言葉を失いかけたが、一応は部屋の中へと入ってみせる。ベッドに触れると、まだ温かさが残っていた。連れてかれたとはいえ、まだ時間はそんなに経ってない証拠だ。
「クソッ‥!マジで上は許さねぇぞ!!こんな勝手なことばっかしてっから恨まれて当然じゃねぇか!!」
「このままだと皆さんも反逆者側に付いちゃう可能性もありますよ」
「そんなの分かってる!だからそんなことはさせない。アイツらの体は俺が取り返してみせる!!‥こんな腐った組織、俺が一掃してやっからな!」
「‥‥。ん?」
棚瀬が右手を顎に当てながら何かを考えていたようだが、それをやめて窓の外へと視線を移しかけた時だった。
「まさか‥。坂さん、アレだ!!アレですよ!!」
「あ?」
棚瀬が指差した方向に顔を向ければ、窓の外から見える光景。
それは、ワンボックスカーに何かが運び込まれているところだった。白い布かなんかに包まれて中身は見えなかったが、四つ運び込まれる光景は確認出来た。
間違いねぇ‥!
「来い、棚瀬ッ!!」
「はいっ!!」
窓枠に足をかけて、そのまま俺はバッとここから飛び降りてみせると、棚瀬も俺に続いてきてくれた。
シュタッと地面に降りたった途端に車が走り出してしまう。ちくしょう、逃がしてたまるもんか!絶対に捕まえてみせっからな!?
「その車待てぇええッ!!」
もう一度全速力で走り出してみせると、後ろから棚瀬が俺を追いかけては付いてきてくれている。脚をケガしたとはいえ、俺の全速力をほぼ後ろでピッタリ引っ付いてこれているからコイツは凄い。桜井と高見沢じゃまずムリだからな。
「おい、あれってもしかして‥」
「マジか!?また坂崎と棚瀬じゃねーか!?アイツらしつこいわ!」
俺と棚瀬が追いかけてきているのを知ったのか、車の速度が急にあがり始めやがった。クソッ、あんなに速く走られちゃ流石の俺でも追いつけなくなっちまう‥!
そう思っていると、後ろからシュパッとワイヤーが飛び出してきたかと思いきや、「坂さんっ!」と名前を呼ばれたあとには棚瀬が俺の体をガバッと抱え込んできた。
「こっちのが速いッ!」
「そうだな」
ワイヤーは、逃げるようにして走っている車の後ろにバチィッと固定されたのを確認すると、棚瀬はそのまま一気にワイヤーを縮めていく。
そうすれば物凄いスピードで俺たちの体は車の方までやって来れるから。
今頃車の中で「ヤバい!!」などと言って、慌てている様子なんだろうか。そんなに焦るようならやらなきゃいいことじゃねーかよ。
「いいか棚瀬!俺は前から、お前は真上からいけ!!そのまま一気に突っ込むぞ!!」
「言われなくともっ!」
そうそう、俺の考えてることなんて棚瀬には言わなくても分かるんだった。だからコイツとは仕事がやりやすいんだ。
車との距離も近くなった瞬間、ワイヤーを全て引っ込めさせた棚瀬。そこから俺らはバッと体を宙に舞ったあとに、俺はさっきの指示通りに車のボンネットのところにドンッ!!と降り立ち、棚瀬は車の真上に着地した。
その衝撃でグラついた車体だったが、んなもんどーでもいい。運転してた奴と助手席に座っていた奴が、俺を目にした途端に「やめてくれ!!」などと中から騒いでいるのが聞こえてくる。しかし、ここでやめるバカはいねーよな?
「坂さん、やっちまえ!!」
「言われなくとも‥っ!」
右手拳を上に持っていく仕草を見せれば、中に居た二人は心底ビビってしまっている。笑えるわ。
「オラアアァァアッ!!」
力を込めて拳を振り下ろしてみせると、フロントガラスがバキバキバキィッとひび割れる音が響いていく。まだ全力で殴ってないだけいい。次にもう一発やってしまうと、ガラスが粉々になって中に居る二人がケガしちまうからな。
施設とやらにまで案内終えるまでコイツらは無傷のままでいさせなくちゃいけねぇし。
完全に俺に屈した二人は、車を一旦停止させてくれた。お、優しいじゃねーか。なので急いで俺は助手席側のドアを開け、そのまま中へと飛び込んでいった。棚瀬は後ろから入っていったようだ。
「おいテメェら!!なに勝手に俺の仲間を連れてこうとしてんだよ!?誰が許可した?あぁっ!?」
「ち、違うんだ坂崎‥!」
「俺たちはただ言われて‥!」
「言われてなんだ?俺の許可もなく四人の体を持ち出して何をしようとしてたんだ?どこへ連れて行こうとしてたんだ?施設か?あの人体実験している施設だな?」
「も、もう勘弁してくれ坂崎!」
「吐け!正直に言わねぇとぶっ殺すぞ!?」
「ひぃ‥っ!そ、そうだ!!その施設に連れてって、人体実験させるつもりだったんだ‥!」
「くっ‥。お前らはまた同じ過ちを繰り返したいのか‥?」
上はどいつもこいつもバカしかいねぇのかよ。やはりこの案件が終わったら、上層部は全て排除させなければならない。親父に頼んで言っとくか。
すると後ろから急にヒョッコリ顔を出してきては「坂さんっ」と名前を呼んでくる棚瀬に驚いたのか、座っていた二人がまたもやビビってしまっている。
「やはり居ました。全員の体ありましたよ」
「ビンゴ。よし、お前ら、今すぐその施設に俺たちも連れてけ」
「お前らをっ!?」
「なんだ、文句あんのか?」
「い、いえ‥」
「だったらとっとと車出せ。いいか、これは命令だ。車を今すぐ出せ!」
「わ、分かったから!そんなに怒るなって‥!」
短気の俺に怒るなと言う方がもっとイラついて怒鳴っちまうんだが?しかし本当に車を出してくれたので、もうこれ以上は脅すつもりもなかったがな。
いつまでも前に居られないので、棚瀬と一緒に後ろの方へ移動してみせると、そこには四つの体が静かに横たわっていた。きっと薬で大人しくさせられているのだろう、呼びかけても全員誰も起きてはくれなかった。
本当に大丈夫か、コイツら?心配になってくるのは言うまでもない。
だが、コイツらはこのままだと一生この仕事が出来なくなる可能性のが高い。誰だって最初は夢を持って仕事を始めるもんだ。特にこの秘密警察なんて、誰にも知られないで仕事をこなさなきゃならない職業。言いたいのを我慢して仕事して、本来の職業を偽っては周りに説明している。
本当にやりたくなきゃやれない仕事だ、こんなの。
それに‥吉田も鈴木も、いきなりの仕事でこんな目に遭わされちゃあな‥。この秘密警察という仕事に後悔を持って欲しくない。
「なぁ棚瀬」
「はい?」
「もしコイツらが‥完全に復活するんだとしたら、人体実験をさせてみても構わないと思わねーか?」
「えっ?本気で言ってるんすか‥?」
「中途半端に治るのであれば俺はコイツらを渡すつもりはない。ただ、実験が確実に成功するとすれば俺は施設に委ねていいかもしれないと思っている」
「‥‥。俺は坂さんの判断に従います」
「違う、お前の意見を言え」
そう促してみせれば、棚瀬は一瞬だけ顔を歪めながらも自分の思ったことを口にしてみせた。
「俺は‥本人たちの許可なくそんなことをしてもいいのか?って思うんすよ。だから今、奴らが秘密警察と政府を狙ってるんじゃないんですか」
「それはそうだな」
「もし失敗すれば、この四人だってあっち側につく可能性もなくはないですし‥。正直に言って、俺はあんまり賛成したくないです」
「そうか」
「だけど坂さんの言う通り、確実に実験が成功するなら俺だって施設に委ねますよ。着いてから施設の人間と話し合いましょう?」
「ったりめーだ。コイツらなんかを殺人兵器や不死身なんかにしてたまるもんか。人間は人間のままじゃなきゃ‥」
そうこう話している内に車が停まったので、どうやら目的地に着いたらしい。
車から出る前に、棚瀬に頼んで無線を繋いで貰った。
「俺が合図したら‥‥だ。分かったか?」
その後に「了解」という声がいくつも続いた。
さて、ここからだ。この施設によってコイツら四人の命運は変わってくる。
車から降り、俺たちは施設の中へと入っていった。
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