秘密警察-Secret Police- - 33/39

SP29

「さっくらいさ~ん!」

「ん?」

ワイヤー使って一瞬でこっちに来てくれた棚瀬がシュタッと俺の隣に降り立った。

太郎と一緒になって相手と戦ってる最中だったが、棚瀬が入ってきたことにより戦いが中断してしまったようだ。そんな中でも棚瀬はマイペースに相手と挨拶を交わしている。

「久しぶりだねぇ!元気にしてた?」

「元気な訳ないですよ!棚瀬さんも私たちの体のこと知ってるでしょう!?」

「もちろん知ってるよ。それも踏まえて元気にしてた?って聞いてるの」

「‥体が元気なのには変わりないですけど、心はもうボロボロです。私だってこんな体になりたくてなったんじゃない」

急に悲しい顔を棚瀬に見せてくる相手。やはり俺たちと違って棚瀬は知っている奴なので、喋りやすいだろうし本音に近いことだって口にしてくれているのかもしれない。

敬語使ってるってことは棚瀬のが先輩だったってのが分かるし、一応仲は良かったっぽい雰囲気でコイツも喋りかけてるしで‥ここは俺たちは手出ししない方がいいか?

太郎に向かって少しだけ手で制すと、彼も意図を察したのかコクンと頷いては俺と一緒に後ろに下がっていく。

じゃ、あとは頼んだぞ棚瀬。

「苦しい?」

「苦しいですよっ‥」

「じゃあなんでこんなことをしているの?君はこんな惨いことを出来る子じゃなかったはずだ」

「私たちは望んでもいないのに体をこんな醜いものに変えられたんです!恨むべきはあの施設を作った政府と秘密警察の上層部なのは間違っていないでしょう!?」

「んー‥それも分かるよ。けど、だからって日本を滅茶苦茶にすることは違うと思うな俺は。日本を守るべき者が敵になってどうすんのさ?虚しくないの?」

「もう道がなかったんです!私たちに出来る復讐はこれしかなかったんです!」

「‥自分の意思で?それともアイツが提案してきたから?」

「自分の意思です」

「そう。なら手加減しないよ」

敵が自分の意思だと表明した途端、真剣そうな顔付きだった棚瀬がいきなりニコッと笑顔を見せたかと思えば、瞬く間にアイツは相手の目の前へと飛び出していった。は、速い‥

現役じゃないにしても、棚瀬は十分すぎるくらい外で仕事出来るはずなのに。それでも脚にケガを負ってしまったせいなのか、俺たちのようにあまり長時間動けないので中で仕事してるみたいだが。

‥いや、アイツはケガをしてても俺と高見沢なんかよりも強い。だが、こうは見えてもやはり坂崎に着いていくのが精一杯なのが今の彼の現状。精一杯?いや、精一杯って訳でもなさそうだが‥短時間で体力も削られてしまい、坂崎に着いていけないのが相当悔しかったようで、物凄く悩んだ末に出した答えが現役を引退することだったらしい。

ホントはもっと外でこうやって坂崎と一緒に仕事したいんだと思う。

「太郎、棚瀬を援護するぞ。ま、多分俺らに出番はないと思うがな」

「はいっ」

一旦二手に分かれて、棚瀬たちが居る周りの位置についてみせるも相手は棚瀬との格闘で俺たちが見えていない様子。しかも俺たちが苦戦していた相手だろうが棚瀬は簡単に奴を押してやがる。

実力は棚瀬のが上ってこった。相手も棚瀬との戦いで必死なせいか、さっきまでの勢いがなくなっているようにも見えた。今がチャンスか?

相手の動きを窺いつつ、太郎と目だけで会話をしながらタイミングを待っている。棚瀬が合図出してきたら俺たちがここで終わらせてやる。

にしても二人の動きがハンパなく速い。俺たちだって秘密警察の中では上位に入るくらいの実力ではあるが、やはり格の違いってもんを見せつけられてるな。

すると棚瀬がチラッと俺の方を見てくるので、今か?と思って飛び出そうとした時だった。

アイツは相手が放った拳を受け止めると「今でも坂さんが好き?」なんて問いかけていやがる。な、なんだ?

唐突なことだったので、俺も太郎も動くに動けないでいた。

「なっ‥急になんですか!?」

「いや~、敵同士になっても坂さんのこと想ってるのかなー?って」

「そ、そんな訳‥っ」

「そんな訳ないって?そんな顔してないじゃん」

すると棚瀬は相手が着けていた黒いマスクをスルリと取ってしまい、奴の素顔を晒していた。口許が見えなかったからアレだったが、素顔は‥正直に言ってやっぱり可愛かった。犯罪者になっちまうのはもったいないくらい可愛い。

向こう側に居た太郎もほけーっとしながら彼女を見つめては見惚れているようだ。おい、見惚れるのはいいが惚れるんじゃないぞ。そう目で合図を送ったつもりだが、今の太郎には見えていなさそう‥

そんな彼女は取られたマスクを「返せ!」と言いつつ棚瀬が右手に持っているマスクを奪い返そうと腕を伸ばしていたが、棚瀬がまたもや急に彼女の顎に指をかけては「こっちのが可愛いのに」なんて口説いてる‥ようなセリフを発している。アイツ‥‥

「っ‥!」

「こんな不気味なマスクやめたら?ねぇ、俺たちのところへ戻ってこない?」

「もう私がそっち側に戻れる訳っ‥!」

「うん、まぁそうだよねぇ。‥じゃあさ、罪償う為にも俺の彼女になって?」

「えっ‥!」

「お前はずっと坂さんしか見えていなかっただろうけど、俺はいつもお前のこと見てたんだよ。‥知らなかったでしょ?」

「た‥棚瀬さん‥?」

な、な、なんだコレはーーーーッ!?!?

俺たちは一体何を見せつけられてるんだ!?

か、体がプルプルする。無性にプルプルするっ‥!!

向こうに居る太郎に至っては、もう顔から火が噴き出そうな勢いで真っ赤にしてやがるのがこっち側からでも丸わかりだった。

そんな棚瀬にマジで口説かれてる相手はというと、棚瀬を見上げては顔を赤くしながら今にも泣きそうな雰囲気で首をふるふると横に振っては何かを拒否しているようだ。

「俺じゃ嫌?やっぱり坂さんのがいい?」

「それは‥」

「俺ならお前を大切にするよ。どんなに殺人兵器と言われようとも、この俺がお前をいつか元の人間に戻してみせる」

「で、でも‥っ。私、そんな‥棚瀬さんと‥」

「住む世界が違うって?」

「‥‥はい」

あーあー‥あの子泣いちゃうよ。

そんな彼女をあやすかのように、棚瀬は相手の頭を撫でてやっていた。そしてその後には彼女の体を自分の方へと引き寄せてはなんの躊躇いもなく抱きしめ‥‥

アイツ、マジで何をやってるんだ‥

そして太郎がもはや沸騰してる。

「棚瀬さん‥?」

「ちょっと傷付くこと言っちゃうけど、坂さんはお前なんか見ていなかったよ」

「わ、分かってますよ‥言われなくてもっ‥」

「だったら俺の彼女になってくれる?」

「棚瀬、さん‥」

あ、ヤバい。彼女、完全に棚瀬に心惹かれてるわ。クラッとしてるのが見てて分かったもん。

そんな二人は俺たちの目なんて気にもせず見つめ合っている。そして棚瀬が彼女の頭をグッと引き寄せてみせた途端、俺も太郎も流石に見てはいけないものだと察した。ちょ、ちょっと待てよお前ら‥っ!なにもこんな所で‥‥

‥ん?

なんだ、棚瀬が手に持ってるアレ‥?注射器?

不思議に思った俺が目を逸らさずにそのまま見続けていると、棚瀬はキスするふりをして持っていた注射器を彼女の首筋にプツッと刺してしまっていた。

そんな違和感に驚いた相手だったが、棚瀬に抱きしめられている状態なので暴れるにも暴れられないようだ。

まさか‥アイツ‥‥

「た、棚瀬さん‥っ、何をっ‥?」

「あ、ごめーん。ちょっと大人しく寝てて貰おうと思って」

「あ‥ぅ‥ッ」

「大丈夫、すぐ効き目は出るから。ついでに寝てる間に襲おうだなんて思ってもないから安心してね?別にアンタのことなんて愛してないから」

「この‥っ、やろぅ‥っ!」

「誰が犯罪者相手に恋愛感情抱くと思ってんの?つーかアンタのことは昔からただの同業者としか思ったことないし、第一坂さん狙ってたのも金目当てでしょ?んっとに目障りだったんだよね~」

「貴様‥!うっ‥、く‥」

「本気で坂さんのことを好いて尊敬している俺や今の後輩四人にも失礼すぎるぞ、アンタらは。‥もう二度と坂さんに近づくんじゃねぇぞ」

「バカ‥な‥‥」

効き目が完全に体に回ったのか、相手は棚瀬の腕の中からズルリと落ちては地面へとゆっくり倒れていってしまった。

つーか棚瀬お前‥

怖えええぇぇぇええ!!!

超こえーぞコイツ‥!!なんなの今の!?

開いた口が塞がらないってこのことか!?
向こう側に居る太郎も、さっきと打って変わって顔を青くして棚瀬を見やっているというか相変わらずドン引きしている。

お前、このチームに入ってから何回引いてるんだろうな‥すまんな、こんな変人ばっかなチームで‥

結局俺たちの出る幕もないままアッサリと終わってしまった。棚瀬の立っている場所までやってこれば、彼は俺と太郎を見ながら「やだ、見られちゃってた‥!」なんて言いながら恥ずかしがってるフリをしている。

「この‥ド畜生‥」

「相手が女ならばこうやって仕掛けていくのも手ですよ!ほら、一発で成功したじゃないっすか!」

「お前、演技上手いんだな‥」

「でしょー?」

嬉しそうにしながら俺の言ったセリフをそのまま素直に受け取る棚瀬。‥だからコイツも坂崎も怖いんだ、色んな意味で。

すると棚瀬がどこからともなく縄みたいなもんを取り出すので、まさか‥とは思ったが「はい、コイツも亀甲縛りの刑!」と楽しそうにしながら寝ている相手を縛りかかろうとしていた。

「でもコイツ女だからなぁ‥ちょっと可哀想かな?まぁいいや、起きた時に辱め受ける顔も見てみたいし。ねぇ太郎くん、コイツの服剥いでくれない?」

「ほえっ!?」

「棚瀬ぇぇええッ!!」

「全部剥がないんで大丈夫っすよ!ちょっと食い込みが分かるくらいのレベルでいいんで!」

「なんでそんな微妙にエロティシズム残してるんだよ!有能か!!太郎、やれ!」

「い、いいんすか!?こんなことしても‥っ!?」

「この睡眠薬、強烈だからそう簡単には起きないからヘーキヘーキ」

「そういう問題じゃ‥!ここはやはり全て脱がせた方がいいのでは!?お、女の人の緊縛を目の前で見れるチャンスなんてそう滅多にないことっすよ!」

「やっぱ緊縛っていいよね~、分かってるじゃん太郎くん!」

「緊縛サイコーっす!」

「おう、緊縛サイコー!!‥‥じゃなくて!んなもんどうだっていいんだよ!!坂崎にバレたら俺たちフルボッコじゃねーか!?全裸はやめろ!」

「ま~たまた~!坂さんだって男だから喜ぶ‥訳ねーな、あの人は。本気で好きな女じゃないとムリか」

「アイツ、本気で好きになった女にはそういうことして喜ぶのかよっ?」

「さー?俺の知ったこっちゃないっす」

あっけらかんとしている棚瀬は、早速倒れて眠っている相手の服を太郎と一緒に何枚か剥いでは縛り付けていやがった。

‥あれ?俺たち、今何やってるんだっけ?

一瞬本気で訳分からんくなっている自分がいた。

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