秘密警察-Secret Police- - 6/39

SP5

次の日、昨日会えなかったボスに会うためにもう一度あの部屋へと赴くと、先に来ていた棚瀬が「あ、坂さん」と俺の名前を呼んでくる。

‥嫌な予感だ。

「ボスからの置き手紙ありましたよ。三ヶ月間、海外に行ってきまーす‥だそうで」

「あんにゃろぉおおお!!いっっつも仕事放棄して遊びたいだけ遊びやがってぇええええ!!」

「この調子なら多分、四ヶ月くらいは戻ってきませんねぇ」

「関口いいぃぃい!!帰ってこいやぁぁああああ!!」

あまりにも腹が立ったので、ボスのデスク目掛けて飛び上がると、そのまま勢い良く体に回転かけながら右足で思いっ切りかかと落としすれば、デスクからはドゴオォッ!という鈍い音を響かせた直後、ピキッと見事ヒビが入ったようだ。

あーークソッ!まだ腹の虫が収まらん!

それでもデスクにヒビが入ったんだから、これでヨシとするか。息を荒らげては怒りを露わにしている俺を見ていた棚瀬だったが、アイツは涼しい顔しながら「んなことしてたら弁証させられますよ」と呑気に忠告をくれる。

朝っぱらからパリパリとハッピーターンなんか食いやがって‥

棚瀬を無意味に睨んで数秒後。ドアが開いたので、誰だ?と思ったら桜井と吉田だった。二人が来たので、ギロっとした目付きで二人を見てしまった為に、吉田が思いっ切りビクついてしまっている。

お前がなんかした訳じゃねーだろ。

「おはよー坂崎‥。なに、いきなり睨んできて‥」

「あ?知るか」

機嫌が悪いので、何も喋りたくない。そうすれば棚瀬がボスが置いてったであろう置き手紙をピラピラさせながら、「ボスが海外出張に腹を立ててるだけでーす」と俺の現状を報告すれば、桜井も「いつものことか」とぼやく。

「さっきボスのデスク蹴ったくってヒビ入れてましたから、あんま近付かない方がいいんじゃないんすかねぇ」

「うーわっ、俺らしーらね。お前がやったことだから巻き込むんじゃねーぞ」

「‥‥ふんっ」

二人は俺のこんな状態をよく見てきているのでなんとも思わないだろうが、やはり吉田が桜井の後ろでちょこっと隠れてしまっているようだ。ビビっているのが一目瞭然。

怯えている吉田を心配したのか、桜井が「だーいじょうぶ大丈夫、こんな光景もすぐ慣れるから」と訳の分からないフォローを入れてきやがるし。こういうことを言われると、それだけでまた腹立たしくなってくるんだが。

イライラ度が増してきている俺を察した桜井が、「先にトレーニング場へ行っとけ」と吉田を逃がすみたいだ。桜井の言葉に従い、そそくさとこの部屋から脱出するかのごとく行ってしまった吉田。

「‥‥、」

「おい坂崎っ!吉田を付け狙うんじゃねぇ!アイツはまだ新人なんだから、いびってやんなよ」

「苛めるつもりはない。ただ、躾が必要なだけだ」

「ったく‥。んで、ボスはいつ戻ってくんのさ?」

棚瀬が食べているハッピーターンを勝手に一つ貰っては口の中に放り込んでいた桜井は、ボスが置いていった置き手紙に目を通している最中。読み終えた後、「三ヶ月‥てことは、四ヶ月くらいか」と棚瀬と同じセリフを吐いている。

手紙を読み終えた桜井は、もう一つハッピーターンを棚瀬から貰い受けると、俺を見ながら「ボスが居ないのはいつものことじゃん」と言ってくるが‥

「いつもこんな調子じゃ困るって言ってんだよ!‥で、高見沢は?」

「さっき正将と一緒に来るって連絡あったから、そろそろ来るんじゃねーの?今日仕事入ってるっけ?」

「お前らは吉田と鈴木の指導してればいい。今日は俺だけで行ってくる」

「三人である仕事しなきゃいけない日はどうすんの?アイツらをまだ連れてく訳にもいかねーし、第一俺たちにまだ付いて来れないよな」

「そん時は棚瀬に任せるから、それはそれでいい。一刻も早くあの二人を戦力にさせたいからな」

「でもムリさせすぎちゃダメっすよ?あの子らもあーんな厳しいトレーニングばっかしてると泣いちゃうと思うんで」

ぢゅーーと野菜生活を飲んでいる棚瀬がそんなことを口にしてきた。まぁ、それは分かってるが‥。あのトレーニングは尋常じゃねーからな。

俺の気分もなんとか落ち着いてきた頃、ようやく高見沢と鈴木のお出ましのようだ。

「おっはよー」なんて軽い挨拶をしてくる高見沢に対し、鈴木の方はえらくかしこまって「おはようございます!」と丁寧にお辞儀までしている。すると桜井が、「お辞儀なんてしなくていいから」と右手を横に軽く振りながら笑ってみせると、鈴木は「えっ?」という表情に変えた。

「ですけど‥今までは先輩に対してこうやって‥」

「いーのいーの、うちら堅っ苦しいのは基本的にナシだから。坂崎が嫌がるんだよ」

「そうそう、はよーざいまーっす!みたいな軽い挨拶くらいでいいよ」

「え‥?じゃ、じゃあ‥明日からはそんな感じで‥頑張ります」

うろたえている鈴木だったが、俺と目が合った瞬間、やはりキョドッてしまっていた。まだ慣れないのはしょーがない。

高見沢が桜井に吉田はどこかを尋ねると、吉田はトレーニング場に居ることを伝えれば、鈴木も先にそっちへ行っとけと高見沢が命ずるので彼はそのままここから出て行ってしまった。

で、残ったのはいつものメンバー。

別に何かを話し合うとかではないけれど、よく四人で雑談はする方か。

「ボスの奴、また海外旅行だってさ」

「えー!またぁ?いいな~俺もたまには長旅したーい!」

「バカ言うな、テメェにはまだ早い」

「んだよー‥。俺らだって文句言わず仕事してんのにー!」

文句ばっか言ってるじゃねぇかよ‥!

三人でくだらないことを喋っていると、棚瀬が急に真剣な顔付きで「あ、そうだ‥」と何かを思い出したかのようにカタカタとパソコンをいじり始める。なんだ?

「あー、あったあった、コレだ。三人とも、ちょっと見て下さい」

「ん?」

画面に表示された一枚の画像。

そこには、何やら怪しい影が三つ映っていた。

コレは‥

「さっき監視カメラの映像をチェックしてたんですけど、総理官邸の前でウロつく奴らが居たんですよ。でもコイツら、何もせずにどっか行っちゃって‥。動きが明らかに只者じゃないんすよ。俺の勘違いならそれでいいんですけど、なーんかどうにも引っかかるんですよねぇ」

「映像ないの?」

「ありますよ。ちょっと待ってて下さい」

画像を引っ込め、フォルダの中からその三人が映っている映像だけを切り取った動画が出てきて、再生する画面に切り替えた棚瀬が「コレです」と呟きながら、再生ボタンをカチッと押す。動き始めた映像を眺めていると、そこに突然現れた三つの影。

いや‥ちょっと待て、今の動きはなんだ?一般人じゃねぇぞ!?

桜井も高見沢もその動きにビックリしていたが、こんな動きを出来る人間なんてそうそう居ない。鍛え上げられた俺たちと同じ動きをしている。

「こんなの俺たち秘密警察くらいしか出来ない動きだぞ!?」

「しかもムダな動きが一切ないし、速い‥。他の精鋭班の奴らか?」

「ちょっと待ってよ桜井、だとしたら俺たち警察の中に総理を狙ってる奴らが居るってことなの?」

「可能性はなくはないだろ」

「だとしたら俺たちがクビにされちまうレベルだろコレ!?俺ら、警察に紛れた不満分子を片付けるのも役目なんだぞ!?見抜けていなかったとしたら、どうなるんだよ俺たち‥!」

「ボスが居なくて良かったな‥」

「うん‥。ボスが知ったらヤバかったかもしれん‥」

どうなんだ‥?他の精鋭班に俺たち以外三人だけのチームなんてあったか?

だけど、この動きは明らかに訓練された動き。俺たちが迂闊に触れてはならないようなものだとなんとなくは察知出来た。

しかしこのことはあまり外部に漏らさない方がいいか。もしかすると、俺たち秘密警察の中に裏切り者が紛れ込んでるのかもしれないから、こればっかりは俺たちで片付けるしかないのかもな。

「坂さん、どーしますぅ?先にうちら秘密警察の奴らを洗いざらい調べ倒しますか?」

「個人情報の管理は持ってるのか?」

「個人情報は俺の担当じゃないんですけど、言えばくれると思いますよ」

「なら今すぐ全員分調べろ。怪しい奴がいたら俺と桜井と高見沢に情報渡せ。吉田と鈴木にはまだ早いからな」

「んじゃ、調べ終わったら皆さんのスマホにデータ送っときますねぇ」

早速俺の言う通りに動いてくれる棚瀬。コイツは仕事はめっちゃ早いから助かる。

桜井と高見沢に顔を向ければ、二人も真剣な表情で俺からの指示を待っていた。

「いいか、このことは絶対誰にも漏らすなよ。‥俺の勘だが、嫌なことが起こりそうなんだ」

「俺たちはどうすればいい?」

「まぁ焦るな。まずは俺から動き始めるから、情報を手に入れたらお前たちも加われ。お前たちは今、何よりも吉田と鈴木の教育に専念しろ。あの二人は戦力になるはずだ。しっかりと面倒みてやるんだぞ」

「あぁ、分かった」

「じゃあ俺は今からこの場所に行ってくる。何か怪しいもんがあれば、すぐ報告するから」

「了解」

それぞれの役割を与えさせれば、俺はスーツから私服に着替えてここから出て行くだけ。棚瀬はもちろんあの部屋に残ったまま、何台ものパソコンとのにらめっこ。桜井と高見沢は新人二人の教育につき、吉田と鈴木に一刻も早く成長して貰わなければならない。

「‥‥、」

あの三つの影の動き‥俺は知っている気がする。

胸騒ぎが落ち着かないまま、俺は総理官邸へと向かった。

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