SP6
怪しく動いていた三つの影が居た場所にようやく到着するも、特にこれといった異常はなし。
見渡したり、何か落ちていないかをチェックはしたものの、やはり何もない。‥もしかすると、今回はただの下見だったのか?
無線で棚瀬を呼び出し、場所は本当にここで合ってるのかを尋ねてみるも、影が居た場所はやはりここらしい。んー‥今回は収穫なさそうだな。
まだ昼間な為、自分もあまり怪しまれないようにしないとならないので長居は出来ない。さて、どうしたもんか。
無線で繋いでいる棚瀬が「多分何もないと思いますよ」と伝えてくるので、仕方なく退散することにした。
「そっちはどうだ?調べ終わったか?」
「はい、さっき終わりました。でも、こっちも特に誰か怪しい奴が居る訳じゃなさそうなんですけどねぇ‥。全員の生い立ちを漁りまくったんですが、誰もこの組織を裏切るような奴はいなさそうっす」
「まだ調べ切れていない裏の情報もあるんじゃねーの?」
「それも踏まえてかなーり調べたんですけど、別にだーれもそんな奴はいなくて。‥坂さぁん、俺あんまこの組織を疑いたくないんですよぉ」
「んなこたー分かってる。俺だって内部に諜報員がいるだなんて思いたくない。けど、可能性はなくはないからな」
「まぁそうですけどー‥」
「俺の勘が当たってればだが、アイツらはもしかすると‥元秘密警察だった奴じゃないのか?」
「元‥?」
「棚瀬、お前も知ってるはずだ。よく思い出せ、あの機敏な動き方」
「えっ?んーーー‥。また後で映像観直してみますね。ちょっと他にもやることがあるんで」
それじゃ、と言われた後に無線がプツッと切れた。勝手に消しやがって‥
「‥‥。」
さっき棚瀬に話した通り、あの影は俺の推測は元秘密警察の奴ら。だけど、本当にそんなことがあり得るのか?だとしたらアイツらは今まで‥
流石の俺でも考えたって分からないこともある。特に今回のこの件については俺自身も頭が全くついていけてない。
果たして解決の糸口はあるのか?
。
。
。
「違う!脚の上げ方がなってない!もう一回!!」
「はいっ!」
「そうじゃないって言ってんだろ!!使い方が悪い!道具が壊れる!!」
「は、はいっ!」
おー、やってるやってる。クッソ厳しい練習を。
トレーニングで先輩が後輩に向かって怒鳴ることは当たり前。俺も桜井と高見沢をみるとなった時、ぶっ倒れるくらい練習させてたからな。そうじゃなきゃ俺たちの精鋭班には入れない。
先輩二人も散々俺にしごかれたから、後輩にこれくらい当たるのはフツーだろう。むしろあの二人は俺よりも心が優しい分、まだまだ見てて指導も甘い気がするが、奴らなりの教育なので俺は黙っていよう。
トレーニングしてる最中の吉田にそっと近付き、気配を全て消しては彼の背中までやってくると、桜井と目が合ったので俺が今から何をするのかを合図すれば、桜井は表情は作らずに目で返答をする。
桜井の言う通りに頑張っている吉田は未だ俺に気付きもしない。こんなガラ空きじゃすぐ死ぬぞ。
背後に回っていたので、俺の足をそのまま吉田の足首に引っ掛けると、彼は「へえっ!?」と変な声を出した瞬間、フワッと体が宙に浮いた。その時を狙い、吉田の胸倉を掴んでしまえば、そのまま彼をドカッと地面へと叩きつけてみせる。
完全に驚きを隠せていない顔がおかしい。クスクス笑っている桜井に、この今の様子を眺めていたであろう鈴木がビビってしまっているようだ。
「あっ‥つてててて‥」
「吉田、そんなんじゃ敵に殺られてるぞ」
「は、はい‥」
地面に押し付けていた吉田の体ではあったが、俺が立ち上がると仰向けになっている彼に手を差し伸べ、グイと体を起こしてやるだけ。
「太郎、ホントにさっき坂崎の気配に気付かんかったのか?」
「は、はい‥。全くなんにも気付きませんでした‥。あんなに気配を完璧に消せるなんて‥流石です」
「お前もアレくらい出来ないと俺たちには付いてけんぞ。ほら、練習頑張るぞ」
「はい!!」
最高の返事をしてくれる吉田。ほら鈴木、ボサッと見てないでお前も練習しろ。また後でお前にも構ってやるからよ。
こんな感じで暫くは俺がちょっかい出しては新人に痛い目を負わせて、体で覚えさせるようにしていると、ようやく先輩二人に余裕が出来たそうな。その頃を見計らい、二人には俺の方へ集合して貰った。
話すことは例の件。
「さっき総理官邸の前まで俺も見に行ったが、特に何か怪しいもんが置かれたりはしていなかった。棚瀬も組織の奴全員を調べ終わったみたいだがこの秘密警察内には誰も該当しないようだ」
「え?じゃあ誰が‥?」
「俺の推測にしか過ぎんが、あの影は‥多分、元秘密警察だった奴‥かもしれん」
「そうか、元か!だったらあの動きをしていても不思議じゃねーよな」
桜井も高見沢も少しは納得したような反応。
しかし、高見沢が「でもなんの為に動いてたんだ?」という質問にはまだ答えられなかった。目的が俺にも分からんからな。
「さーな。それを今から調べていくんだからちっと待ってろ」
「はーい」
「お前たちはとにかく吉田と鈴木の教育に専念しろ。一ヶ月後には五人で仕事していたいもんでね。‥見ていてどうだ?」
「うん、正将の奴も飲み込みは早いから心配ないと思うよ。まだ初日だから一応様子見はしてるけど」
「そうだなぁ‥。さっき坂崎に後ろ取られちまったもんだから、そっちの訓練もさせた方がいいかもな。でも太郎も教えたことはなんとかクリア出来てるし、心配はないよ」
「なら良かった。お前たちの指導の仕方も俺はきっちり見てるから、変なこと教えたりすんなよ?分かったか」
「うっ‥」
「わ、分かってるっつーの」
俺がコイツら二人を監視しているという発言を受けてから、桜井も高見沢もすっげー嫌そうな顔をしやがった。そりゃあお前らも初めての教育なんだから、間違ったこと教えてたらダメに決まってんだろ。
ま、せいぜい後輩の前で恥だけはかかないように気をつけるんだな。
トレーニング場から出て行き、もう一度外へと出かける。これはまた別の案件だ。‥の前に、昼でも食っとくか。
棚瀬を呼び出し、外で何か食おうってことで街をウロついてる最中。さて、何を食おう。まぁいいや、棚瀬が行きたいとこで。俺は付いていこ。
黙って付いていけば、棚瀬が「ラーメン食べたぁい」と言い出したので、見つけたラーメン屋に入っていった。たまたま見つけた個人店だったので、味に保証は出来そうにないが。
一番隅のカウンターに座ってしまえば、棚瀬が左腕に着けている幅が五センチほどの簡易パソコンのような機械を見ては後でやる仕事のチェックをしていた。簡易とは言っても、フツーのパソコンとやれることはほぼ一緒らしいから侮っちゃいかんけど。
「はい、塩と豚骨お待ちぃ」
「ほら棚瀬、ラーメンきたぞ」
「あ、はーい。ありがとうございます~」
塩ラーメンを棚瀬に渡し、俺は豚骨ラーメンを自分の前まで寄せてはそのまま食らいつく。ん、美味い。棚瀬も「おいしー」と呟いていたので、この店はコイツのスマホに入ってるグルメのメモ帳に追加されるんだろう。
「ねぇ、坂さん。あの映像観直してみましたよ」
「どうだった?違和感なかったか?」
「‥‥。一瞬、あれ?と思ったんすよ。でも俺の勘違いじゃないかなって‥。だってそんなのあり得ませんから!」
「俺も今だって疑ってる」
「もし本当だとしたら‥あの人らが生きてることになりますよ‥。でもそんな考え、バカげてるとしか思えなくて」
神妙な面持ちをしてるくせにラーメンを食べる箸は一切止まらない棚瀬。まぁ麺がのびるから俺も食ってるけどさ。
ものの数分で食い終わり、会計は食券だったので食ったらサッサと店から出てきた。すると棚瀬が「甘いもの食べたーい!」と元気な声でうるさいので、近くにあったドトールに入っていったが‥俺何してんだろ、コイツと。仕事がまだお互いあるっつーのに。
俺はフツーにコーヒーを頼み、棚瀬はミルクレープとアイスコーヒーを頼んでいた。
ズズッと熱いコーヒーを胃に流し込み、ずっとあのことを考えていたけれど、棚瀬は考えるのをやめたみたいでミルクレープを頬張っては「おいしーっ!」と幸せそうなツラを見せてくる。なんか腹が立ったので、テーブルの下でコイツのスネをゴツっと蹴ったくると、棚瀬が痛みを我慢しながらも俺の座っていた椅子の脚を今度は蹴ってくって反撃してきやがった。
「なんすかぁ!欲しいなら欲しいって言えばいいのに!」
「ちっげーよバーカ!!おめーのその顔がキモいんだよ!」
「なんなんですか!一口あげますよ!?ほら、あーん!」
「いらねーって‥」
言ってるだろ、と言いかけたが、棚瀬がフォークを俺の口の中にガボッと入れてくるので、店の中で吐き出す訳にもいかないから黙って食うしかなかった。
もくもくとミルクレープを食いながら睨みつけているにも関わらず、コイツは涼しい顔して持ってきていたノーパソを開いては俺のことなんてガン無視してきやがる。この野郎‥ここコイツに奢らせれば良かったわ、ムカつく。
アイスコーヒーを飲みつつ、棚瀬はキーボードを片手で叩いてはエンターキーをターンッと押せば、今度は難しい顔をして画面とにらめっこ。まぁいいや、また今度なんか奢らせよ。
今何時だろ。ポケットにしまってあったスマホを取り出そうとしたが、懐中時計の方に手が当たったので、まぁいいやと思いそっちを手に取って時間を確認してみると、もう14時半を回っていた。やべ、ゆっくりしすぎた。
慌ててコーヒーを全て飲み終え、棚瀬に「行ってくるわ」とだけ告げ、ここでお別れしようとしたら、いきなり「懐中時計」と言われた。
「あ?」
「また改良しといてあげます」
「そうか、ならお前に預けとくわ」
「今度はそっちの懐中時計の方にもデータ送れるようにしておきますね。知られちゃマズいような情報とかは特にそっちに送りますんで」
「分かった。壊すなよ」
「壊したらすんませーん!」
「‥‥、」
掌をこちらに向けている棚瀬に対して、持っていた懐中時計をポンと手渡しておく。
さて、またどんな機能が追加されるのやら。楽しみにしてるぜ。
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