「タカミザワ‥」
「ん?」
「‥これ、を捨てて‥」
サクライが首から外したのは、指輪がチェーンで繋がっているネックレスだった。大きく光る銀色の光を放つ石がとても綺麗で、高価そうに見えた。
戸惑っていた僕の手にギュッとネックレスを握りしめさせれば、「深い海の底へ沈めて」と頼んできた。いいのか?こんな高価そうな物を。
「‥まだタカミザワがくれた貝殻は渡してないから安心しろ」
「‥貝殻ならいつでもあげるよ?」
しかし、それからはサクライが喋る事はなく、僕の腕の中でガクッと力を抜いた状態でもたれかかってきた。
ちょっと疲れさせちゃったかな‥?
「ムリさせてごめんね」
気を失ってるサクライの頭を撫でていると、サカザキがやっと現れた。今までのいきさつを見ていた彼だったが、サクライがこんな風になっていたのには驚きを隠せない様子でいた。
サクライをサカザキに任せ、彼が支えて帰ろうとした時にサカザキが「ごめん」と謝ってきた。
「‥俺、こんな弱いサクライを見たの初めてかも」
「そっか‥」
「コイツ、両親が亡くなってから自分の弱い部分を出さなくなっちまったんだ。いつも強がって、全部一人で解決しようとしてた。だけどそこがサクライの凄いとこで、コイツほんとにどんな困難でも一人で解決しやがるんだよ。俺の手助けなんていらない位にね。
だからこそサクライには幸せになって欲しかった。家族とは言っても所詮血の繋がりはないし、結局王になるのは俺なんだ。でも、そんなの気にしてないって言ってくれるアイツに申し訳ねぇんだ‥。
父上もほんとは女遊びが激しい俺より誠実で紳士なサクライを王にした方がいいって言うくらい好かれてるんだぜ?家臣にも、家政婦にも優しくて身分なんて関係ないくらい明るい場所にしてくれたのはコイツだ」
「‥うん」
「だからサクライを弄んだあの女だけは許さねぇ。言い寄ってきたついでに俺がサクライに代わって罰を与えてやるよ」
口角を上げ、怪しく笑うサカザキだが、目は笑っていなかった。それだけサクライを傷付けられたのが許せなかったのだろう。
「それと‥ずっと言い辛かったんだけど‥俺さ、
相手がタカミザワだろうとサクライを傷付ける奴は絶対許さないから」
「‥それでいいと思うよ」
サカザキの今の言葉は本気だ。
きっと僕がサクライを傷付けたら、サカザキは本当に僕を許さないだろう。‥そんな事は絶対ないと思ってるけどさ。
幼なじみの二人の間にぽっと入ってきた僕は彼らの全てを知ってる訳でもない。もしかしたら、何も知らずに二人を傷付けてしまっているのかも‥。
サクライは勿論優しいけれど、サカザキだってそれなりに優しかったりする。こんなナヨナヨした僕だけど、ちゃんと見てくれている。
「‥もし、もし僕が二人を裏切ったり‥傷付けたりしたら‥殺してもいいよ」
「そこまでする?」
苦笑してくるサカザキに迷いなく「うん」と頷く。
僕だって本気だ。
「あ‥そうだ。サカザキ、ちょっと背中見て」
「ん?」
じくじくと未だに痛む背中の傷がどうなってるのかが知りたくて、長い髪を手で一つに束ね、サカザキに背を向けると「大丈夫か!?」と心配された。
「そういやぁお前、途中から痛がってたな。何があったんだよ?」
「サクライに術を掛けて‥本音を吐き出そうとして、怒りや憎しみを全部僕に当てて欲しかった。成功したんだけど、まさかこんな暴力的だと思わなくて‥」
えへへ、と困ったように笑えば、サカザキが「サクライに代わって謝るよ」と申し訳なさそうに謝ってくれた。大丈夫なのに‥。
「血出てるじゃん」
「その傷程度なら二日で治るから心配しないで。あと、サクライには言わないでおいて。きっと責任感じちゃうだろうし‥」
「分かってるよ」
眠っている彼の頬に手を持って行こうとした時、自分の掌にはさっきサクライから受け取ったネックレスが握り締められたのを思い出した。サカザキが言うには、この輝く石‥ダイヤモンドはかなりデカいらしい。僕にはちっちゃく見えるけどな‥。
でも、人間はこの指輪を貰うと喜ぶんだって。石ころ一つで単純なんだね。
「ふぅ。俺はいつこの指輪を渡せる相手が見つかるかねぇ?」
「サカザキは遊びすぎなんだ!もうちょっとサクライを見習え!」
「へいへい。ていうかその指輪貰ったら?捨てるなんてバカみたいに勿体ないよ」
「そんなに?」
「そんなに」
そうは言ってもサクライが頼んできた事だからな‥。僕はサカザキの言葉をムシして、誰にも見つからない場所へ持って行こうと決めた。
「記憶は消してやれないのか?」
「‥僕は魔女じゃないよ。多少の事は出来ても、そんな強力な魔術は使えない」
「見てるこっちが辛かった。サクライがあんなに泣くなんて思っても見なかったから。‥俺だってコイツの全部を知り尽くした訳じゃない。これだけ長くいても、お互いに隠し合っているなんてよくある事だ。だから‥サクライの弱さを見れてホッとしてるよ」
サクライは‥今までどれだけ完璧な男を演じてきたんだろう。
それからはサカザキと別れ、僕は海の城へ帰ればタロウに今日あった出来事を話した。人間ってもしかしたら神様以上に残酷なのかもね、って。タロウもサクライの事を心配してくれてるようで、僕としてはちょっと嬉しかった。
二人の城に住み込んでる使用人達に教えて貰った筋トレをしながら「うーん」と考え事をしていた。
「タカミー、頭に血が上るよ」
体勢を逆さま状態にして、棒に掴まって腕の力を付けたいが、海の中じゃ余り意味がないのに気付いた。二人からは筋トレなんか絶対やめとけと止められてるけど‥。
「タロー、もし‥もし僕がタロウを傷付けたり裏切ったりしたらどうする?」
「えっ‥?」
困惑してるタロウの顔を窺ってると、ゆっくりと口を開きながら喋り出す。
「‥俺は、タカミーがどんな事になろうとも怒ったりはしないよ。けど‥」
「けど?」
「一生人間として暮らすって言うなら俺は許さない‥かな」
「なんで?」
「‥‥タカミーがそんな汚れた人間になって欲しくないから」
僕は人間の嫌な部分を初めて他の人魚に話したかも知れない。二人が僕の家族や仲間に気に入られたのは、その嫌な部分が見当たらなかっただけで、もし二人が少しでも僕を嫌悪したりするなら、みんなは人間なんかを受け入れはしなかった筈だ。
もし、僕があの時‥二人を傷付けて一生人間になっていたら‥‥
考えただけでゾッとした。
さっきのサカザキの言葉が蘇ってくる。「絶対に許さない」と。それはきっとサクライも同じ考えだろう。
改めて僕はこのままの関係でいれて良かったと心から感謝した。
「でも、タカミーなら人間になってもそんな惨い事しないよね?」
「そ‥そうだね」
-言い切れる自信がない言葉に嫌気が差した-
*
ちょっといつもとは違う感じにしたかった
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