人魚の王子様 番外編 - 9/15

人魚の王子様 「殉愛」
(出逢って大分後です)

 

僕はサクライに呼び出され、いつもの場所へ来てみれば、海を寂しそうに眺めていた一人の王子様が立っていた。大丈夫かな?こんな喪失感を抱いてる眼、初めて見るぞ。

 

「サクライ‥どうした?」

 

僕が問えば、視線を海から外す事なく「あぁ‥」と呟く。質問の答えになっとらんぞサクライ。危なくないか?

海から体を這い出し、彼の隣に座る形となれば、サクライは顔を俯けてぽつりと喋り出した。

 

「随分前にさ、俺‥大事だと思える人が現れたって言ったよな‥」

「言ってたな」

「‥俺、その人に遊ばれてるだけだった」

「‥え」

 

ズシンとのしかかってくる言葉の重さは僕を襲う。だって‥あんなに嬉しそうに‥楽しそうに好きな人の事を話していたじゃん。何があったのさ?

 

「好きな人が出来た!」と照れくさそうに伝えてくれた時の顔とはまるで別人。あの無垢な笑みは何処へいった?

「何でそうなったの?」

 

恐る恐る聞いてみれば、切れ切れな言葉を上手く紡いでいくサクライの口。そこから吐き出る一言一言が信じらんないくらい生気を感じ取れなかった。

サクライの説明を聞く限り、その人はサクライが王族という事を利用して、贅沢な調度品や服、アクセサリーをタダで貰うのが目的だったらしい。しかし、サクライがそう簡単に手渡す筈もなく、困ってる所を好きだと嘘をついて彼に近付いた。

 

優しく、清楚で明るい人だったが、年が五つぐらい離れており、相手はサクライを子供としか見ていなかったし、好きでもないのだと。寧ろサカザキの方に好意を寄せており、その事実を知らされたのは昨日。

こんな酷い事をするのか人間の女という生き物は‥。

 

「俺じゃ‥ダメだったんだな‥‥」

「‥‥、」

 

掛ける言葉が見つからない。ここは優しく慰めるのか、そっとしておく方がいいのか。恋愛とかよく知らないから僕はどうにも出来なかった。

サクライがこんな状態になるなんて‥。

 

「‥‥‥許さねぇ」

「‥!?」

 

さ、サクライ‥?

どうしたんだ急に‥。

一瞬にして目の色が変わったぞ。

 

「お前、大丈夫か?おかしい‥‥」

僕が言いかけた時、後ろの方でサカザキがサクライを心配そうに見ており、声を掛けようとしたが首と手を振ってきた。

このまま僕に任せるつもりか‥?

 

サカザキside

 

サクライの事を知ったのは今朝だった。
昨日はアイツが部屋から出て来なかったから何があったかと思いきや、女にフられたくらいで落ち込むなよな。

‥純粋なアイツに言ってもムリか。本気で女を好きになり、人魚に恋をしていた時より生き生きしていたように見えた。

 

俺はああいう胡散臭い女が好みではなかったが、サクライが恋した相手だから応援しようとは思っていた。二人が引っ付くようタカミザワとも話し合ったり、色んな作戦を実行したりもした。

けれど‥今日、あの女が俺に言い寄ってきたのでおかしいと感じた俺が、女に問い詰めれば全ての事を吐いた。だけど事実を知って、サクライを捜した時には既に手遅れ状態だった。

 

見つけた時は隣にタカミザワが話を聞いてくれている姿を俺は岩肌に隠れ、その様子を窺っているしかなかった。そしてさっきタカミザワに見られたが、俺が慰めの言葉なんて掛けたらどうなるか分からない。

だから呼ばれそうになった時に、首と手を横に振り、サクライが落ち着くまでタカミザワに任せようと思った。

 

タカミーside

 

サカザキが僕に全て投げ出しやがったのを確認すると、再びサクライの方へと顔を向ける。

 

どうしよう‥。僕にアレが出来るかなぁ‥。

意を決し、僕は俯けていたサクライの顔を両手で持ち上げ、彼の瞳と僕の瞳と絡ませた。

 

「サクライ‥僕の瞳を見て」

「‥‥、」

 

覇気を失った彼の瞳が僕の視線を捉えた。

 

「大丈夫‥。力を抜いて‥うん、そう。いいよ‥全部全部吐き出して。僕に怒りや憎しみをぶつけてよ‥」

 

ふわりとサクライの頭を包み、僕の腕に抱かれる形となったサクライも、僕の背中に腕を回してくる。
そして僕が口を開こうとした次の瞬間‥

 

「、いッ‥!?」

 

じくりと背中に伝わる急な痛みに耐え、僕はじっと我慢する。この痛みの正体は‥サクライが僕の背中に爪を立ててるからだと思う。
なんて力だ‥。下手したら血が出かねない。

だけど、今サクライが僕に全てをぶつけている証拠だ。

サクライの頭をギュッと抱き締め僕は「辛かったよね‥」と呟いた。すると素直に頷いてくれた。

 

「あの女‥絶対に許さない」

「その憎しみを僕にぶつけて」

「ムカつく。ふざけんな」

「その怒りを僕にぶつけて」

 

何だろう‥。サクライの悲しみが僕の腕に伝わってきて、こっちも押し潰されそうになる。だけど、それを全て受け止める事を選んだのは自分自身。サクライの悲しみを取り除きたい。

じりじりと蝕む爪の痛みが心地良く感じてしまう程麻痺している。だって‥こんなサクライの姿見た事ないから。

しかし、爪を立てた部分は火に炙られたように熱く、益々力を入れてくる彼の指はこのまま体を貫くのではないかと思う程の強さに見えた。

 

「‥‥殺したいくらい憎い」

「っ‥、いいよ‥僕を、殺す勢いで‥ぶつかって‥ぁッ、きて‥」

「なら‥死ねばいい」

「‥そうだね。そんな奴‥死んじゃえば、いいよね‥」

 

あぁ‥僕があの女ならサクライはきっと殺しにかかる。これが全て彼の本音だから。サクライは優しい。でも、その優しさを纏ってしまっただけ自分の弱さや嫌な部分を隠してしまっている。

完璧な自分で居ないとダメだと思ってしまっているから。僕が惚れそうになるくらいの男だし、女性ならきっと彼を好く筈だ。

 

しかし、それを崩さなければサクライが本当に壊れてしまいそうだと悟った僕は、彼に術を掛けて本音を語って貰う。心の傷を少しでも癒やす手伝いをしたかったから‥。

 

「でもさ、本気で‥好きだったんだよね‥?」

 

腕の中で小さく頷く彼。

 

「その好きだった気持ちだけはサクライを裏切らないから‥。お前が愛した分、きっとそれに応えてくれる素敵な人が現れるよ。こういうのも経験になるんじゃないかな?‥恋とかよく分からない僕が言うのもアレだけど」

「でも俺はあの女が全てだと思った‥全てを教えてくれた‥」

「だったら次はサクライが愛した人に全てを教えればいい‥。振り向かないなら振り向かせるくらいの魅力を持って攻めればきっと成功するよ。だってサクライは紳士だもん!寧ろなんでこんな最高な男に惚れないかが分からない。

 

いつも言ってるけど、僕が女なら絶対サクライと付き合ってたと思う。‥今はサクライを支えるしか出来ないけど、お前が僕なんかより、愛した人を大切にして生きて欲しい」

 

ギリッと食い込む爪がゆっくり離れると、彼の腕が優しく僕を抱き締めてくれた。

 

僕の胸の中で泣きすがるサクライの頭をそっと撫でた。

 

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